よいお酒の飲み方④「アルコールと肝臓」
次は肝臓です。
お酒を飲まれる方は、気にしている方は多いのではないでしょうか。
アルコールの影響は、脳、神経、心臓、食道、大腸、肝臓、すい臓など様々な臓器に及びますが、健康診断を受けた際にまず指摘されるのは肝臓ですし、やはり肝臓を悪くして命を落とされる方が多いのも事実です。報告では、アルコール関連死の約半数を肝硬変が占めている国もあります。
ボリュームが多くなってしまいましたが、お酒と肝臓についてみてゆきましょう。
1. アルコール性肝障害のしくみ
アルコール性肝障害の原因は多岐にわたります。酸化ストレスや腸内細菌叢の変化、自然免疫の亢進が関与していると言われています。そのほか脂肪毒性、小胞体ストレスなども関与しているかもしれません。その中で代表的なものを書いてゆきます。
1-1.まずは活性酸素の産生による、酸化ストレス
アルコールの代謝により、活性酸素が生じます。特にアルコール脱水素酵素を介さないMEOS系のアルコール分解が働いたり、アセトアルデヒドの代謝の過程で活性酸素が生じます。これが肝細胞を障害します。
余談ですが、適度な有酸素運動は活性酸素に強い体をつくると言われています。ですが、運動が激しくなると活性酸素を生じると言われています。
強い運動をする人はなおさらな事、活性酸素に気を付けましょう。
1-2.肝臓内の脂肪の蓄積
アルコールを酢酸に分解するなかで、NAD(ニコチンアミド)を消費します。さらに酢酸をクエン酸回路で燃焼してゆくなかで、ビタミンB群を大量に消費します。もともと、脂肪酸もβ酸化といって同じ経路を使います。なので飲酒すると、回路の渋滞や酵素不足で脂肪酸の代謝が停滞、肝臓にどんどんと蓄積してゆきます。
1-3.腸内細菌からの毒素などにより、肝臓の炎症がおこる
本来、腸内細菌で生成された物質は腸管のバリアでほとんどが防がれます。ですが少量はこのバリアを通過して、門脈の血流にのって肝臓に運ばれてきて解毒されます。飲酒者では腸管のバリアが弱まり、肝臓に毒素が多く運ばれるようになります。これにより肝臓に炎症が起きやすくなります。
1-4.炎症のあと、肝臓が瘢痕化する
炎症がピークを越えると、脂肪が抜け落ちてそこが瘢痕化します。カサブタのようなものです。カサブタだらけの肝臓を肝硬変といい、こうなると肝機能は著しく落ちます。こうなるともう元の肝臓には戻りません。
2. 肝臓の数値にみるパターン
血液検査をみると、肝臓内で今どんな状態にあるのか推察できますが、肝炎ウィルスが陽性であったり、薬を服用していたり、運動をしていると判断が難しくなります。実際の診療の場では、そのような他の要素がないか考えながら、肝臓の値と飲酒歴、体重や腹囲などをみながら、肝臓内で何がおこっているのかを想像してゆきます。
2-1.AST、ALTは正常値、ALPも正常値でγGTPが上昇している
まずは飲酒量過多の状態が続くと、活性酸素がたくさん発生します。これを酸化ストレスといいます。肝臓が酸化ストレスにさらされると、ALPが正常値のままγGTPが高くなってきます。「酸化ストレスにより少しずつ肝細胞にダメージが蓄積してきている状態」と考えます(1-1.の状態です)。γGTPとともにALPも高くなってきた場合は、薬剤性や自己免疫など、ほかの病気を疑います。
2-2.γGTP の他、AST、ALTも高い(AST<ALT)
アルコールの量が増えてくると脂肪代謝が渋滞してきて、肝臓内に脂肪が沈着してきます。脂肪が沈着してくると、AST、ALTが上昇してきます(1-2.の状態です)。飲酒量はそこそこでも、食べ過ぎでメタボの方もこのパターンになることが多いです。
なお、お酒を飲まれない普通の脂肪肝の方は、酸化ストレスが強くないのでγGTPは正常で、ASTとALTだけが高値(AST<ALT)となります。
2-3.γGTP の他、AST、ALTも高い(AST>ALT)、LDHやALPなんかも高い
