【第7話】敵か味方かは、僕が決める

「急性リンパ性白血病…」
「はい、2年間の治療で完治を目指します。もちろん、治療の効果や症状の変化にもよりますが……今後、半年間は入退院を繰り返してもらいます」
「え、半年も!? 4週間じゃないんですか?」
「最初の入院は、4週間になると思っていただけたらいいと思います。白血病にはいくつか種類があってですね……」

(ちょっと待てーーぃ! 半年も入院はムリでしょ! その期間、子どもたちには会えるのか? 5ヶ月後には高校野球春季大会も始まるけど?)

主治医から、白血病の種類や、僕の病気がどのタイプかについて細かい説明があったようですが、僕はほとんど聞いていません。半年も通常の生活が送ることができない事実を受け入れられず、クヨクヨしていたのです。

本来なら、当事者である僕がこの病気に関心を持ち、現状や治療法について誰よりも知らなきゃいけないのでしょうが、その余裕が無いのか、とにかく何も耳に入ってきません。

こうなったら、「ご家族も一緒に説明を聞いてほしい」と提案してくれていた主治医の超ファインプレー。ありがとうございます!

性格上の違いと思いたいですが、現実を受け入れる強さの問題もあると思います。妻はきちんと主治医の説明を聞き、この病気について理解してくれていました。

妻の話によると、「成人が白血病になるのは10万人に1人。急性と慢性があって、パパのは急性。骨髄性とリンパ性があって、リンパ性」とのこと。話を聞いていると、病気と向き合えていない自分が情けなくなってきます。

(このポンコツ夫が! しっかりせぇ!)

自分を叱咤し、ようやく、今後のことを真剣に考え始めた僕。今週末にすべきことを整理しました。

家族、上司や同僚、お世話になっている高野連へ長期入院になることの報告。そして、一番大切にしたいのは部員たちへの報告。みんな4週間と思っているので、きちんと報告をしないと、半年間もグラウンドへ出られないことを不思議に思うはずです。

(こうなったら、覚悟して病名もきちんと伝えよう…結局、どう言うか考え直なさないと。それにしても参った。半年もグラウンドに出られない監督か…それは無責任だな…)

病室に戻り、ぼーっと考えごとをしていると、帰る準備を終えた妻がこんなことを言いました。

「さっき思ったんだけどさ、パパの前駆B細胞急性白血病ってさ、通称、B-allっていうんだって。Ballってパパがずーっと人生を捧げてるパートナーみたいなやつじゃん? これで私は勝ちを確信したわけ笑」

(へぇー、おれの中にボールか…。たしかにそれはパートナーみたいなもんだな…)

急な病に倒れて長期入院することになった夫にムカつくこともあるだろうに…。毎週末、子どもたちを置いて朝からユニフォームで出ていく父親に言いたいこともあっただろうに…。それなのに、野球を味方に例えて励ましてくれるなんて、本当に感謝しかありません。

それにしても、僕にその発想はありませんでした。敵だとしか思っていなかったものが、実は味方だったなんて。

この診断を受けた現実は変わりませんが、自分の捉え方次第で、目の前に見える世界は変わることがあります。

敵と戦うか、味方と協力するか、選ぶのは僕の自由。せっかく、彼女が気付かせてくれたこの考え方。僕は、このいたずらボールたちと一緒に治していくことにします。

「一生、付き合いたくはないけどね笑」

2023.11.2

【第8話】へ続く

☆いつもご一読いただいている皆さま、本当にありがとうございます。日付が知りたいとのリクエストがありましたので、エピソードのあった日付を今回から入れています。投稿の日付ではありませんのでご注意を。治療時期のご参考に!

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