人間の狂気か、心霊の怪異か!身近に迫る恐怖『ヒト怖イ話 堕ちる首』(播磨龍次/著)著者コメント&収録話「おんなともだち」全文掲載
危険すぎる人が絡んだ恐怖
内容・あらすじ
人間の狂気か、それとも心霊の怪異か!
身近に迫る恐怖がここに!
怪異と狂気は紙一重なのか──心霊とサイコの狭間の奇妙な話を新進気鋭の播磨龍次が切れ味鋭く描き出す。
・駐車場にいたラジオを手にした奇妙な男。翌日同級生が行方不明になり…「ラジオと大男」
・離婚した男性が憂さを晴らしに行った夜の店で、妻そっくりのキャバ嬢に声をかけられ…「同級生だよ」
・人形遊びをしている幼い姪が奇妙なことを口走る「右にいる人」
・彼氏の家に初めて行った日、たまたま見つけたノートには幼い頃の自分の文字が…「なくした日記」
――など50話収録。薄暗い影を纏う隣人に付け込まれませぬよう。
著者コメント
1話試し読み
おんなともだち
営業職二年目の久保田さんは、真夏日の午後二時過ぎ、馴染みの古めかしい喫茶店に入った。
コーヒーとミックスサンドを注文し、遅めの昼食を食べる。
店の中はすいていた。二つ左隣のテーブルには、男が一人、女が三人座っていたが、ただならぬ雰囲気だった。
パンツスーツ姿の若い女が、テーブルに突っ伏して、泣き声を漏らしている。
その隣に男が座り、心配そうな顔で若い女を見ていた。
泣いている女の向かいには、少し年嵩の女が二人座っている。三人とも、職場の制服らしき同じデザインの青いジャケットを着ていた。
眼鏡をかけたショートヘアの方は、泣いている女の手にそっと手を重ねていた。
もう一人のロングヘアの茶髪の女も、眉間に皺を寄せて、心配そうにしている。
「彼は、わたしとケンカしちゃったせいで……」
泣いている女の声が漏れ聞こえてきた。
失恋でもしたのかな、と久保田さんは思いながら、ミックスサンドを食べ続けていた。
「ちょっとすみません」
泣いていた女はふらふらと立ち上がって、久保田さんのテーブルの前を通り喫茶店のトイレに向かった。彼女の化粧は涙で崩れていたが、顔立ちは端正だった。
彼女がトイレに入ったとたん、ショートヘアとロングヘアの女は、顔を見合わせて、くすくすと笑い始めた。
目の前の男は、怒りに顔をゆがめて、何かを言っている。なに笑っているんだ、と怒っているように見えた。
「あの子、彼の自損事故だと本当に思っているみたいね」
「警察も、私たちとの関わり、わからないよ」
女二人は、ニヤケ顔でひそひそと話している。
男は身振り手振りを交えて何かを言っている。だが、目の前の女二人は全く気にする様子はない。
男が大声を出しているように見えたが、久保田さんの耳には聞こえなかった。
トイレから、泣いていた女が戻ってきた。
二人の女は再び、憐れむような顔つきになった。
「つらいと思うけど、吐き出したいことがあったら、なんでも私たちに言ってね。電話でも、メールでもいいからさ」
ロングヘアの女が言った。
「私も、あなたの苦しみを、少しでも受け止めてあげたいと思ってるから。だって私たち、ずっとおともだちでしょ」
ショートヘアの女は、眼鏡の下を指でぬぐうようなしぐさをした。
うん、うん、と、泣いていた女はしおらしくうなずいていた。
なんなんだ、あの女二人は。さっきまでニヤニヤしていたくせに、友達ぶってるなあ。
自損事故、警察、私たちとの関わり……あの女二人が、泣いている女の彼の事故に関わっていたってことなのか。
「そろそろ、戻りましょうか」
ロングヘアの女が言うと、ショートヘアの女も泣いていた女と一緒にうなずいて、一斉に立ち上がった。
男がゆっくりと顔を久保田さんの方に向けた。
男の腰から下は、影のように真っ黒だった。
あっ、と久保田さんが驚いて、何度か瞬きしているうちに、男の姿は消えた。
女性三人は、各人で会計を済ませて、喫茶店を出て行った。
彼女たちの注意をひかないように、久保田さんはミックスサンドを夢中でかぶりついているふりをした。
ミックスサンドを食べ終わった久保田さんは、彼女たちのことが気になってしょうがなかった。なので帰り際、喫茶店のマスターに「さっきのあの三人の女性たちはいったい――」と訊いてみた。
「私は商売だから相手していますけどね。あなたは何も知らない方がいいですよ」
マスターからそう忠告されたという。
―了―
★著者紹介
播磨龍次 (はりま・りゅうじ)
兵庫県姫路市在住。心霊はもちろんサイコ的な話を収集している。霊より人の方が怖いのじゃないかと思える話を聞くことが増えてきたと感じているが、両方が融合しているような奇妙な話が好き。