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【小説】 アダルトビデオマン! 【ショートショート】

 駅近くのマンモス団地に突如、頭バサミ怪人が現れて市民はパニックに陥った。
 ワハハ! と品性の欠片もない笑い声を響かせる頭バサミ怪人は、その強靭な頭バサミを用いて、街路樹や標識をバッタバッタと切りまくる。

「ウワーハッハッ! 次は何を切ってやろうか!」

 凶悪な刃先は容赦や情けを知らず、団地のA棟へ向かった。
 A棟の中には昼寝から覚めたばかでまだ避難支度すらしていない未亡人幸子36歳と、幼子の洋介3歳が取り残されているが、切りたい欲に塗れた切先は無慈悲にも団地の基礎部分めがけて突進して行くのであった。

 いよいよもうダメだ。このままでは、A棟は基礎ごと切られ、潰されてしまう。
 そう思われた矢先であった。
 頭バサミ怪人が基礎部分をざっくり行こうとしたその瞬間、ハサミの根本に一本のVHSビデオテープが投げ込まれ、頭バサミ怪人はその動きを止めてしまうのであった。

「むむむ! 俺様が切るのを邪魔するとは、何ヤツ!」

 団地のA棟の屋上から正義の笑い声が高らかに響くと、恐怖に怯えながら避難所へ向かう住民達が歓声をあげた。

「はっはっはっ! 私はアダルトビデオマン! いざ、覚悟!」

 屋上から飛び降り、空に揺れる黄色マントを器用に操作しながら、着地したのは頭がビデオデッキに改造された正義のヒーロー。

「アダルトビデオマン」

 なのであった!!

「ふん、何がアダルトビデオマンだ。この俺様が人間畜生共のセックス映像でやられる訳があるまい」

 頭バサミ怪人の言葉を聞き、アダルトビデオマンは鼻で笑った。

「ふん、浅はかなヤツだ。アダルトビデオ、つまりホンモノの「大人のビデオ」がどういうものか、思い知らせてやる!!」

 右手を突き上げ、ポーズを決めたアダルトビデオマンを前に、頭バサミ怪人は興奮状態になった。

「そっちがその気なら、こっちも手加減なしだ! ここで死ねい! えいっ!」

 太陽光を弾く鋭利な切先がアダルトビデオマンに遅いかかる!
 しかし、アダルトビデオマンは少しもひるむ様子はなく、腰に手を当てて必殺技を繰り出した!

「レッツ、再生!」

 アダルトビデオマンが頭のビデオデッキにテープを挿入すると、青空一面にこんな映像が映り始めた。

『はさみができるまで。工場見学資料ビデオ』

 はさみ工場の映像と共に、長閑なBGMと女声のナレーションが団地一帯に響き始める。

『こんにちわ。みなさん、はさみはおうちにありますか? 日頃の生活になくてはならない、ハサミ。洋裁用の江戸菊や握り鋏から、お手軽に買える工作用の鋏、カット用や左利きの方専用の鋏……多種多様な鋏は、今やなくてはならない生活必需品です。今日はそのハサミ達がどのようにして出来上がるのか、みなさんと一緒に見て行きましょう。では、さっそくハサミの原材料から紹介を始めたいと思います』

 その途端、突進していた頭バサミ怪人は急停止し、上空のビデオに心を取られてしまった。

『ハサミの材料となるのは刃の部分、それから持ち手の部分でそれぞれ異なります。刃と一体となっている物もありますが、そういった物をお持ちの場合は持ち手の部分の加工に注目してみてください。刃と同じ素材なのに、いくら強く握ってみても握っている手は切れません』

 頭バサミ怪人は腕組をしながら、戦闘も忘れて映像に集中し始めてしまう。

「確かに、俺様のハサミもアレと同じタイプだな……。素材や工程が一体どのように出来上がっていくのか、非常に気になる所だ。歴史を知れば俺様のルーツを知ることにもなるしなぁ」

 映像がハサミの素材の採れる鉱山を紹介し始めたところで、アダルトビデオマンの絶叫がマンモス団地に響き渡った。

「必殺! デスデッキハンマー!!」

 映像に夢中になっていた頭バサミ怪人に、地上三十メートルまで飛び上ったアダルトビデオマンの一撃必殺技が繰り出された。

「あっ、タングステンは知っているぞ! あれはサビにくいんだよ!」

 とても嬉しそうに映像にご満悦の笑みを浮かべる頭バサミ怪人の頭頂部に、加速エネルギーの加わった巨大ビデオデッキがめり込んだ。
 頭蓋が砕けた脳が破裂し、はさみは左右に吹き飛び、たちまちその身体は木っ端微塵となり、挙句爆散して頭バサミ怪人は亡き者となった。

 アダルトビデオマンは怪人が亡き者になったことを録画確認すると、腰に手を当てて台詞めいた口調で言った。

「アダルトビデオとは、学びたい大人のためのビデオである! 頭バサミ怪人……次に生まれ変わる時はその強靭な切断力で……悪との縁を「断ち切る」ことだな……さらばだ!」

 黄色マントをひるがえし、アダルトビデオマンは返却の空へと消えて行った。
 こうして、今日もマンモス団地の平和は守られたのである。

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