見出し画像

都市木造への考察⑥ 都心(森)林をつくる|土に住まう作法

現代の日本の集合住宅の多くは高層化により大地と離れて暮らすことを余儀なくされており、行政指導等で建物の緑化が促されているものの、本質的に大地に根ざした生活を送ることはできない。ウィズ・コロナ社会の都市の在り方が議論されているが、コンパクトシティの流れの中で都心部に集中して住むライフスタイルにおいても、戸建の庭の気持ちよさや、家庭菜園による自給自足、そこから生まれる新しいコミュニティなど、大地からの様々な恩恵を求めている人々は少なくない。一方、建物の高層化、都市化によるヒートアイランド現象、大気汚染、水質汚染等による環境問題は全世界の都市部において早急に解決されるべき課題であり、東京の都心部においても例外ではない。

本計画では、建物の高層化が避けられない中で、大地に根ざした豊かな暮らしを実現し、また高層化による都市機能としての付加価値を生み出すことを目的とする「躯体内緑化構造」を開発した。「躯体内緑化構造」は緑化の主要素である水、土、植栽のメカニズムに着目した、PC材のユニット化によるハニカム状の構造体であり、ユニット間にできた空隙に土を充填し、水の流れを可能とすることで高層階においても大地との生態系のつながりを実現するものである。また居住空間の廻りに配された土による、断熱効果や輻射冷暖房としての利用など複合的な環境効果も見込むことができる。計画案はそれを応用したケーススタディである。

背景
2050年には現在の日本の人口は3/4に縮小し、高齢者率は4割に増大すると予測されている。高度経済成長時に市街地が無秩序に拡大され、都市を取り巻く緑地の消失を招いている。人口減少傾向の中、コンパクトシティにより郊外の農地、漁場、森林等のストックの保全を行うともに、都市部にコンパクトに住みながらも地域性、歴史性、人間性を重視したエコライフスタイルを実現する居住空間の需要がますます増加していくと考えられる。


躯体内緑化構造

現代日本において必要容積を確保するための高層化が避けられない状況にあって、高層階においても、大地を耕すライフスタイルが可能となり、土、水、植栽によるアメニティ溢れる空間を実現する躯体内緑化構造を提案する。住宅ユニットを積層すればするほど新しい大地は上部へと拡大していき、ヒートアイランド現象の軽減効果や、初期雨水流水抑制機能等の都市的機能を果たすことができる。

躯体内緑化構造のダイアグラム
ハニカム型構造体ユニットの繰り返しによって生まれる躯体内の空隙に土・砂利を挿入し、上階から下階への水の自然な流れを確保することで、ユニットの各所で躯体内の土を利用とした平面緑化、壁面緑化、内部緑化が可能となる。

PC構成図
壁・天井・床PCから構成されるハニカム型構造体を1ユニットとし、その集合による建築の高層化を考えることで、環境への配慮、生産性・施工性の向上を図っている。

土利用輻射冷暖房
空調は、土を利用した輻射空調とする。輻射空調は、空気を介して冷暖房する対流空調に比べて室内の温度むらが少なく、室内どこでも快適性の高い空間とすることが可能になる。
具体的には、中央熱源からの冷温水(若しくは地下水)を土中へ通過させ、冬期は土を加熱、夏期は冷却し、その輻射を利用することで快適な室内温熱環境を確保する。
土は温まりにくく、冷めにくいといった特徴があるが、一度土の温度を調整すれば、少しのエネルギーで変化に対応することができる。そのため、通常の空調システムでは夏期は正午過ぎ、冬期は空調立ち上がり時に最も空調の消費電力が高くなるが、土の蓄熱を利用した年間放射冷暖房を行うことで、ピークを抑え、電力消費量を平準化させることができる。
ピークシフトや電力負荷の平準化は、発電所はピークに合わせた設備が不要となるので設備の利用率を上げることができ(高効率な定格運転を行うことができる)、利用者にとっては契約電力を下げられるというコストメリットもある。

住戸計画・景観計画
各住戸は土に囲まれているために、住戸内・外において平面緑化、内部緑化、壁面緑化が可能となる。

構造・設備計画
各階の壁を放射状に配置し、各棟を高層部で連結することによって耐震性能を有している。また本計画は低影響開発(通称LID)の思想に基づき、水源である降雨や雑排水を敷地レベルで管理する個別循環方式を採用し、高価で集中化された輸送と処理のインフラへ大きな投資を行う替わりに、管理と処理施設を敷地の内に建設することで、表面流出、汚染、浸食を減らし、沿岸全体に与える影響を最小限に抑える計画としている。また配管や地下のインフラ、不浸透性舗装の削減のため、従来の雨水管理に比べて建設や維持費用、貯水施設面積を抑えることができる。

スケールによる躯体内緑化構造の主な効果
単体のユニットにおいては心理的心地良さ、食物生産作用など、その集合からなる建築においては延焼防止効果、雨水貯留効果など、さらに都市においてはヒートアイランド軽減効果、雨水流出削減効果など、躯体内緑化構造の効果はそのスケールに応じて多様である


躯体内緑化構造による空間構成パタン

ユニットの集合によって生成される空間構成パタンはそれぞれ独自の空間特性を持っている。ユニットの組合せからなるスキップやクロスメゾネットなどの住居空間を始め、その集合からなるヴォイドや、都市におけるインフラストラクチャーとしての利用など、配置される環境や条件に応じて取捨選択することができる。


ニュー ネーチャー エレベイテド ハウジング
計画地は東京の副都心である新宿に位置し、過密化した建築群に囲まれた公園である。都心部の大型公園は、既存の建物を取り壊すことなく建設することができ、躯体内緑化構造によりその公共空間や緑地を立体的に拡大できるという点でも都合が良い。建物の配置については、環境への影響を最小限とするために、既存の樹木を避けた位置に低層部構造体を配置し、周辺の緑が緩やかに高層へと連続する形態とした。

ケーススタディムービー|ウェディングケーキの集合住宅
(テレビ東京 未来シティ研究所より)

都市木造への考察の原点となった、都市に森林そのものを作り、全生命にとってよい都市環境を創造しようという試みである。
(文:大庭拓也
(パース:角田大輔)

BACK NUMBER
都市建築への考察① 「背に腹はかえられない」とは言えない木材利用|木材の基礎知識
都市木造への考察② 木材利用と森林保護の両立|産地へのロマン
都市木造への考察③ 「地産地工(ちこう)」を目指して|ウッドマイルズの教え
都市木造への考察④ 医療従事者とともに日本の森林が命を守る|医療×つな木
都市木造への考察⑤ 「つな木」プロジェクトについて|TBSラジオ「ACTION」出演(文字おこし)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?