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ホラ〜、東京タワーが見えない

見えなくなっちゃったんです、東京タワー。
さっきまで見えていたのに、
見失っちゃったんです〜。

道で声をかけられた。
赤いスカーフを頭に巻いた、
童話に出てきそうな姿の、
お婆ちゃんだった。


わたし、東京タワーだけを目印に、
歩いてきたんです。


今日は、東京タワーお休みなんでしょうかね?
でも、さっきまでは見えてたんですよねぇ。
それが、角を曲がったら、見えなくなっちゃったの。

それとも、
寒いから、土の中に引っ込んじゃったのかしら。
骨組みだけで、筋肉や脂肪がついてないので、
寒そうだな〜って、前から思っていたのよ。

ちゃんと栄養を蓄えずに、
みんなに長い間、電波を送り続けていたから、
骨だけになっっちゃって、寒くて、
悲しくて、いじけちゃったのかしら?

だから、私が行ってね、
少しは温めてあげようかなって。
ほら、おはぎ作ってきたの。

去年はおでんだったの。
喜んでいたわ〜。
だから、今年はおはぎなの。

でも〜、
初めから骨だけだったと、思いますよ。

あっつ、そうだったのねぇ〜、

う〜ん、
このお婆ちゃん、妙なことを言うけれど、
確かに言われてみれば、どうしてだろう?

発する電波がなくなったのでしょうかね?

僕は、いつの間にか、
お婆さんと一緒に、
ありもしないことを考え始めていた。

僕の頭の中のチューニングが緩んで、
周波数がズレたのかもしれない。


最近みんな、あまりTV観ないようだし。

そうなの?
じゃあ、何を観ているの?


YouTubeとか、って言おうとして、
脳内で電波が止まった。

頭の中で、
いつも使っている、
安心安全ノーリスクが売りの放送局提供、
「もっともらしいTV」
の送受信が断線した。

お婆ちゃんが障害物になって、
常識の電波が届かなくなったのかも知れない。


確かに、
僕は、何を観ようとしているんだろう?

TVやネットを見ているけれど、
いったい、
その中に、何があるのだろう?

安心があっても、
本当に未来はあるのだろうか?




僕の背中の方から、
藤井風の曲が流れてきた。

アンタとこのまま、おさらばするより、
…死ぬのがいいわ〜♪

いい曲ですよね〜、

風が止み、振り向くと、
赤いスカーフのお婆ちゃんはいなかった。


お婆ちゃんは、
私が創り出したアバターなのか、

あるいは、
ikkoさんの言う「まぼろし〜〜!」
だろうか、

で、なければ、
いわゆる、か、神様…、
なのか…、…、なのかぁ??


見上げると、
東京タワーが立っていた。

さっきから、
ずっとここに立ってますけど、何か?
わたしがこの街の神です!みたいに、
東京の真ん中でドヤって、
僕を上から見下ろし、
怪電波を送り続けている。

これを観ていれば大丈夫だよ、
ほら、

こんな番組がオススメだよ、
ホラ、

それに飽きたら、
ホラ、

ホラ、ホラ、…、

ホラ〜

を送り続けている。

ホラ〜



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