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「肌感覚」を大切にしたターゲティングが企画のポイント。「これ絶対うまいやつ♪」誕生の裏側【インスタント袋麺のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。今回登場するのは、日清食品のインスタント袋麺「これ絶対うまいやつ♪」のブランドマネージャー・資逸晴亮(すけいつ せいすけ)さんです。

「これ絶対うまいやつ〜♪ これ絶対うまいやつ〜♪」

一度聞いたら頭から離れないCMソング。そして直球かつユニークなブランド名。

日清食品が2020年9月に発売した「これ絶対うまいやつ♪」は、初年度に当初計画比で275%の数量を売り上げたほか、2022年度は前年比で約120%の売上数量を記録するなど、勢いを落とすことなく伸び続けている話題のインスタント袋麺です。

これ絶対うまいやつ♪CMに起用されたチョコレートプラネット

まるで国道沿いのラーメンチェーン店で食べるような「濃くてうまい」味わいのこの商品は、パンチのきいた濃いめのスープとコシのある麺が特徴。

人気のロングセラーブランドが多くあるインスタント袋麺というジャンルで、なぜ「これ絶対うまいやつ♪」は、あっという間に知名度を獲得し、売り上げを伸ばすことができたのでしょうか?

日清食品で同商品のブランドマネージャーを務める資逸晴亮(すけいつ せいすけ)さんに聞きました。

「企画はターゲティングが重要」だと考える資逸さん。ターゲティングを起点として、ブランドコンセプトや商品の設計、コミュニケーションプランを組み立てていきます。さらにターゲティングには、ただデータを読み解く力だけでなく、肌感覚も大切だといいます。

肌感覚というものは、調査結果やデータを鵜のみにせず、ターゲットの話を直接聞いたり、実際に商品を食べてもらいながら具体的な課題を深堀りしたりすることで、自分の中に情報が染み込み、磨かれていくのだそう。肌感覚を伴う言葉には重みが生まれ、結果に対する責任感や納得感も大きくなると言います。

この肌感覚は、日清食品が大切にしているポイント。今回のインタビューで、ヒットの裏側にあるターゲティングの考え方を知ることができました。


「袋麺の将来を担う新定番をつくる」から企画が始まった

──発売直後からブランド名が話題となり、好調に売り上げを伸ばしている「これ絶対うまいやつ♪」ですが、どのような背景で企画されたのでしょうか?

インスタント袋麺といわれたとき、パッと頭に浮かぶ商品がいくつかあると思いますが、そのほとんどが昔からあるロングセラーブランドで、若い世代に向けた新しいものはなかったんです。

若い人たちに受け入れてもらえる商品がないと、インスタント袋麺市場はどんどん縮小していってしまう。日清食品にも「チキンラーメン」や「日清ラ王」などのロングセラーはありますが、それに甘えずに、インスタント袋麺の将来を担う“新定番”をつくろうというのが商品開発のきっかけです。

──具体的な商品の企画はどこから考えていったのでしょうか?

まずは、ターゲティングです。若い世代を対象にしたインターネット調査を実施し、その結果をもとに世帯人口が比較的多く、インスタント袋麺をよく食べている“若年ファミリー層”をターゲットに設定しました。

既存のインスタント袋麺は大体が5食パックなのですが、例えば、3人家族の家庭だと2食余ってしまう。“インスタント袋麺の新スタンダード”として、少人数世帯でも使い切りやすい3食パックにするなど、ターゲットに合わせて商品のアイデアを具体化していきました。

──まずはターゲティング、そのあとに深堀りをすると。

そうです。ターゲットを深堀りすると、“若年ファミリー層”は「国道沿いのラーメン店の味を好み、よく利用している」ことがわかりました。さらに、「自分が好きなラーメンを家族にも食べさせたい」という気持ちや、「家族が好きなラーメンを自分も食べてみたい」という気持ちを強く持っていることも明らかになりました。

こうした調査結果を踏まえ、国道沿いのラーメン店の味わいを研究したところ、“濃くてうまい”という共通点が見つかったんです。

そこで、「国道沿いのラーメン店で食べるような“濃くてうまい”インスタント袋麺があれば、家族と一緒に食べてもらえるのではないか」という仮説を立て、開発をスタートさせました。

