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通る企画には「想像させる力」がある。自分の楽しいを一粒にこめるチロルチョコの企画会議【お菓子のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。今回登場するのは、チロルチョコの開発部マーケティング室に所属する川崎佑真(かわさき ゆうま)さんです。

ブランドが誕生してから60年以上、多くの人に愛され続けるチロルチョコ。

ミルクやビスなどの定番がある一方、わさび味やうなぎ味といった攻めた味も定期的に開発され、発売のたびメディアで話題になっています。

これまでに発売された味のバリエーションはなんと500種類以上。「一粒のチョコレート」という限られた枠組みの中で、常に新しいものを提案する商品企画のアイデアは、どのように生まれているのでしょう? 

「チロルチョコの企画開発は一般的な商品開発イメージとは少し違っているかもしれません」

取材の冒頭、チロルチョコでマーケティング室リーダーを務める川崎佑真さんから出たのはこんな一言。アイデア出しの段階で社員一人ひとりが大切にしているのは、「まずは自分自身が楽しいと思えることから企画を考える」なのだそうです。

その上で、企画が通る商品は、売り場でお客さんが手に取っている姿や、ワクワクしている姿を想像させる力があるといいます。

自由な発想が飛び交うチロルチョコの企画会議。その裏側について聞きました。


会議は文化祭。自分が楽しいことを企画する

──チロルチョコはこれまで500種類以上の味を発売し、毎月1〜3商品ほど新商品を出しています。膨大な数のアイデアはどうやって生まれているのでしょうか?

一般的に商品企画の場合、消費者の課題やニーズを見つけ、ターゲット層やシーンを設定することからスタートする企画が多いと思いますが、チロルチョコでは、「自分自身が楽しめることを考えよう」から企画が始まることが多いですね。

──それはユニークですね。企画会議はどんな感じで行われるんですか?

半年に一度、商品のラインナップを決める大きな会議があります。開発部には商品の味をつくる研究室、パッケージをつくる企画室、そしてSNS、広報、ファン交流等を行うマーケティング室という3つの部署があって、全員が参加します。

数年前までは、各メンバーがつくりたい味を全部ホワイトボードに並べて、みんなが食べたいものに手を挙げて、何票か集まったら「じゃあこれをつくってみよう!」という感じで決めていました。僕は中途入社なのですが、初めてこの会議を見たときは、「文化祭の模擬店のような決め方だ!」と衝撃を受けましたね(笑)。

今はチーム分けしてブレストしてから企画会議に臨んでいますが、根幹は変わっていません。それぞれが食べたい味について熱弁して、笑いがあふれていて、本当に学校みたいな雰囲気なんです。

アイデアを否定しないという社風があるので、毎回の会議で発売予定数の枠を大きく超えて何十というアイデアが出ます。それが商品ラインナップの多さにつながっていると思いますね。

商品化の基準は「想像させる力」

──会議でたくさんのアイデアが出る中で、実際に商品化するものは、どんな基準で選ばれているのでしょうか?

まずは情熱があること。特に、個人の体験から生まれた提案は強いと思います。例えば、カフェ巡りがすごく好きな社員が「こういう新しいスイーツに出会ったから、それをチロルチョコで再現したい」と提案すると、聞いている側にもワクワクが伝わってきて、「商品化したときに同じような感動を与えられそう」と乗せられてしまう。いい企画というのは、受け手にとっての想像しやすさがあると思います。

もうひとつ、会社として大切にしているのは、新しさがあるかどうか。お客さんに「チロルチョコって面白いことやっているな」と思ってもらいたいんです。わさび味やうなぎ味など、一瞬ギョッとするような味に挑戦するのも会社として常にチャレンジする姿勢を見せたいという気持ちがあってのこと。


開発部の会議で決まった企画を、次は販売部に通します。そこでは、「こういう人に向けて売れます」とか「こういう売り場に置けば目立ちます」、「SNSで話題なんです」などといった現実的な数字やトレンドの話で企画を後押しします。

販売部にも、どれだけこの商品が目立って売れやすいかを想像させられるかが大切です。例えば抹茶をテーマにした商品なら、「コロナ禍を経て海外からの旅行者が戻ってきているので、抹茶をテーマにした商品はいいと思います」など時事ネタを絡ませて提案したり。

──売り場の様子や買ってくれるお客さんを想像させるには、いろんな準備をしておく必要がありそうです。

そうですね、会議資料はつくりこんでいますね。まだ企画が通るかはわからない段階でも、デザイナーが本物さながらの一粒サイズのパッケージビジュアルをつくったり、研究室のメンバーが味のバリエーションを何パターンかつくったり。

開発部としては準備は大変ですけど、五感で感じてもらって、この商品がいっぱい店頭に並ぶ光景を想像してもらえるように全力を尽くします。

──実際食べてもらうからこそ、ほかにはない尖った味も納得してもらえた上で、世に出せるんですね。チロルチョコで尖った企画に挑戦するようになったきっかけは何ですか?

