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絲人展「てんをうつ」感想@西会津国際芸術村

 中高生の時、深夜ラジオが好きだった。チューニングのアナログダイヤルを回して、ノイズの中を泳いだ。かすかに聞こえるラジオパーソナリティーの声が聞こえると、神経を集中して、その声がクリアに聞こえる方へ、ダイヤルを回した。チューニングの山をつかむと、そこには深夜の寂しさに寄り添ってくれる、人の温もりを確かに感じた。


 展示会場には詩が刺繍された布が、ぶら下がっっており、旧木造校舎の教室の窓から入る、南からの光が美しかった。我々は詩を見上げて、作品にチューニングを合わせようと試みた。さらに会場には、ぬいぐるみのようなものが、詩を小さな声でささやいていて、その声を耳をすました。その声のレベルは会場の外から聞こえる、ヒキガエルの鳴き声や、鳥のさえずりと同レベルだ。風が吹けば、ぬいぐるみのささやきは耳に届かない。
 今回の展示は、3日間で3回見たんだけども、回を重ねるごとに感度が上がり、最後は感動で胸が滲んだ。作家から直接、作品の解説を聞けたのもよかった。いずれにせよ、都会から隔絶され、ゆっくりと田舎に滞在すると、ゆっくりと作品に向き合う時間が作れて良い。会場はささやきのノイズに満ちていて、それに鑑賞者はゆっくりチューイングを合わせながら、作品を感じる作品なんだど思った。なるほど、都会での鑑賞はいつも、初めから明瞭な音声を求めていたと自省した。しかしながらそうならざるを得ない、悲しさも思った。だからこそ、ささやきのノイズに満ちた、ゆったりとした時間と空間が愛おしかった。
 コロナ禍で生がぐらついた2人が、西会津への旅を通して、生を取り戻していくドキュメントを見せてもらった(僕の感想)。静かな白だが、血液のように温く、生命力にあふれている布。詩は空気の振動だけでなく、物として空間に存在できることを実感した。旅先に旅の詩が待ち構えており、全てを肯定してもらえて気がした。東京に帰ってきて、その詩をノートに書き写してみた。生命力が体にあふれた。


絲人(shijin)の西尾佳那さん

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