「日清これ絶対うまいやつ♪背脂醤油 3食パック」 調理例 写真提供:日清食品株式会社

また、若い世代を対象にした別の調査では、「できるだけ失敗したくない」と考える人が多いこともわかりました。要は、チャレンジするよりも「これは間違いない」と思えるものが欲しい。そこで、“この商品は失敗しない、間違いない味だ”ということを表現するため、若者の間で“見た目からしておいしそうだ”の意味でよく使われている「これ絶対うまいやつ♪」というフレーズを、そのままブランド名に採用しました。

ほかにも、一般的なインスタント袋麺だとパッケージの正面に商品の調理写真を入れることが多いのですが、「これ絶対うまいやつ♪」では、国道沿いのラーメンチェーン店をイメージしたイラストを大きく配置して、コンセプトが伝わりやすいように工夫しています。

──ターゲットへの深い理解がそのまま商品名に反映され、ターゲットの背中を押すメッセージになっているんですね。国道沿いのラーメン店で食事している家族と聞くと、“若年ファミリー”というターゲットがより具体的にイメージできます。

実際に国道沿いのラーメン店に訪れたとき、若い家族がおいしそうにラーメンを食べている光景を見て、調査結果に対する自信が持てました。

ターゲットとしている方たちに、自分たちにとっての“間違いない商品”だと思ってもらえたら嬉しいですね。

スーパーの棚を見て思い出す、心に「引っ掛かる」CMづくり

──「これ絶対うまいやつ♪」といえばCMソングが印象的で、ユニークなCMを多数つくっている日清食品らしさを感じます。日清食品が広告戦略において大切にしているポイントはどういったことでしょうか?

「これ絶対うまいやつ♪」のCMは、ブランド名と商品の特徴を認知してもらうことを第一に制作しました。

ブランド名を覚えてもらうためには、無意識に口さんでしまうような歌モノが効果的だと考えました。そこで、30代に人気のあるチョコレートプラネットさんのネタをベースに、ブランド名と商品の魅力を歌い上げてもらうことで、いつまでも耳残りするような内容にしました。

このCMは、2021年10月度のCM好感度調査(全業類/作品別)で1位になりました。店頭で「これ絶対うまいやつ~♪」と歌っている小さなお子さまと、「これ絶対うまいやつ♪」を買い物かごにいれている親御さまを見たときには、CMの効果をはっきりと感じることができました。

日清食品では、いわゆる“普通”の企画ではOKが出ないことが多く、常にユニークでクリエイティブなアイデアが求められます。さらに、面白ければ良いというわけではなく、「お客さまの心に引っかかるかどうか」を重視しています。

「これ絶対うまいやつ♪」の場合も、CMを見た方の脳にブランドや商品の記憶を残すことにより、スーパーなどでインスタントラーメン売り場の前を通ったときに、「あ、この前CMで見たな」と思い出して商品を手に取ってもらう。こんな流れをつくり出すことを目指しています。マーケティングやブランドコミュニケーションは、ただインパクトやおもしろさを追求するだけではダメなんです。すべて「商品が売れる」ことをゴールにして企画を組み立てなければいけないんです。

実際、CMの冒頭に「みんな~!」と注目を集めるような掛け声を入れてみたり、歌っている長田さんの後ろで松尾さん扮する謎のキャラクターが暴れていたり、おいしそうに「これ絶対うまいやつ♪」を食べているファミリーの映像をところどころに差し込んだりと、引っかかりをつくるための仕掛けや工夫を随所に施しています。

──資逸さんは普段どういうものを見て、そういう引っ掛かりを発想するヒントを得ていますか?

