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第2章 会社の「安全性」を見るポイント


2.1年以内の資金繰りは破たんしないか?



流動資産で流動負債を返済できるか?

 先に見たとおり、貸借対照表は、「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」「純資産」の5つの要素に区分して報告されます。

 流動資産は、正常な営業活動循環内にある受取手形、売掛金、棚卸資産、1年以内に資金化される予定の資産です。
 一方、流動負債は正常な営業活動循環内にある支払手形および買掛金と、1年以内に返済しなければならない負債です。

 そこで、流動資産と流動負債の金額バランスを比較することで、期末日より1年以内の短期的な資金繰りに問題がないかどうかチェックできます。
 流動どおしを比較する比率なので「流動比率」と呼ばれています。

 流動比率は、流動資産が流動負債よりも多いかどうかをみる指標です。
 平たくいうと「1年以内に返済する約束の借金取りがやってきたときに、1年以内に資金化できる流動資産で返済できるか?」ということです。

流動資産と流動負債の大きさを見比べる


 流動資産が流動負債より大きいならば、流動資産を換金して流動負債を返済しても流動資産と流動負債の差額相当額の資金が残る、つまり、1年以内の資金繰りには余裕があると判断できます。


基本的には、高いほどよい「流動比率」

 流動比率(=流動資産÷流動負債)は、流動資産を流動負債で割って計算します。流動資産と流動負債が同額であれば流動比率は100%、流動資産が流動負債を超えているならば流動比率は100%を超える結果となります。 
 基本的には、流動比率は高いほど良い経営指標です。

一般的に流動比率は200%程度が理想


 流動比率は「200%」を超えるべきである、つまり、流動負債の2倍相当額の流動資産を所有していることが望ましいとされており「2to1ルール」ともいわれます。
 これは、いざ流動資産を換金しようとした場合に、売れ残った棚卸資産を半値で見切り処分をしなければならない、回収不能となった売掛金がある、前払費用や仮払金が多いなど、貸借対照表に計上されている帳簿価額どおりの金額で資金化できない資産が含まれている可能性もあるためです。
 それらを考慮しても、流動負債の2倍程度の流動資産を保有していれば、短期的な資金繰りには余裕があるといえます。


「流動比率」が高くても安心できないケース

 一般的には、流動比率が高い会社では、流動負債をすべて返済したとしても手許に多くの資産が残りますので1年以内の資金繰りは安泰といえます。
 ただし流動資産のなかに、回収が遅れている売掛金、長期間売れ残っている在庫などが含まれていないか見ておくことが必要です。これらの資産が多いことで流動比率が高くなっているようでは問題があります。
 この他にも、翌期以後の費用の前払いである前払費用、長期間にわたり精算されていない仮払金なども1年以内に資金化される資産ではありません。

流動資産の中身を見ておきましょう


 また、流動負債の額が極端に少ないことにより流動比率が高くなっている場合も要注意です。たとえば商品の仕入代金について、支払手形や買掛金による信用取引から現金決済へ変更を余儀なくされているケースでは流動負債が少なく表示されます。その結果として流動比率が高くなっているのでは、大いに問題があります。


「流動比率」が66%でも安全な会社

 基本的には、流動比率は高いほど短期的な資金繰り状況も良好であるといえます。ただし、流動資産をできるだけ圧縮する会社運営の戦略をとっている場合には、流動比率が低めになることもあります。
 たとえば、商品の保有期間や製品の製造期間をできる限り短くする、売掛金を「債権譲渡」することで資金化のスピードを早めている場合などです。

 また、重装備型企業であるJR西日本の流動比率は66.6%という低さです。鉄道会社は設備投資型の産業であり固定資産の比重が大きい一方で、売掛金や在庫を抱える業種ではないため流動資産は小さくなります。
 しかし基本的に、日々の運賃収入を現金回収する商売なのでキャッシュフローは安定しています。流動資産が流動負債の67%程度であっても、1年以内の資金繰りで破たんすることはありません。

 食品スーパーのライフコーポレーションも流動比率は62.8%です。現金商売の小売業では、売掛金が少ない一方で買掛金は多く計上され、また商品回転率も高いため売上高や総資産に占める商品の割合は低くなります。結果、流動資産よりも流動負債が大きいため流動比率は低くなります。

流動比率が低くても大丈夫な鉄道会社と小売業
    
      (注1)JR西日本は個別財務諸表、ライフコーポレーションは連結財務諸表                 (注2)百万円単位で開示された貸借対照表を億円単位で切り捨てて表示しています     (注3)流動比率は百万円単位で開示された貸借対照表をもとに計算しています


 これらの会社は流動比率が低くても資金繰りが厳しいわけではなく、それどころか逆に、その信用力の高さで長期借入金よりも金利負担の低い短期借入金などを固定資産投資に充てることができるという資金繰りの好循環さえ生む結果になっています。業種や業態によっては、流動比率が低くても安全運転できる会社もあるわけです。
 流動比率を見るときには業種や業態、経営戦略の違いも考慮しましょう。

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