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セカンド・チャンス(2022)

東京国際映画祭にて、ラミン・バーラニ監督「セカンド・チャンス」を観た。

映画祭の作品解説だと、"ピザ工場の経営に失敗し、防弾チョッキの製造で大成功した男を追ったドキュメンタリー。自社製品を宣伝するために自主制作でアクション映画を作り始める展開が笑いを誘う" なんて書いてあったので、災い転じて福をなす的な、人生一発逆転、笑える立身出世モノなのかなぁ…と、気楽に観に行ったら大違い! とてもシリアスで、深い闇を覗き込むようなドキュメンタリー作品だったのです。

主人公の男は確かにピザ屋から始めて、ピザ屋をやっているときに体験した出来事(配達に行った先で銃で脅されお金を盗られるなど)がきっかけになって新たなビジネスを思いつき、その後たまたまピザ屋が火災で焼けてしまったので、これを機に防弾チョッキを製造するビジネスに乗り換える。

で、防弾チョッキの信頼性を証明するために、防弾チョッキを着た自分を銃で撃つプロモーション映像で話題作りをし、やがては警察や軍や大統領までが彼の防弾チョッキを着用する一大産業のトップに成り上がったという話なのだが、ここからだんだん怪しい話になっていくのだ。

確かに当初作っていた防弾チョッキは宣伝通りの性能で、銃による危険に晒される警官の命を救っていたことは事実なのだが、途中から投入された新製品は銃弾が貫通してチョッキを信頼していた警官の命を奪うことになる。

だが、主人公は、「それは、たまたま防弾チョッキがカバーしてない隙間に銃弾が当たったためで、チョッキに穴など空いてなかった」と主張。しかし、この主張は、製造に関わっていた人々の証言や証拠写真とは食い違う。

過去に戻ると、「保険金目当てでピザ屋に自分で火をつけたとか言う奴がいるが、そもそもウチは保険に入ってなかったから、そんなわけない。証拠があるなら見せてみろ!」と主人公が叫ぶが、ドキュメンタリーの取材班は火災の少し前に加入された保険証を映し出す。

さらには、最初まで戻って「ピザの配達に行った先で銃で脅された」話の信憑性までがわからなくなってくる。

でも、一貫して主人公は自分の正しさと、自分の認識している事実を主張し続け、罪人になることなく堂々と生きているのだ。

そんな彼の主張が真実なのか、周囲の人々が語る事が真実なのか、物的証拠が真実なのか。何が真実かを映画は断定せずに、そこにある現実を全て見せてくれる。

この「セカンド・チャンス」という企業のことも、自分を撃って見せるパフォーマンスをする主人公のことも全く知らなかったわけだが、これだけ大きなたくさんの人を巻き込んだ出来事をこのドキュメンタリー映画のおかげで知り、いろいろと考えることができた。

笑えるというより、とても考えさせられる作品だ。

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