街や電車の中で広告を目にすると、「これは、どういうメッセージを伝えようとしているんだろう?」と考えることが癖になっています。メッセージがパッと伝わってきたら、「この言葉があるからかな」とか「こういう見せ方だからだ」とその理由を紐解いていく。反対に、何を言いたいのかわからない広告を見たときも、なぜわからないのかを自分なりに考える。そうした訓練が、引っかかりを発想するために役立っているんじゃないかと思います。

企画には「肌感覚」に基づいたターゲティングが重要

──「チキンラーメン」や「カップヌードル」、「日清のどん兵衛」など、日清食品は数々のロングセラーブランドを生み出し続けてきましたが、みなさんにとって企画とはどういったものでしょうか?

日清食品のマーケティング部では、担当するブランドごとにグループが分かれていて、それぞれにブランドマネージャーを配置する「ブランドマネージャー制度」を1990年から採用しています。各グループのトップであるブランドマネージャーは、そのブランドに関する全責任を負う、いわばそのブランドの会社の社長とも言えるポジションなんです。新商品のアイデアを見つけ出し、コンセプトを練り上げ、売り方や宣伝戦略を考え、販売促進活動を展開する。日清食品のブランドマネージャーにとって、企画とは入口から出口までをすべてを考えることなんです。

「これ絶対うまいやつ♪」に限らない話ですが、いい企画を生み出すためには、やはりターゲティングが重要だと思います。ターゲットを深く分析し、理解することができれば、それが商品やCMなどすべての企画につながっていくからです。

ターゲットを設定する際に、「30代男性」などと年齢や性別だけで区切ってしまうと、そこから生まれる企画はボンヤリしてしまいがちです。ですので、自分の肌感覚を踏まえて、ターゲットの解像度を上げていきます。

ターゲットを深く知り、そのディテールを語ることができなければ、肌感覚を持っているとは言えません。私も「これ絶対うまいやつ♪」のターゲットと同じ30代で、「インスタント袋麺って、昔からあるブランドばかりで新しいものがないな」「家族で食べるのに5食パックだと多いな」といった感覚を持っていたので、実際にターゲットの方に話を聞くなどして、その感覚をリアルなものにしていきました。

──日清食品がヒット商品を生み出し続けられるのには、何か理由があるのでしょうか。

理由のひとつに、スピード感があると思います。日清食品には「日清10則」と呼ばれる社員の行動規範があり、そのなかに「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ」というものがあります。

検討に時間をかけてタイミングを逃すくらいなら、失敗を恐れずに自分を信じて突き進む。もし間違っていれば、すぐに引き返してやり直せばいい。社内にチャレンジする姿勢が評価される土壌があるからこそ、日清食品のマーケティングにはスピード感があり、世の中の変化に遅れを取らないのだと思います。

実際、「これ絶対うまいやつ♪」の場合も、調査を重ねてから動くのではなく、調査しながらどんどん商品に落とし込んでいくことで、企画から1年もかからずに商品化することができたんです。

──今後、資逸さんが企画したいことは何かありますか?

「これ絶対うまいやつ♪」をインスタント袋麺のゲームチェンジャーにしたいと思っています。日本人ってラーメンが大好きなんです。でも、カップ麺に比べて調理に手間のかかるインスタント袋麺は、どうしても敬遠されがちです。各家庭でインスタント袋麺を食べる機会を増やすためには、「これ絶対うまいやつ♪」のような新しいブランドをつくって、若い人たちにインスタント袋麺の存在を認知してもらい、店頭で手に取ってもらえるようなアプローチが必要だと考えています。

まだまだ言えないことも多いのですが、5年後、10年後には「『これ絶対うまいやつ♪』がインスタント袋麺の歴史を変えた」と言ってもらえるよう、いろいろな企画を準備していますので、これからも「これ絶対うまいやつ♪」に注目してください。

■プロフィール

資逸晴亮(すけいつ せいすけ)
日清食品株式会社 マーケティング部にて、「日清これ絶対うまいやつ♪」や「日清麺職人」などを担当するブランドマネージャー。2008年に入社し、営業職を4年、営業戦略を立てる営業企画部を4年経験し、マーケティング部へ異動。2020年、35歳のときに社内公募で手を挙げ、現職に就任。


取材・文 宮島麻衣
取材・編集 小山内彩希
編集 くいしん
撮影 安永明日香