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1‐7 脳とは記憶そのもの

「脳とは記憶そのものである」と表現されることがあります。

野球のピッチャーとは、

ボールを握った時の感触、マウンドに立った時の景色や土の匂い、強い風が頬にぶつかる感覚、球場に響く応援や歓声を背中に受けるときの心強さとプレッシャー、ピンチに陥った時のなんとも言い難い不安、強打者をギリギリでなんとか抑え込んだときの安堵、ボコボコに打たれてコールド負けする辛さ……

そういった記憶をもっている人のことです。

この場面、このシチュエーションで、何を選択するか。

何と何を組み合わせるか。

上手くいく可能性と失敗する可能性、どちらが大きいか。

豪速球を投げ続けたとして肩や肘はどこまで耐えられるか。

そういった予測や判断まで含めて、内なる記憶と外からの条件を材料に瞬間的にジャッジしながら運動できる。

 それがユニフォームとボール、グローブを買ったばかりの人と、マウンドに立ってきたピッチャーの違いなのだと思います。
 
そう考えれば、たしかに「脳とは記憶そのもの」であり、「記憶の集積」こそ「その人」を表している気がします。

そしてどんな記憶があるか、どのように刺激を入力するか、どんな判断をするか、どんな動きに変換するか。それがパフォーマンスにおける脳の役割と言っていいでしょう。


 記憶は脳内のニューロン(神経細胞)とニューロンが手と手をとりあうように繋がってネットワークを形成して保存されていると考えられています。 このネットワークの形成に関わるのがシナプスです。

  ニューロンとニューロンの間には20ナノメートル(1㎜の5万分の1)のとても小さな間隙があり、シナプスとはその接合部のことです。

 電気信号がニューロンの終末部(シナプス前部)に到達すると、終末部から神経伝達物質が放出されます。その神経伝達物質が、次のニューロンの表面にある受容体に結合すると、そこで電気信号に変換され、情報が伝達されます。

  新しく何かを記憶するとき、シナプス自体が大きくなったり、新しいシナプスができたりして、ニューロンとニューロンの連結が強化されます。逆にあまり使われない記憶のネットワークは、シナプスが小さくなったり、消失したりします。これを「シナプスの可塑性」といいます。

  私たちは、このシナプスの可塑性を駆使して、記憶をどんどん最新バージョンに更新することができます。これが私たち人間の強さの根源です。

PS 記憶を変えれば、運動は変わる。パフォーマンス医学。

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