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樹海で見たもの(2)

※以下の文章は、2015年に自分のブログに書いたものの転載です。特にグロい描写やショッキングな画像は出てきませんが、自殺関連ネタではありますので、その手の話が苦手な方は、読まない方が無難かも知れません。

【前回のあらすじ】
2007年春。ある長編映画の製作がらみで人間関係に疲れ果てていた私(大嶋)は、人のいない場所でのんびり気分転換をしたいと考え青木ヶ原樹海に向かったが、遊歩道を少し歩いたところで若い男性の遺体に遭遇。気が進まないながら、風穴の売店から警察に通報したのだが…

売店の片隅に座って警察の到着を待つ間、私は念のため、名刺と免許証を財布から出し、ズボンのポケットに移しました。別に前科があるわけではありませんが、何となく、あまり細かく身元を調べられたくなかったのです。

15分ほどでパトカーが到着しました。制服の警察官2人(おじさんと若者)が乗っており、その2人と一緒にパトカーに乗ってまた現場を案内。この時も私は遊歩道に残り、遺体の近くには行きませんでした。

大まかな検分が終わったようなので、私は、
「じゃあ、あとはお願いします」
と言い残し、その場を立ち去ることにしました。案の定、
「何かあった時のために、連絡先を教えて下さい」
と言われたので仕方なく、名前、生年月日、住所、電話番号などを、聞かれるままに答えました。

その場で警察官2人と別れ、そのままとことこと、当初行く予定だった「野鳥の水飲み場」の方角へ歩き始めました。はじめのうちこそ、心中穏やかではありませんでしたが、
「警察にも知らせたし、これで遺体もちゃんととむらってもらえるだろう」
と考えると、一定の責任を果たしたような気持ちになり、胸のもやもやも、次第に消え去っていきました。そしていつの間にか、
「樹海は面白いなあ。来てよかったなあ」
などという、歩き出し当初のモードに戻っていき、結構いい気分で、野鳥の水飲み場に到着しました。

ここは遊歩道の分岐点で、ここから根場浜に行く道と「コウモリ穴」に行く道に分かれています。根場浜は割と栄えていそうな感じがしたので行くのはやめ、コウモリ穴を目指すことにしました。本当は、バスの中から見えた、バス停で言うとひとつ手前の「竜宮洞穴」に興味があったのですが、コウモリ穴への道の方がわかりやすそうなので、まずはコウモリ穴に向かいました。

その途中も「檜の奇木」や「雨やどりの穴」など、景観的に面白い、絵になるところも多々ありました。歩きにくいところは木片をちりばめて歩きやすくしてあったり、なかなか行き届いているなあ、などと思いつつ、遊歩道を抜け、コウモリ穴のバス停のところに出たら、何と、さっき現場で別れたはずの若い方の警官が、私を待ち受けているではありませんか! あの後どこに行くかなど、具体的にはまったく教えていなかったのに…。やはり彼らは職業柄「鼻が利く」のでしょうか。

若い警官は精一杯の愛想笑いで私に近づいてきました。
「さっきのおまわりさんですよね?」
と私が聞くと、
「先ほどはどうも…。実は、いろいろご迷惑をかけたので、お詫びがしたいと上の者が申しまして。うちの課長がここに来るので少し待っててもらえますか」
とのこと。
「いや、そんな、お詫びなんていいですよ」
と丁重に辞退しましたが、
「いや、それだと私が怒られますから。とにかくしばらくお待ち下さい」
と、言葉だけは丁寧ですが、何やら有無を言わさぬ雰囲気です。
一体どういうことなのか状況を計りかねているうち、パトライトを乗っけた普通車(いわゆる覆面パトカー?)がやって来て、中からジャンパー姿の、40歳ぐらいの課長が現れました。 

彼は、刑事第一課強行犯係のT・Nと名乗り、名刺はないとのことで、代わりにノートに書いたものを私にくれました。その上で、
「もう少し話をうかがいたいんです。事情が事情なので車の中で…」
と私を促します。

手渡された名刺代わりのノート片。かなり珍しい苗字

「え? お詫びがしたいんじゃないの? また事情聴取? 話が違うじゃないか!」
と思いましたが、そのT・Nという課長、口調は穏やかなもののかなりの強面こわもてで、うかつに逆らえない威圧感がありました。

「見つかった死体について警察で今調べているんですが、実は、自殺じゃない可能性もあるんです」
T・Nの言葉は、まるで刑事ドラマのようでした。
「え、じゃあ他殺ってことですか?」
私もつられて、刑事ドラマの登場人物のような口調で聞き返してしまいました。
「いや、まだどちらかはっきりしないので、結果が出るまで両面で捜査をしているんです」
この辺のセリフも、何度となくドラマで聞き覚えがあります。
「このあたりは自殺の名所でしょう。だからそれを利用した偽装殺人という疑いもあるんです。誰かがどこか別の場所で殺人を行い、その後で死体をここまで運んできて木にぶら下げておく…ということもありうるわけで」

ここまで来るともう完全に刑事ドラマです。何か、現実感が乏しい感じで聞いていると、突然T・Nは私の顔をはっきりと見て、こう告げました。
「大嶋さん。そうなると第一発見者であるあなたの証言が非常に重要なんです

何か、いきなり頭をがーんと殴られたようでした。
「そうか、私は第一発見者なのか。たしかにそうだ。私が遺体を見つけなければ、こういう展開にはならなかった」
と、一人で納得しましたが、同時に不穏な感情が湧きあがってきました。

刑事ドラマや2時間ドラマだと、第一発見者=犯人、というケースが非常に多いのです。それは周知の事実だと思いますが、とすると、警察は私を疑っているのでは??

そう考えてあらためてT・Nの顔を見返すと、何だかそういう疑いの眼差しが感じられないでもありません。そして彼は、その日の私の朝からの行動を根掘り葉掘り聞き始めました。
「樹海には何時ごろ着きましたか? そもそも、どうしてここに来られたんです?」

私(大嶋)はこのまま殺人の容疑者にされてしまうのか? いよいよ緊迫する次回を待て!

つづく

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