29日、満月の夜
「タクヤさん、試合いつ?」
いきなりそんな声が聞こえた。
大切な人が寝言で突然つぶやいた。
あまりに突然のことで僕は驚いた。
こんなことを寝言で聞いたのも初めてだった。
本人も覚えているかわからない。
きっとそんな夢でもみていたのかな。
しかし、その声、言葉は心にものすごく響いた。
突き刺さるくらいに。
今日は満月の夜。
サッカーがしたい。見せたい。
最近、自分の昔のプレーを見て懐かしく思うと共に自分が求めている姿を再確認する。
ああ、恋しい。
無我夢中でボールを追いかける喜び。
必死に汗をかきながら、でも笑顔が溢れる。
僕はサッカーがしたい。
そんな寝言が聞こえたのはちょうど日付が変わる頃だった。
2月29日(閏年)というのは4年に1度しか来ない。
この日で、大切な人と一緒になってちょうど半年だ。出会ったのはもう2年以上前。怪我をして誰よりも近くで支えてくれたのはそんな彼女であり、
一緒になったのは怪我をしてからだ。それをも受け入れてくれた人だ。自分が何もできない時に飛んできてくれて、ほとんど全てを担ってくれた。
こんな人はここにしかいない。ありがとう。
毎月29日はあらためて感謝をする日。
そんな日が来たことをとても嬉しく思う。
怪我をして、月日が経過するごとにいろんな症状が出てなかなか思うように動けない自分だけど、
それでも見守ってくれていることに言葉では表せないくらい感謝している。
ありがとう。
そして、それを表現したいのに身体は怪我前のようにはいかない。
何としてでも復活したい。
自分の中にある情熱で全てを支配してしまいたい。
正直、何でもいいからまた全力でボールを追いかけさせてほしい。情熱を、人生にぶつけ続けていたい。
いまは何かがそれを封じ込めて、身動きが取れないような感覚。説明するのは難しい。
前回、Noteもは書いたのだけれど自分でもわからないほどに自分の身体が自分のコントロールでどうにかできていない。
それでも、とにかくできるトレーニングを続けるしかない。どんなに辛くとも、とにかく続けるしかない。
筋力や体力は落ちるのはものすごく早い。
付けるのは簡単ではない。だけど、やればやるだけ反応がある、はずだ。
いつも寝る時に思う。
明日はサッカーできる自分になっていないかなって。
これまで何事も自分がやった分だけが返ってくる、もしくはそれよりも小さなものだけれど積み重ねていくしかないと信じてやってきた。
だからやるしかないってことなんだ。
いまもきっと同じこと。
だけどね、そんな奇跡みたいなことをたまに望んでしまうこともあるんだ。
怪我もただの怪我じゃない。それは認めないといけない。
だけど、骨はくっついている。
正直、痛みだけなら我慢できる。痛み止めだって今はたくさんある。中足骨を折っても試合に出た。
39度の熱でも試合に出た。
舟状骨を折っても試合に出た。
肋骨を骨折してもぐるぐる巻きにテープを巻いて試合に出た。
頭が裂けて血が吹き出してもホチキスで止めて試合に出た。
試合ならばそうしたものでおさえてでもやりたい。
ただ、身体の違和感は消え去ってほしい。
これが無くならなきゃどうにもならない。それくらいのレベルで襲ってくる。
自分の体の中で起きていることのはずなのに、何なんだ。
またサッカーがしたい。
「いつ試合?」と楽しみに思ってくれているのを感じた。見せたい。自分もそこで走り回りたい。
そんなことを思い、再び窓から夜空を覗き込んだ。
もう満月は見えなくなっていた。
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