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第6章 「生産性」の高い会社であり続けるために


3.「付加価値」で見る優良企業の条件 



1人当たり「付加価値額」が大切


 付加価値は、その総額も重要ですが、何人の従業員で生み出したかという視点で見ることが、より大切です。
 そこで、「1人当たり付加価値額」に注目します。

 1人当たり付加価値額(=付加価値額÷従業員数)とは、算式のとおり、従業員1人が生み出す付加価値額という意味です。
 「付加価値生産性」とも呼ばれます。
 1人当たり付加価値額が大きいほど、生産性の高い会社といえます。

生産性が高い会社かどうかをチェック




 たとえば年間10億円の付加価値額を生み出す場合であっても、従業員50人の会社と従業員100人の会社では、その実力には大きな差があります。

 年間10億円の付加価値を従業員数50人で生み出したならば1人当たり付加価値額は2,000万円です。一方、従業員数100人の会社では、1人当たり付加価値額は1,000万円と2分の1です。当然ながら、従業員50人の会社の方が少数精鋭で成果を上げていると評価できます。

 ここでの従業員には、役員、従業員、パート・アルバイト勤務者など付加価値の創出に貢献している人はすべて含めます。
 そして従業員数は、期首と期末の従業員の合計人数を2分の1するなど、期中平均人数とします。当期の後半に多くの従業員が退職したり、反対に、新規採用が多い場合など、期末人数で計算すると正しい付加価値生産性を求められないためです。

 また、従業員のうちパートタイム勤務者は、労働時間で人数換算します。たとえば、4時間労働者で0.5人、6時間労働者で0.75人として従業員数に含めます。

1人当たり付加価値額より高い給料は支払えない


 付加価値生産性は、付加価値額を従業員数で割った数字ですから、次に見る「費用分配」や「利益分配」をする前の金額です。
 当然ながら、1人当たり付加価値額よりも多い平均給料は支払えません。 

 会社が永続的に発展するためにも、納得して高い給料をもらうためにも、つまり労使ともにハッピーとなるためには、1人当たり付加価値額を高めることが重要ということです。

 このように、付加価値額を1人当たりで見るべきというのは、国内総生産(GDP)についても同じことがいえます。
 現状、わが国は世界第3位のGDPを生み出している経済大国なのですが、第4位のドイツに抜かれそうな勢いです。
 そして「1人当たりGDP(US$ベース)」では、OECD加盟国34カ国中では21位、世界全体193カ国中で31位となっています。 
 もちろん為替レートに影響されますし、1人当たりGDPが上位である国には金融サービス業などで稼いでいる人口の少ない国もあるため、同じ土俵で単純には比較できないのが事実です。

 しかし、ほんとうの経済的な豊かさはGDP総額ではなく1人当たりGDPの大きさで計られることを考えると、やはりもう少し頑張りたいところです。


上手に「分配」したい付加価値


 続いて、付加価値生産性の高さに加えて、生み出した付加価値額をいかに上手に「分配」したかを見ます。
 同業他社よりも高い付加価値額を生み出す会社は優秀ですが、せっかくの付加価値が下手な分配で消えてしまっては存続発展が危ぶまれます。 

 「付加価値の分配」というと難しく聞こえますが、付加価値額をどのように使うのかと考えてください。
 付加価値の使い方には、費用として消費する「費用分配」と、利益の処分により社外流出する「利益分配」の2つがあります。

 考えてみてください、会社の内外で分配を待っている人は大勢います。
 従業員は給料、銀行は利息、家主は地代、国は税金、株主は配当金という分配を期待しています。

 費用分配の相手先としては、労働を提供してくれる従業員、お金を貸してくれる金融機関、土地や建物を賃貸してくれる家主、安全な社会というインフラを整備してくれる国や地方公共団体など、さまざまです。
 それぞれへの分配額は、給料手当、支払利息、地代家賃、租税公課、法人税等などの科目で、「損益計算書」に表示されます。

 そして利益分配とは、株式出資の果実を期待する株主への配当金であり、「株主資本等変動計算書」に記載されます。
 付加価値の分配を受けることを期待している相手先は多いのです。


将来の発展にために会社自身にも内部留保として残す


 

 従業員に高い給料を支払いたいけれども人件費にばかり分配できません。資金調達コストの利率も定期的な見直しが必要です。納税は義務とはいえ、無駄に支払うことがないよう健全な節税策も大切です。
 株主への分配を最優先するのも上手な経営とはいえません。

 これらの費用分配と利益分配を上手に行った後の残額が、会社自身への内部留保として手許に残る金額(利益剰余金)となります。
 永続的な企業経営のためには、将来投資の原資として会社にも付加価値額を残しておかなければなりません。
 付加価値の上手な分配には、経営手腕が問われるのです。
 
 優良企業とは、1人当たり付加価値額が高く、かつ、付加価値額の上手な分配ができる会社といえます。

 1人当たりの付加価値額の大きさに加えて、生み出した付加価値額の分配が大切ということは、国に置き換えても同じことがいえます。

 わが国は世界第3位の経済大国にも関わらず、国民が将来に希望を持ち、安心感のある生活を送り、幸せを実感できない、なんてことがあるならば、政府の分配が上手ではないから、ということになってしまいますね。


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