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第2章 会社の「安全性」を見るポイント


7.「運転資金」の管理で企業価値を向上!



会社を運転するために必要不可欠である資金

 会社の資金繰りの管理と計画では、「資金」を次の3つに区分します。
1.日々の決済に充てる「現金資金
2.本業を継続するうえで必要となる「運転資金
3.設備投資を行うときに調達と運用のバランスを考えるべき「固定資金

 このうち、運転資金は信用取引(ツケ)と在庫(売れ残り)に関する回収と支払いの時間差から生じる資金であり、商売を維持(=会社を運転)していくうえで必要不可欠なお金をいいます。
 運転資金は、貸借対照表に計上されている売上債権(受取手形と売掛金)と棚卸資産(在庫)の合計額から、仕入債務(支払手形と買掛金)の額を差し引くことで求めます。

  運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務


 売上債権と在庫は、お金になるのを待たされている運用、仕入債務は支払いを待ってもらっている調達です。
 つまり運転資金は、資金運用額から資金調達額を差し引いた金額であり、商売を続けるうえで自社が用立てなければならない資金需要額といえます。


運転資金は資金繰りの悩みのタネ



 運転資金は、手許の余裕資金を取り崩すか、新たな資金調達を起こすか、いずれかで用立てることとなります。商売維持に必要不可欠な運転資金は、できるならば自由に使える手許の自己資金でヤリクリすることが望ましく、自己資金で足りない場合は短期借入金、手形の割引き、当座預金の借り越しなどの資金調達を考えます。

 自己資金を充てれば、本来得られるはずの運用益を得る機会を逃します。短期借入金、手形割引、当座借越など新たな資金調達は金利が発生します。
 いずれの方法によってもコストがかかるため、運転資金が増大することは資金繰りを悪化させる原因となります。
 運転資金は資金繰りの悩みのタネであり、運転資金の管理がおろそかでは「企業価値」も向上しないわけです。

 では、この企業経営に欠かせない運転資金を、次の図のように物の動き、会計取引の記録、時間の経過に沿って整理しておきましょう。


時の流れと物の動きで「運転資金」をイメージ




 貸借対照表は流動性配列法により売上債権を上に表示しますが、物の動きを考えるならば、まず棚卸資産に資金が投下されます。
 棚卸資産は売れるまで資金回収できません。
 注文を受けて棚卸資産を出荷すれば売上高に計上しますが、信用取引では売上代金は後で回収するのが基本です。ツケで売った売上債権は回収するまでお金になりません。その一方で、仕入取引も信用取引ですから棚卸資産をツケで仕入れた仕入債務も支払うまでお金が流出しません。

 結果として、棚卸資産と売上債権の合計額である運用と仕入債務(調達)との差額が運転資金となります。

 売上債権の回収速度を速めるとともに回収モレを防ぐこと、在庫管理を徹底して保有期間を短縮すること、仕入債務の支払期間を適正化することなどにより、運転資金の額が膨らまないようにする企業努力が不可欠です。


「運転資金月商倍率」を捉える

 運転資金の計算要素である売上債権、棚卸資産、仕入債務は、基本的に、売上規模に連動して増減する科目です。
 そのため、一般的には、売上が2倍になれば運転資金も2倍必要となり、売上が半分に落ち込めば運転資金の需要額も半分でよいことになります。

 そこで、「運転資金月商倍率」を計算することにより、運転資金の額が売上規模と比較して増大していないかどうかチェックできるわけです。
 運転資金月商倍率(=運転資金÷平均月商)とは、商売を続けるうえで必要となる運転資金が平均月商の何倍か、言い換えれば、月商の何倍に相当する資金需要額を立て替えているかを見る指標です。
 もしも運転資金月商倍率が2倍であれば、2か月分の売上代金に相当する運転資金の額を常に用立てる必要があるということです。

月商の何倍に相当する運転資金が必要かチェック


 同じ製品を同じ決済条件で取り扱っているならば、運転資金月商倍率に大きな変化はないはずです。にも関わらず、売上高に対する運転資金の負担期間が長くなっているようならば、在庫の数量と価格、売上債権の回収実績、仕入債務の支払状況を調べてみなければなりません。

運転資金がマイナス! の業態もある

 業種、業態、業界の特性により、商売での決済条件には違いがあるため、売上債権の回収期間、仕入債務の支払期間、在庫の保有期間は異なります。
 会社によっては、注文を受けてから仕入れた商品を現金売りする一方で、仕入代金は買掛金で支払いを待ってもらうなど、運転資金がマイナスとなる商売もあります。
 そのため、運転資金月商倍率は他社と比較するのではなく、自社の過去の実績と比較し推移を見ることで経営管理に活用すべき指標です。
 また基本的に、運転資金月商倍率には目安となる標準指標もありません。

 自社の運転資金月商倍率を把握しておくことで、売上規模に比較して運転資金だけが増大していないかチェックすることが大切です。それに加えて、「運転資金計画」において運転資金月商倍率を使用することとなります。
 具体的には、利益計画に基づく売上予想額をもとに、運転資金(=見積りの月商×現状の運転資金月商倍率)の計画を立てることができます。

 「運転資金」は資金繰りのカナメであり、また企業価値を左右するため、日頃の経営でしっかり管理しておくことが重要です!



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