酸化ストレスによる肝細胞障害が強く、さらに脂肪肝が高度で、そこに炎症まで併発した状態の時にこのパターンになる印象です(1-3.の状態です)。この状態で飲酒を継続すると、数か月から数年で肝硬変に至る印象です。特にこのパターンの方は、速やかに禁酒することをおすすめします。
2-4.血小板が少なくなってきた
肝臓の病気が進行してくると、血液中の血小板数が減少してきます。肝臓の病気の場合、肝硬変になるにしたがって減少するというのが一般的ですが、原因がアルコールの場合は、炎症が強くて肝臓が腫大してきても血小板数が減少します。AST、ALTが非常に高くて血小板数が少ない場合は、炎症が強い場合もあるので禁酒を強く励行しますが、禁酒しても血小板数が戻らない場合、肝硬変になってしまっていたんだな。と考えます(1-4.の状態です)。
肝硬変の予測として、血小板数を元に計算するFib-4 indexというのもあり、健診結果にこの値が記されていることもあります。ですがアルコールが原因の場合は、あまり正診率が高くない印象です。
3. アルコール性肝障害に,よいといわれているもの
さて、実際にお酒のために肝臓の値が高くなってしまった方、または肝臓を悪くしないためにはどうしたらよいのでしょうか。
一般的に梅干しや、アサリ、シジミ、うこんなどは「肝臓にいい」と言われていますし、文献を調べてみると色々あるのですが、とりあえずお勧めとしてはしっかりエビデンスのあるものを信じることをお勧めします。
アメリカ肝臓学会の実践ガイドラインに収載されたものが最も信用性が高いでしょうか。
HEPATOLOGY 2020:vol71:306-333より
つまり、
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・アルコール性肝障害のリスク増加に関与
過度な飲酒、悪い飲酒の仕方(毎日の飲酒、食事なしでの飲酒、暴飲)、喫煙、女性>男性、遺伝、体重が増加中、他の肝疾患をもっている、
・アルコール性肝障害のリスク軽減に関与
コーヒーを飲む
・アルコール肝障害のリスクへの関与が疑わしい
お酒の種類、肥満な人の適量のアルコール摂取
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ということです。それを踏まえて肝臓をよくするための対策を、幾つか挙げてゆきましょう。
3-1.適度な飲酒
「当たり前じゃねぇか」と、声が聞こえてきそうです。でも一番はこれです。いくら肝臓に良いことをしても、その分飲酒量を増やしては意味がありません。量が増えれば当然アルコール性肝障害・肝硬変のリスクはあがります。もちろんアルコールは肝臓以外の臓器への影響もあり、米国肝臓学会では男性2ドリンク、女性1ドリンクを推奨していますが、国により若干の違いはあるようです。日本ではアルコール換算で一日20g程度、女性はそれより少な目とされています。
3-2.休肝日をつくる
肝硬変になるリスクが、週2-4日飲む方人と比べて毎日飲む人は3.7倍、週5-6日飲む人と比べて2倍程度?(有料文献なので、詳細なデータまでは確認しておらず、グラフより推察)と言われています。
週に1-2日は飲酒しない日をつくりましょう。
3-3.食事を食べながら、でも食べ過ぎないように
飲酒をするときは、食事を食べましょう。食事を摂らないで飲酒する人は、食事を摂って飲酒する人の1.45倍肝硬変は多いと言われています。
とはいえ、食べすぎは肝臓の脂肪化を進行させます。アルコールを摂取(静脈注射)すると、食事量が7%増加したとの研究結果もあります。食べ過ぎは脂肪肝を生じ、肝障害の進行のつながります。飲酒するときはしっかり食事を食べつつも、食べ過ぎにも注意しましょう。
3-4.禁煙しましょう
デンマークの報告で、225例のアルコール性肝硬変を調べると、喫煙者は非喫煙者の3.9倍肝硬変になりやすいとあります。これも有料文献なので詳細は確認していないのですが、恐ろしいのは最後の結論”Conclusions: Smoking was associated with an increased risk of liver cirrhosis independent of alcohol intake.”、つまり「喫煙は、飲酒量に関係なく肝硬変のリスクを増加させる。」とあります。飲酒するのであればタバコは吸わない!は大事です。
