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高鳴る胸をおさえて

ベースを弾いてくれるという方がいたので、ドラムがいればリハビリが可能になった。興味ある方はtakurooohirai@gmail.comまでメールください。


「高鳴る胸をおさえて」というものが好きだ。

「高鳴る胸をおさえて」の魅力が詰まったような話に遭遇するチャンスが、最近多い。好きな話に遭遇できている。運がいい。

しかし「高鳴る胸をおさえている」ときのひとは、なぜああも誰かの心を動かすのか。

本能的ではない理性で何かをぐっと抑え込んでいるときの、あのさまは、とても心を打つ。

怒りたいから怒る。泣きたいから泣く。ひたすら言いたいことを、ぶつける。

それら感情解放型コミュニケーションは何だか冷める。反対に何かをガマンしているさまは響く。凛としていて感動するのだ。「こらえている状態」はとにかく魅力的だ。

断っておくけど、感情をむき出しにするひとが嫌いと言っているわけではない。

だけど、たとえば、早くに逝ってしまった男がいるとする。


男は30代なかばだった。

まだまだ働きざかりで、4年前に娘が一人生まれたばかり。家族3人で、つつましくも、ささやかに、幸せに暮らしていた。

その日は、娘の誕生日だった。

仕事帰りの交差点、車がひっきりなしに行き交っている。

男は赤信号が青になるのを今か今かと待っていた。
少しでも早く帰りたかったからだ。


抱えたプレゼントを、一刻も早く娘に渡したかった。寝られてしまって、明日になると、当日の意味がなくなってしまう。

男は、自分以外の誰かに何かを渡すことを、こんなに喜ぶ自分を、不思議にも思った。

子どもが生まれる前と、一番違うのはそこかもしれない。自分より大切な存在がいる人生の居心地は責任もあるが、悪くなかった。

そのときだった。
一台の車が交差点に突っ込んできた。一瞬、スローモーションに映るような速度だった。
ブレーキを踏まなかったせいで、事故の規模は取り返しのつかないものになった。

運転手からは、アルコールの陽性反応があった。

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