見出し画像

諸兵科連合とは何か、なぜそれは有効なのか?

戦闘で軍隊が発揮できる戦闘力は、部隊の規模、装備の性能だけで決まるものではありません。むしろ、運用こそが最も重要な要因であるといっても過言ではないのです。戦闘における軍隊の運用にはさまざまな原則があるのですが、その一つが諸兵科連合(combined arms)です。

諸兵科連合の目的は、一つの構想に基づいて複数の武器を協同させることにより、別個にそれぞれの武器を使用した場合よりも大きな戦果を上げることです。例えば、砲兵が事前に射撃を加えることで、堅牢な敵陣地に突撃する歩兵を支援することや、敵の抵抗で前進できなくなった歩兵を戦車が支援することは、諸兵科連合の一例だといえます。

諸兵科連合には長い歴史がありますが、現代に通じる諸兵科連合の戦術が発達したのは20世紀以降のことです。アメリカ陸軍の軍人ジョナサン・ハウスは、第一次世界大戦が転換点になったと考えており、当時の戦場で生き残るためには諸兵科連合が必須のものであったと述べています。ハウスによれば、諸兵科連合の利点は、敵に対して複合的な脅威を与え、対処することを難しくすることにあります。

砲兵が放った砲弾が次々と落下する状況で兵士が安全を確保するためには、地下深くに構築された掩壕の中に避難する必要があります。しかし、前線の部隊をそのような態勢に置くと、接近してくる敵の歩兵部隊を発見し、識別し、有効な射撃を加えることができなくなってしまいます。したがって、諸兵科連合の脅威に晒された指揮官は、どちらか一方の武器だけで攻撃された場合よりも対処が難しくなります(詳細に関しては、【翻訳資料】ハウス「諸兵科連合とは何か」(1984)を参照)。

アメリカ陸軍軍人ロバート・レオンハードは著作『機動術(The Art of Maneuver)』(1991)の中で機動戦に関する考察を展開していますが、その中でも諸兵科連合について詳細に検討しています。レオンハルトは、諸兵科連合を3つの原則に整理することを提案しました。

一つ目の原則は「補完性の原則(complementary principle)」です。歩兵、機甲、砲兵などには、それぞれに異なった強みと弱みがあり、例えば歩兵部隊には車両で通行が困難な場所でも前進することが可能ですが、その移動の速度は遅く、また平坦な場所に置かれると脆弱であるという特性があります。戦車は装輪ではなく、履帯で移動するので、路外でも機動する能力がありますが、それでも極端に険しい場所で移動することは難しく、迅速な移動が妨げられる狭隘な場所に置かれると撃破されやすくなります。このような利点と欠点を相互に補うことが諸兵科連合の第一の原則となります(1991: 93–4)。

二つ目の原則は、「ジレンマの原則(dilemma principle)」です。先ほど述べた通り、複数の武器の脅威に晒された敵は、その脅威に対処するために最適な行動をとることが難しくなります。航空機の脅威に晒された機甲部隊は、車両を守るために、車両を分散させ、地面を掘って戦車をその中に隠すことができますが、このような態勢をとると、敵の戦車が出現した際に対処できません。したがって、機甲部隊の指揮官はジレンマを突きつけられることになるのです(Leonhard 1991:94–5)。

三つ目の原則は「アルキュオネウスの原則(Alcyoneus principle)」です。簡単に述べると、これは味方にとって有利であり、かつ敵にとって不利な戦場を選ぶという原則です。アルキュオネウスとはギリシャ神話で登場する巨人で、彼は生まれた土地に留まっている限りは無敵だったのですが、そこから引き離されたことによって殺されてしまいました。レオンハルトは、歩兵、機甲、砲兵などには、それぞれ優位に立てる場所に違いがあるので、その違いを利用することも諸兵科連合の重要な原則です(Leonhard 1991:96–7)。

レオンハルトの三つの原則を理解すれば、諸兵科連合が戦場で敵と争う上でいかに重要な戦術的原則であるかがよく分かると思います。現代の戦術家は、多種多様な武器システムの性能や特性を把握した上で、それらを戦況に応じてどのように使いこなせばよいのかを考えることが求められるといえるでしょう。

関連記事


調査研究をサポートして頂ける場合は、ご希望の研究領域をご指定ください。その分野の図書費として使わせて頂きます。