また受動喫煙の報告は見当たりませんが、同様の結果が予想されます。分煙していない居酒屋には行かない方がよいと思われます。
3-5.1日2杯以上コーヒーを摂るとよい
珈琲についてはメタアナリシス論文があって、1日2杯のコーヒーが、肝硬変へ進行させるリスクを半減させるとされています。主にカフェインやカフェストールの抗炎症、含有物質の酸化ストレス効果であったり、肝の線維化抑制であったりするそうです。文献を調べるとろ過式も煮沸式も特に変わらないとのことですが、インスタントは症例数が少なかったからか、記載がありません。おそらくインスタントコーヒーや缶コーヒーはカフェストール含有量が少ないので、効果が低いものと思われます。
また、カフェイン抜きコーヒーでは効果が限局的(肝がんへの効果は乏しいが、慢性肝障害への効果はある)であるとのことです。また、カフェイン入りの他のお茶(紅茶、緑茶)では効果がないとも言われています。やはりコーヒーの効果はカフェインの効果のみならず、クロロゲン酸やカフェストールによる抗酸化効果や、線維化抑制なんだと思います。
ちなみにコーヒーを飲んでいる人の方が、肝臓の値が低いという国内データもあります。
飲酒する方は、インスタントや缶コーヒーではなく、ろ過式や煮沸式のコーヒーを一日2杯以上摂取する生活を心掛けるのはいかがでしょうか。
3-5.遺伝もあります
肝臓に脂肪が蓄積しやすくなるPNPLA3やTM6SF2、MBOAT7の変異はアルコール性肝障や肝がんのリスクを増加させます。逆にHSD17B13の変異はアルコール性肝硬変や肝がんのリスクを低下させます。
これらの遺伝子検査を日常的に行うことはできないのですが、親族にアルコール性肝硬変や肝癌の方がいるようであれば、やはり飲酒は控えるのがよいと思われます。ちなみにアルコール性膵炎も同様のことが言えます。
4. それ以外よいといわれるもの
4-1.ウコン
お酒といえばウコン!という人も多いのではないでしょうか。ウコンはその中のクルクミンという成分の抗酸化作用、脂質代謝の改善、抗腫瘍効果などが言われています。また運動や、お酒+運動の酸化ストレスと炎症を抑えたという報告もあります。
ですが、高濃度のクルクミンは肝障害を進行させたというデータもあります。またウコンは肝臓によくない鉄分を含有しており、もともと肝臓に悪い側面も併せ持ちます。結果ウコンの摂取による薬剤性肝障害でお亡くなりになることから、過剰摂取や日々の摂取は控えるのが賢明と思われます。
文献的にも肝硬変・肝癌への進展を抑える証拠は乏しいので、日々摂取して肝硬変・肝癌にならないように飲むものではなく、一時的に肝臓の働きを高めて酔いすぎないように・二日酔いならないように摂取するものだと思います。飲酒量が多い時や、運動後に飲酒をするときなど、時々摂るのが賢明と思われます。
4-2.シジミ
オルニチンやタウリン、ビタミンB2などが含まれ、CMなどでもお酒のお供として広告されています。ただ医学論文にはこれらの成分の、アルコール性肝障害への効果を述べた報告はほとんど見当たりません。
少数ながら、鉄とアルコールを加えた肝臓にタウリンを投与すると、酸化ストレス、ミトコンドリア損傷、細胞毒性や細胞死を抑制する。台湾シジミのプロテオグリカンが、マウスにおけるアルコール性肝障害を改善させる、などがあります。もとよりシジミには鉄分も多いので、ウコンと同様に過剰摂取には気を付けた方がよいかもしれません。商用HPかもしれませんが、シジミの効果のデータを出しているHPのアドレスを貼っておきます。
いずれにしてもウコンと同様に、飲みすぎたときや二日酔いの時に、肝臓での代謝をサポートするために時々摂取するのがよいと思います。
4-3.適度な運動
