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リアル呪術戦!現代に息づく呪いと神秘の怪異譚『現代異談 首塚の呪術師』著者コメント&収録話「転倒」全文掲載

「あれはイズナ使いだ…」

憑き物を操る見鬼に仕掛けられた現代の呪術戦。
首塚で行われていた驚愕の儀式とは?
――表題作「首塚の呪術師」より


内容紹介

異形・あやかしの類は人の強い想いに魅かれてやって来る。
想いこそが心霊現象や、念の異形といったものを生み出すのだ……。

・飲み会の写真で背後に写る生霊は自分を執拗に付け回しているネットストーカーの男で…「青い男」
・ある事故に遭遇してから視えるようになった女子高生が通学バス内で体験した恐怖…「紐」
・人間によって住み慣れた場所を突然追われたあやかし達の怒り…「井戸と楠」
・将門の首塚で祭壇を組み、怪しげな呪術を行う男。 男に目を付けられた著者は旧友を使い魔にされ、壮絶な呪術戦を仕掛けられる…「首塚の呪術師」 など、現代に息づく呪いと神秘の怪異譚全22話収録。 著者自身の戦慄〈魔〉体験!

著者コメント

 本文のまえがきにも記しましたが、私の書く「異談シリーズ」も、気が付けば五冊目の刊行となりました。編集さまより、第一作目に当たる「方違異談」のオファーが突然知らされ「えっ、そんな急にですか?」と驚かされたあの時から、既に五年もの時間が経過しようとしているのです。
 一体、何の力が働いたんだろうと考えながら、ふと思ったのは「方違異談」の発売月から間もなく開始された大手町の「将門塚」の改築工事でした。この話も本文で触れてはおりますが、タイトルとなっている挿話は「首塚事件」と自身では呼んでおり、過去に別の形で発表を行っているものの、その時点でまだ解決を見ておりませんでした。先の二つの不思議なシンクロは「あの事件をもう一度整理して再現してみろ」という啓示に取れ、前作「式神異談」の祈願式の際、編集さまに「首塚事件をリニューアルしたいのですが」と話を持ち掛け実現したものです。
 タイトルを見れば一目瞭然である様に、本書のメインと言うべき怪異の舞台は、怪談界の大御所H氏に「一〇〇パーセントの場所」と言わしめた、あの有名な「将門首塚」であります。故に挿話に対して過大な脚色や誇張は何を招くか判りません。ある意味、普通の怪談とは桁違いに危険な試みとも言えます。
 但し、同時に怪談・怪異を追い求め綴る者は、ある段階に達すると、桁違いの「本物」に遭遇して、こうした選択を強いられる場面があるのではないかとも考えます。著作「物忌異談」の冒頭に記した様に「この世に特別な人の子などいない」のです。そして「覚悟を決めて来る者」だけが見込まれて生き残る。私はそう考えます。(心霊スポット探索など、無謀な事をしろという意味合いではありません)この話を起こす際に、私は神田明神内にあります「首塚保存会」から旧将門首塚の瓦を一枚頒布して戴き、パソコンデスクの上に御札ともどもお祀りして「行き過ぎたものがございましたら、何なりとお叱り下さいます様に、間違いがございましたら、なんなりとご指摘下さいます様に」と拍手を打ちつつ、執筆を進めました。
 こうして「首塚の呪術師」の挿話は書きあがったのです。
 原稿を仕上げて編集さまに渡した時点で、筆者の身に何も起きていないという事は「諾」と見なされたのでしょう。後はこの体験談を手に取って下さった読者の皆様がどの様に解釈してどう判断されるかという事になるのかも知れません。
 怪異を綴る方のスタンスはそれぞれかと思いますが「話に敬意をはらう」これはとても重大な要素であると、幾多もの怪異談を綴って来た経験が訴えます。何故ならそれは「話が話を呼んで来る」からなのです。あちら側の住人は、そうした書き手側の姿勢を心構えを、じっと見続けているのかも知れません。
 また、二〇一五年より筆者と狼信仰や山岳信仰のフィールドワークを共にし、異談執筆のよき協力者であり助言者でもありました山梨県丹波山村民俗資料館の学芸員・寺崎美紅さん。彼女の存在は私にとってかけがえのないものでした。この場を借りて、篤く御礼を申し上げる次第です。
 その寺崎さんが復興された丹波山村の七ツ石神社に、実は将門伝説が存在していた。これはまったくのノーマークだった事実で、驚きと共に筆者の脳裏には、この「首塚事件」が鮮やかに蘇ったのは言うまでもありません。私が狼と関わりを持つようになったのも将門公からです。不思議な縁を感じざるにはいられません。
それでは、ネットや巷で見掛ける怪談とはまたひと味違った世界観、怪異・妖談・憑き物談・神仏奇瑞談ゾーンを、どうぞお楽しみ戴けます様に。  (了)

