TOKYO COMPLEX 「八王子とぺヤング」

東京と言う街で生活をするために、少なからず僕には明確な理由の提示が必要だった。
ロックミュージシャンのようにギター1本で夢を追いかけるために東京へ向かう、という話には憧れを抱きつつ、現実はそうもいかないし、そこまでの勇気と実力と親に対する反発心は当時の僕にはない(そして、今の僕にもないはずだ)。

現役生だった頃の僕は高1の時から憧れていた地元・北海道の大学への進学を第一志望としており、併願校も北海道にある大学と考えていた。というより、北海道から離れる、という思考そのものが頭になかった。
そんな思いで受験に挑むも、第一志望に不合格。併願校には受かったものの、最終的には浪人という道を選んだ。
浪人という選択肢を選んだ最大の理由が「学びたい学問が関東にある」ということだ。そして、僕は浪人生活を始めた。ちなみに「関東」と書いたが第一志望は東京には所在していない大学だった。

センター試験を終え、合格可能性率などを考慮し、最終的な志願校として選んだのが第一志望であった大学ではなく、東京にある大学となった。

上京のための理由は進学。
よくある話ではなるが、それを確かなものにするためには受験に合格しなくてはならない。
二次試験対策を行い、試験地がある東京へと向かうこととなった。
初めての一人飛行機は妙にテンションが上がり、且つ、大人へのステップを踏んだような気になった。

大学の所在地は武蔵小金井なのだが、東京の地理感がまったくなかった僕はネットに出ていたホテル検索サイトにて僕の志願校を受験する人お勧め、と書いてあるホテルを予約したのだが、なぜかそのホテルの所在が八王子だった。
電車で7駅。しかも武蔵小金井や隣の国分寺にはたくさんホテルがあるはずだ。
今思い返しても不思議なホテルのチョイスだった。

東京で一人で過ごす夜。もちろん、翌日に受験を控えていた僕は夜遊びをせず、素直にホテルで過ごすことにした。
晩飯がついていない、素泊まりの宿泊だったため、晩飯は自分で調達する必要があったのだが、その時に選んだ晩飯が「ぺヤング」だった。
いわゆる、コンビニなどで売っているカップ焼きそばだ。

このぺヤングに対する憧れは昔から持っていた。
ぺヤングは北海道には販売されていない商品。
僕にとっては幻のカップ焼きそばだったのだ。
テレビではよくその名を耳にするのだが、果たして実在しているのか。
都市伝説なのではないか。
それほどぺヤングは北海道民にとっては珍しいカップ焼きそばなのだ。

いざコンビニに足を踏み入れるとすぐにぺヤングを見つけた。
あぁ、都市伝説ではなかったんだ。本当にぺヤングは存在していたんだ。
妙な安堵感を覚え、レジを済ませ、ホテルでぺヤングを食べた。
味は今でも覚えている。割とさっぱりしつつも、スパイシーな味付け。

これが、東京の味なのか。

上京が決まるか否かの前日に僕は一人、カップ焼きそばで東京を感じていた。

これが、僕の東京とのファーストタッチ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?