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論文紹介 偵察衛星の普及が国際社会の平和と安定に寄与する可能性

1981年1月、アメリカのジミー・カーター大統領は退任の際に自らの経験を振り返り、「写真偵察衛星(photo-reconnaissance satellites)が世界情勢の安定化に非常に重要であり、国家安全保障のあらゆる分野に大きく貢献する」と声明を残しました。これは冷戦期の情報活動における偵察衛星の重要性を示す内容であるといえます。

冷戦時代に米ソ間で弾道ミサイルの応酬が始まれば、わずか30分にも満たない時間で大きな被害が生じることが懸念されていました。当初、アメリカ軍は偵察機による早期警戒を実施していましたが、1960年代に偵察衛星の研究開発が進展したことで、新たな早期警戒の手段となりました。これ以降、偵察衛星は戦略的奇襲をより難しいものにしたという見方があり、それを実証するための研究も報告されています。「宇宙からの情報活動:偵察衛星と国家間紛争(Spying from Space: Reconnaissance Satellites and Interstate Disputes)」もその一つです。

Bryan R. Early & Erik Gartzke. (2021). Spying from Space: Reconnaissance Satellites and Interstate Disputes. Journal of Conflict Resolution, 65(9), 1551–1575. doi:10.1177/0022002721995894

著者の見解では、偵察衛星を持つ国家の指導者は、それを持たない場合に比べて、より確実な情報に基づいて状況を判断し、対外政策を決定することができるとされています。偵察衛星にも技術的な制約はありますが、地上における軍事活動の動向を広範囲かつ持続的に監視し、施設や装備の位置、部隊の規模や移動に関して信頼性が高い情報資料をもたらしました。

軍事理論では、情報の意義が繰り返し論じられてきましたが、これは敵に対して情報の面で優位に立つことによって攻者は奇襲の効果を高めることができるためです。奇襲が成功すれば、小さな戦力でも大きな戦果が期待できるため、攻撃の際には必ず考慮すべき効果です。反対に防者の立場で考える場合、敵の奇襲は何としても防がなければなりません。日頃から警戒監視を怠らず、危険な兆候を見つけることができれば、それだけで奇襲の効果を軽減することができます。

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