1話試し読み

転倒

 筆者がまだ二十代の頃の話である。
 ちょうど一度目の転職をしたばかりで、漸く仕事にも手慣れてきた辺りの頃。職種は自動車関係であったが、そこの先輩社員の飯山さんと同時に仕事上がりとなった。先輩といっても飯山さんは当時の私より四つ年下で、二十歳になったばかり。仕事はできるが大変気性の激しい性格で、裏の顔は元暴走族のリーダー。
 やはり強面が売りだった職場の所属長とも平気でぶつかり合うという、正真正銘「イケイケ」のノリの方で、当時の私は、とんでもないところに就職したなと思っていた。
 その飯山さんと、ロッカールームで着替えていると、
「えっ?」
 上着を脱いだ飯山さんの上半身、胸のど真ん中から腹部にかけて、一文字に切り裂いたような、巨大な手術痕が目に入ったのである。
「飯山さん、それどうしたんですか?」
「ああ、これな……」
 飯山さんは、らしくない苦笑いをしながら、巨大な手術跡の謂われを語ってくれた。

 私が配属になる二年前、既に飯山さんはその職場で働いていたが、裏の顔は暴走族のリーダーである。無免許で後輩達を引き連れて七五〇バイクを乗り回し、首都高や湘南で暴走していたという。いつか事故を起こすからと所属長からこっぴどく叱られても「自己責任っスから」と強気で取り合いもしない。

 その日の夜も飯山さんは後輩十数人を引き連れて、鎌倉・湘南周辺を爆走していたそうである。その途中に、あの心霊現象で有名な「小坪トンネル」があった。
「小坪トンネル」といっても、現在は「新道」と「旧道」が存在する。
 彼等が通り掛かったのは頭上に火葬場があるという、あの「曰く付き」のトンネルの方である。
「いいかぁ、お前らぁ!」
 飯山さんは、小坪トンネルの手前でバイクを止めると、
「もたもたしてんじゃねえぞ、今夜は飛ばすからな。お前らぁ、気合い入れて、死ぬ覚悟でついてこいやぁ!」的な檄を飛ばし、そのままトンネル前に鎮座している、工事の事故犠牲者のために建立されたというお地蔵様に向かって小便を放った。
 当時「小坪トンネルの怪談」といえば「フロントガラスに手形が付いた」という女性タレントCの強烈な体験談がマスコミを賑わしていて、心霊関係に疎い人間でもテレビや雑誌で一度は耳にしているという、そんな場所である。
「やっぱり飯山先輩は凄えゃ!」と後輩達は大盛り上がり、甲高い排気音と奇声を張り上げて、十数台のバイクは国道を疾走し始めた。
 ところが。
 先頭を切っていた飯山さんの七五〇のハンドルが、突然左へと引っ張られた。
 バイクは火花を散らしながら横転し側壁に激突、慌てた後輩達が駆け付けると、ハンドルが飯山さんの腹部を貫通していたという。
「こいつはそんときの手術痕なんだよ。術後も三日三晩意識がなくて、医者も助からないかもなんて言ってたらしいぞ。俺は怖いもんなんかないけど、お化けだけにはもう手は出さねえよ。お前もお化け舐めちゃ駄目だぜ?」
 飯山さんは照れ臭そうに笑って、話を締めてくれた。


―了―

著者紹介

籠 三蔵(かご・さんぞう)

埼玉県生まれの東京都育ち。山野を歩き、闇の狭間を覗く、流浪の怪談屋。尾道てのひら怪談大賞受賞。主な著書に『方違異談 現代雨月物語』『現代雨月物語 物忌異談』『現代雨月物語 身固異談』『現代雨月物語 式神異談』、共著に『高崎怪談会 東国百鬼譚』(ともに竹書房)がある。

好評既刊

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