「共通善」を囲む共創型イノベーション


武蔵野美術大学大学院 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第5回目 2020/06/15

今回は産業技術総合研究所の江渡浩一郎さんのお話を伺った。

江渡さんは学生時代からメディアアーティストとして活動され、アルス・エレクトロニカで受賞もされ、さらに作品が常設展示物にも選ばれている。また日本未来科学館の「インターネット物理モデル」も手がけられており、インターネット黎明期から国内外で大活躍されている。

私自身、老舗インターネットプロバイダーで働いていた経験があり、雑談の中で聞いた古参のエンジニアたちが、いかにインターネットの登場で世界と繋がるワクワクを経験したか、どんなことに応用してやろうかと悪知恵を働かせたかなんていうエピソードとリンクして、とてもとても興味深くお話を伺った。

江渡さんは今産総研の人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム所属しておられ、創造的な場を支える仕組みを研究されている。

wikipediaを成功に導いた共創の原理というお話も印象的であり、考え方の源流には「パターンランゲージ」があったそう。元々は良い建築を設計するにはどうするか、利用者が自分自身で設計を考えればいいのでは?という考えの方法論であるが、この考えがプログラミングやwebの世界にマッチして、発展。アジャイル開発の源流もここから来ているそうだ。

wikipediaの最初の7つのメタルールも興味深く、あらゆる共創の場に応用できそうだと感じた。

1. 全てのルールを無視する
2.常に未完成の部分を残す
3.専門用語を説明する
4.偏向を避ける
5.変更は統合する
6.明らかな無意味は削除する
7.執筆者に機会を与える

4番の「偏向を避ける」を元に中立的視点というルールが考えられ考えられ、これが現在も続く中心的なwikipediaのルールになっているそうだ。

続いて江渡さんが仕掛けられた「ニコニコ学会β」のお話はめちゃくちゃ面白い。

年に2回、5年間限定で、最先端のプロの研究者と自分のパッションぶつけたい野生の研究者発表や討論を行うユーザー参加型研究発表会という企画である。日本人全員を科学者にするという大きなテーマと目標(後述する共通善)を持ち科学は一部の専門家だけのものではない、あなたも科学者というメッセージを持って実施された。

野生の研究者という表現が秀逸で個人的にとても刺さった。ポケモンの世界でいう野生のケンキュウシャが飛び出してくるイメージだそう。

この企画の5年という期間に意味はないが、終わりをあらかじめ決めるということをされたそう。結果的に運営面などにおいても永続的には厳しくちょうど良いスパンだったと振り返っておられる。

また私個人的な体験とリンクして刺さっているのだが、今お仕事をさせてもらっている国立の研究機構では様々な研究に日々取り組んでいる研究者たちがいる。一見とっつきにくく何のどこの部分でどんなことにつながるのかが素人目にやさっぱりという感じもあるが、お話を聞いてみるととても世の中を読み解く科学研究はどれも驚くほどダイナミックで痺れるなあと体感。研究者の探究心と情熱はとてつもなく、非常に面白い人たちである。

これを知った状態で、ニコニコ学会のような一般の好奇心旺盛な人たちとプロ研究者がつながるような企画というのはどんなに素晴らしいかと鳥肌がたった。5年で終わってしまったのは残念だが、このような企画がまた世の中に出てくることを期待したいなと思った。
子供の頃に憧れた科学者に私もなりたい。という人が結構いると思う。私の主観で偏向しているかもしれないが。。

最後に、共創と協業についてのお話

協業は利益を分け合うことに主眼が置かれている。

共創は「共通善」(共通の大きな目的)に向かって異質な才能が集結するところに意義ある。

共創は事前に「協調せずに」行動する。これが協業との大きな違い
(役割をあらかじめ決めておかない)
得られた知見:「共通善」を設定するところに鍵がある。


江渡さんが共創型イノベーションに興味を持たれたきっかけについての質問では、webを通じたものづくりの経験の楽しさがあったそう。

アイディア、プログラミング、音楽、デザインなどそれぞれの特技を持ち合わせて、それが組み合わさって1つの作品になるのが面白かったそう。
ご自身が創作活動したいという情熱があった頃から共創の場を作るという仕事を行うことで、創作活動も行えるという考えから今のスタイルでお仕事をされているそうだ。

そして今の関心は肉だそうで、肉肉学会を企画されている。

真面目な話フードテックや食の未来とコンピュータの繋がりは江渡さん界隈では関心が高い分野だそう。

太い基軸のある人の視座の高さや発想はやはりすごいなと感じた講義出会った。

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