見出し画像

108話の恐怖が一冊に凝縮! 川奈まり子が刻む超密・実話集『一〇八怪談 飛縁魔』

首吊り、溺死…男たちの死の影に魔性の女あり…
「第一〇八話(跋)飛縁魔」より

一〇八怪談 飛縁魔(帯つき)

あらすじ・内容

『八王子怪談』で話題沸騰の怪談作家・川奈まり子が、日本全国から採話した108篇の恐怖体験談を綴る実話シリーズ第3弾!
・不可思議な出来事が絶えない千葉県北の家…「首洗い場跡の旧家
・江戸期の傑作怪談の故地で今も残る禁忌の真実…「累ヶ淵の沈黙
・池袋の超高層ビルで実際に起きた心霊現象の数々…「足音の所以」他
・徳島の港で頻発する転落事故の裏に怪異が…「誘い神
・前作に収録した、いわき市に出没する超危険な少年霊の後日談…「夏の子ども、ふたたび
・人形に憑いた恐ろしい怨霊と“現代の陰陽師”の対決…「夢の人形」―など収録!

著者コメント

 一〇八怪談シリーズは煩悩の数だけ怪異を綴ることが身上なので、たとえ前後編になっていても、前編か後編、どちらか1本だけでも、1本の怪談として成立するように工夫しています。
 この「誘い神」も、続けて読むと、第四八話の前編が序章、この後編が本編にあたる内容になっていますが、前編と後編はそれぞれ独立した怪談としてもお読みいただけます。
 また、これは今回の『一〇八怪談 飛縁魔』に限らず、竹書房怪談文庫の拙著すべてに言えることなのですが、「誘い神」の宮生さんをはじめ、複数の話に同じ体験者が登場しますので、お気に入りの登場人物を追いかけながら読み進めてみるのも一興かと……。
 既刊の本に収録した話の後日談もあり、過去作の登場人物にこの本で再会して、記憶を蘇らせながら前の話の続きを読むことになる読者さんもいらっしゃることでしょう。
 もちろん前作を読んでいなくとも大丈夫。
 これが初・川奈怪談という方も愉しめるはず、と思っております。

試し読み1話

第四九話 誘い神(後)

地元紙の記事によれば、富岡港で車ごと海に転落したのは県内在住の夫婦だった。
宮生さんは無線仲間Aと一緒に、引き揚げ作業だけでなく夫婦の遺体まで見てしまい、おまけに地元の漁師たちの会話から、海に人を引き摺り込む誘い神の存在を知って、何か恐ろしくなり、それからしばらく海に近づかなかった。
三日ほどして、Aから変な相談を受けた。
「夜遅うなるとな、水がゴボゴボいう音がどこからともなく聞こえてきて、気になるけん耳を澄ます……するとな、ゴボゴボいう奥ぅの方からの女の声がしてくるんや」
Aから真剣な面持ちでそう訴えられたが、「夢とちゃうん?」と宮生さんは笑った。
「夢なんじゃろうか……そうかもしれんが……」と、そのときはAも記憶が曖昧だった。
しかし、また数日すると、こんなことを言いだした。
「女の人が背中を向けて立っとるのが視えてきた。後ろを向いたまま近づいてきて、恐ろしゅうなって目が覚める。あれが、すぐそばまで来たら怖いことが起こるんやないか?」
Aらしくもない、と宮生さんは困惑していた。Aは昔から元気が取り柄でノリが良い、脳天気で明るいヤツだった。バイクとロック音楽が好きで、気が合った。
――だが、富岡港に行ってから三ヶ月後、Aは首を吊って自殺した。遺書はなかった。
それから間もなく、死んだAをはじめ地元の若者がよく行っていた美容室の女性経営者が自殺した。彼女は三〇歳前後の妙齢で独身。小粋な美人とあって、中には片想いして足しげく通う仲間もいた。そいつによれば彼女には自殺する理由などなかった。
おまけに彼女の美容室は件の港に臨む高台にあり、窓から正面に見える堤防では、よく釣り人が海に転落し、時には亡くなってしまうこともあったので――。
「誘い神にやられたんや」という噂がたちまち流れた。
そんなことがあってから一年ほど後、中学のときの先輩が彼女を助手席に乗せて、夜、車で船着き場に行ったところ、奇怪な事件に巻き込まれた。
先輩が彼女とイチャイチャするために船着き場に車を停めると、エンジンを切って間もなく、後方の闇の中からエンジン音が聞こえてきた。
そこでバックミラーで確認したところ、一台の車が飛びだしてきて、猛然とこちらへ迫ってくるではないか……。
慌ててエンジンをかけて横に避けたが、尚もぶつかってこようとする。
衝突する気なのだ。
それだけでもとても怖い。しかしさらに恐ろしいことに、その車の運転席には人影がなかった。誰もハンドルを握っておらず、ただ、助手席にはムンクの「叫び」のような――そう、かつてこの港から引き揚げられた車の助手席にいた男と同じ――凄い形相の男が座っていたのである。
彼女は悲鳴を上げて恐慌状態に陥った。先輩も歯の根が合わないほど震えていたが、謎の車に小突き回され、逃げ惑ううちに、陸側へフロントが向いたので、ハッと我に返った。
謎の車が進行方向にいない。逃げるなら今だ。思い切りアクセルを踏んで、船着き場から脱出しようとした。
しかし途端になぜかバックしはじめた。幸い、繋留用の杭に後ろのバンパーがガツンと当たって止まった。だが、あくまでも海に落ちようとするかのように、タイヤがギュルギュルと空回りし、エンジンを切っても、尚もその回転が止まらなかった。
そこで先輩は車を捨てて逃げる決心をした。襲ってきた謎の車はいつの間にか消えており、彼女を連れて無事に帰ることができた。
翌日、彼は起きてすぐに船着き場を訪ねた。
彼の車はバンパーに深々と杭を喰い込ませた無惨な姿で陽射しにさらされていた。昨夜のことが嘘のような、とても長閑のどかな朝だったという。

―了―

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

著者紹介

川奈まり子 (かわな・まりこ)

『義母の艶香』で小説家デビュー。実話怪談では「実話奇譚」シリーズ『呪情』『夜葬』『奈落』『怨色』『蠱惑』、「一〇八怪談」シリーズ『夜叉』『鬼姫』のほか、『八王子怪談』『実話怪談 穢死』『赤い地獄』『実話怪談 出没地帯』『迷家奇譚』『少年奇譚』『少女奇譚』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「現代怪談 地獄めぐり」各シリーズ、『実話怪談 犬鳴村』『FKB 怪談遊戯』『嫐 怪談実話二人衆』『女之怪談 実話系ホラーアンソロジー』『怪談五色 破戒』など。TABLOTOCANAで実話奇譚を連載中。

シリーズ好評既刊

108夜叉

108鬼姫

画像3



みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!