適度な運動は酸化ストレスに対する抵抗力をつけると言われています。しかし過度な運動は逆に酸化ストレスを生じるとも言われています。一応ラットにおいた研究で、運動により肝臓の酸化脂質と、抗酸化力の改善がみられた報告があります。日々適度な運動をすることは、肝硬変への進展を抑え、肝臓の寿命を延ばすことにもつながると思います。
4-4.その他
その他論文報告であるのは、プーアル茶やfish oil、ニンニクはラットやマウスで、腸内細菌叢を整えることによりアルコール性肝障害を改善させる効果があると報告されています。アロエベラもマウスにおいて抗酸化力、脂質代謝亢進などで効果あるとも言われています。また、最近のメタアナリシスでは否定されたものの、緑茶のカテキンの肝庇護効果も報告はあります。国内では血清β-クリプトキサンチンが高いとγGTPが上がりにくいとの報告があります。なので、それを含んだ温州みかんがよいかもしれません。
一般には、大豆製品や柿などもよいと言われていますが報告は見当たりません。
これ!というものはなく、またアルコールの代謝にはたんぱく質やビタミンB群、ビタミンC、亜鉛など多種のものが必要です。「これを食べたらOK」ではなく、「偏りなく色々なものを食べよう」になるわけです。
5. 薬ではなにがあるでしょうか
5-1.肝臓加水物
いわゆる「ヘパリーゼ」です。医療用医薬品ではプロヘパール錠というのがありました(今は原材料の高騰により販売中止)。文献検索すると多くが日本の報告で、主には酸化ストレスの軽減により肝障害を軽減する効果があるというもののようです。プロヘパール錠の添付文書をみても、蛋白合成能の向上、脂質代謝能の改善、肝細胞の再生亢進、肝臓の血流亢進など、肝機能の改善が主のようです。肝硬変への進展、発がんの抑制の報告など、長期的な予後に結びつく報告は見当たりません。
つまりは肝臓が悪いから日々摂取するというのではなく、飲酒量が多くなりそうなときに摂取するのがよいと思います。ちまたでは二日酔い予防で用いるのが主流でしょうか。
5-2.(再掲)ウコン
一応ここでまたウコン・・・「ウコンの力」について書こうと思います。
前にも書きましたが、ウコンは含有する鉄分が多く、それが肝臓に障害をもたらす可能性があります。また有効成分のクルクミンも、高濃度になると肝障害をもたらす可能性があります。
肝臓の悪い方は鉄が過剰なになっていることも多く、特にそのような患者様には1日鉄6mgを推奨していた時代もあります。ウコンの力は製品にもよりますが、0~0.6mg程度含有されているようです。多くはないのですがヘパリーゼと同様に、連用せずに時々飲む程度をおすすめします。巷ではお酒が弱い人がお酒を飲まないといけないときに、摂取する方が多いでしょうか。
5-3.整腸剤は効果乏しい?
腸内細菌がアルコール性肝障害の病態に関与あるのであれば、整腸剤は?と思われる方は多いかもしれません。ですが調べてみると文献は少ないんです。一応ラットにおけるアルコール性肝障害に対するLactobacillussalivariusとLactobacillusjohnsoniiの肝庇護の報告はあります。どちらも培養肝細胞では効果がみられたものの、ラットでは前者の乳酸菌のみ改善効果が見られたようです。どちらもヨーグルトやキムチなどに含まれる一般的な乳酸菌ではなく、サプリメントで販売されている菌種のようですんね。
まだまだ整腸剤で肝臓を!というには証拠が乏しい印象です。
ただ飲酒する方は、腸が弱い方が多いので、体調管理の意味で摂取されるんはよいかもしれません(自分も摂取しています)。
6.結局何がいい?
結局何がいいんだ!?と言われそうです。
アルコールによる肝障害は「これが決め手!」対策はありません。お酒の量を減らすことを第一に、バランスのよい食事を食べながら飲酒すること、普段は適度な運動を心掛け、喫煙はしないこと、適正体重を維持する事が大事と思っています。
休肝日を設けて、可能であれば1日2杯のコーヒーと、飲みすぎるかもしれないときだけ、ウコンや肝臓水解物などのお世話になるのがよいと思っています。
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