もともとの社風もありますが、大きな転機は2003年の「きなこもち」の大ヒットです。きなこ味のチョコの中にもちグミが入った商品なのですが、当時チョコレートといえばミルクやいちご、抹茶などが一般的だった中でかなり斬新な企画でした。

きなこもちは発売から5カ月で1700万個が売れ、一時店頭から消えるほどの大ヒットに

それまでチロルチョコは子ども向けの駄菓子という位置付けでしたが、きなこもちのヒットを機に、客層も大人の方やお年寄りの方まで広がっていったんです。

きなこもちは、「普通じゃない面白いことをやりたい」というチロルチョコの思いを体現している商品。この企画以降、会社のチャレンジング精神が加速して、ユニークな商品が続々と誕生しています。開発部のメンバーはみんな「きなこもちを超えたい」という思いでアイデアを考えているんです。

身近な人を喜ばせることで、それが連鎖していく

──チロルチョコの商品はよくメディアでも話題になっているのを見ますが、プロモーションの企画についても聞きたいです。

プロモーションでは、チロルチョコを好きでいてくれているお客さんの声を聞くことを大切にしています。ファンとのコミュニケーションがベースにあるので、大勢の方に届けるテレビCMといった広告ではなくて、みんなで見て一緒に楽しめるようなコンテンツやイベント、キャンペーンなどを企画しています。

今年は、きなこもちが20周年。お祝い企画では、きなこもちのブームを知らないZ世代やさらに若い世代にもこの商品を知ってもらえるよう、踊って楽しめるオリジナルミュージックビデオを制作し、TikTokでも発信しています。

2.5次元アーティストの長瀬有花さんとコラボして制作した、きなこもち20周年記念テーマソング「むじゃきなきもち」は、長瀬さんが10年以上チロルチョコを集めているファンということで、コラボが実現しました。

プロモーションで一番大切にしているのが、それを見てくれた人たちに自分ごととして楽しんでもらうこと。商品を買ってもらうことだけが目的ではなくて、長い目で見たときに、「あのときチロルチョコと出会って楽しかったな」と思ってもらうことに重きを置いています。

自分が楽しいと思ったことを形にして、まわりの人を笑顔にする。それがチロルチョコにとっての企画、なのかもしれないですね。

──チロルチョコのように、自分もまわりも楽しませるような企画は、どうやったら考えられるでしょうか?

チロルチョコでは「あなたを笑顔にする」という言葉をミッションにしています。この「あなた」というのは、まず社員のことを指しているんです。企画をつくるときも、すごく遠い人よりも目の前にいる身近な人に向けて考えると、よりリアルで想像しやすいアイデアが浮かぶと思います。

私の場合で言うと、最近、Vtuverのミミックさんに声をかけ、共同で他のVtuberさんにドッキリを仕掛けるという動画企画を実施しました。この企画も、社員も驚くようなことをしたい、という考えからチャレンジしたもの。動画を投稿した次の日に「面白すぎて3回見た!」と声掛けてくれる社員がいたんです。

動画の面白さはミミックさんや携わってくださったVtuberさん、協力してくれた社員さんのおかげです。ただ、私も動画内のパッケージのイラストを描きおこすなどした中で、自分の携わった仕事で仲間が笑顔になってくれることがうれしかったですし、これからも仕事をがんばろうと思えました。

──身近な人を喜ばせるためには何が大切でしょうか?

簡単ではないですが、相手の想像を超えることだと思います。今回の動画ではドッキリのためだけに2カ月準備していたことが、動画を見た社員の想像を超えて笑顔することにつながったと思います。

ほかにも商品を提案するときに一案じゃなくて複数案を持っていくとか、相手の想像をいい方向に裏切る努力が、相手の喜びにつながると思います。

また、身近な人を喜ばせることって、自分自身もうれしいし楽しいですよね。身近な人のことを考えることから想像が広がるし、そこから数珠つなぎのように大きな企画も生まれるんじゃないかと思います。

■プロフィール

川崎佑真
大阪芸術大学で絵画・彫刻を学び、広告制作や玩具の企画・開発の仕事を経て2020年にチロルチョコに入社。2022年より開発部 マーケティング室 リーダーに。チロルチョコらしい遊び心を大切にVtuberコラボやテレビ企画などプロモーション施策を多数企画。好きなチロルチョコの味はきなこもち。

取材・編集 小山内彩希
文 宮島麻衣
撮影 安永明日香
編集 くいしん


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