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誰とどこでも学べるに形に向けて空間作りとコミュニティ作りへの挑戦【教室のフリーアドレス制とオープンスペース改革、授業改革の1年間の軌跡】

1年間かけて挑戦してきたことの1つに空間づくりがある。
子ども達がコミュニティのメンバーであることを自然と自覚するために、できるだけ多くのことを自分で決められるようにしたかった。僕の中で、将来子ども達が自律して学び・コミュニティを作っていくためのスキルを身につけて欲しいと思い、学びの空間から責任をもってもらいたかったのだ。

そこでまず始めたのが席の形を決めることだ。席の形は子ども達と相談して日直が一周したら投票によって形を変えるというものになっていた。これまで裁判型、床型、床と机型、班型、ペア型、トリオ型などなど様々な形にトライしてきた。そして、机の形を変える時にその期間の学びの充実度や親密度等をアンケートで取って、その結果をみんなで見た上で次の机の形のアイデア出しをしていった。

最初は、オーソドックスな形をやっていったんだけど、どの形にしても誰かしら満足しない人はいて、そこに対してみんなで悩みながら進んでいった。

転機は全員が床で学んだ時に、「やりやすい」「やりづらい」と賛否が分かれ、どうしても床で学びたい人と机で学びたい人が出てきました。「どうしても」が出てきた時は、みんなの中で新しい文化を作るチャンスだった。みんなで話し合い、必ずしも自分の席で学ばなくてもいいんじゃないかという意見から、席はあるけどそれは給食や朝の会で座るもので、それ以外の時には床で学んでも、空いてる黒板に近い席で学んでもいいんじゃないかという文化になっていった。そこから床で学ぶゾーンという文化かできてきて、机で学びたい人は学べばいいよねというどちらも共存するという学習空間になっていった。

しかし、いくらやっていってもいくつかの限界があった。1つは黒板という制限だ。黒板で授業をすることでどうしても前という概念があり、机の形に限界があった。次に席替えという制度だ。日直が1周したら席替えをしていたが、どうしても不満が出ることや席が近い人としか仲良くなれないこと、視力が低い子の席配置に制限が高いことが課題に上がった。

そこで、夏休みを使って教室を大改造した。まず電子黒板を廊下に出して、原則電子黒板でのみ授業をするようにした。電子黒板とタブレット端末を接続して、子ども達の端末でどこでも黒板の内容が見れるようにした。これによって視力が低い子は前という概念がなくなった。そして、音声さえ届けばどこでも学ぶことができるようになったのだ。



次に学び方の多様な選択肢を用意することだ。廊下の角に教室があったので、廊下に沿って長机と丸机を配置した。そして、電子黒板の横に学びに集中できない子向けの専用席も用意した。そして、ロッカーのそばにジョインマットを敷いて棚を机代わりにして学べる場所を作った。ノートも紙でもタブレットでもいいことにした。自分に合った場所で自分なりの姿勢や方法で学ぶ。学びの責任を子どもが持つことで、試行錯誤して失敗してやり直せる余白を作った。

次に取り組んだのは、席替え問題だ。こうなると席というものの意義が問われてくる。自分の席というものは何のためにあるのか。荷物置きにするだけではあまりにももったいない。悩みの先に見えてきたものは「フリーアドレス制」だった。

毎朝学校に来たらくじを引いて、自分の席を決める。そして、その席で朝の会と給食、帰りの会を受ける。それ以外の授業の時はどこでも授業を受けていいという形になった。帰る時には自分の荷物をロッカーに戻す。これによって日ごとに席が変わるので、「1日ならまあ仕方ないか」と割り切れるようになっていった。

しかし、このままだと、好きな子とずっと一緒にいるだけで他の子と仲良くなることができない。そう思ってコミュニティ作りのためにいくつかの仕掛けを作った。1つは雑談タイムだ。毎朝引くくじを「シャベリカ」というトランプにしていた。シャベリカにトークテーマが書いてあるので、まずは同じトランプの数字の人で集まって、呼ばれたい名前を伝え合い、その後にシャベリカのテーマについて雑談をしてもらった。そうすることで、必ず話したことがある関係にした。また雑談のスキルは大人でも難易度が高いので、その練習をしてもらった。話の中で相手の意外な側面を見ることができた。もう1つは毎朝のレクリエーションタイムだ。毎朝グループでミニゲームをしてもらった。指スマなどの簡単なものから、児童が作ったKahootやジェスチャーゲームなど様々だ。遊びは関係性を作る上で大きな力がある。これがあることで、同じ数字の人と自己紹介→遊ぶ→給食を食べるという3つのことを一緒にやってもらうことで、クラスの中でできるだけ多くの人と関係性を作っていくのだ。

こんな新しい挑戦だったのですが、子供たちと相談しながら正解のない中を試行錯誤していった。廊下で授業をすると先生の声が全クラスに響いてしまうので、電子黒板を教室の中に入れたり、ジョインマットを何枚も重ねることで簡易的な段差が生まれ、学習しやすいようになったりといろんなマイナーチェンジがあった。そして、このハード面への挑戦はソフト面の授業の在り方にも大きく影響を及ぼしていった。

1番大きな影響が出たのは、算数だった。1学期は学力が近しい人でクラス分けを行っていたが、学力と同様に学び方の相性があることが見えてきた。最初は授業内自由進度学習に取り組んでいたのだが、同じ学力でやるとあまり子ども同士のあまり相乗効果が生まれないことやどの学力層でも一斉授業のスタイルがあっている子も自由進度学習があっている子もいた。

そこで、考え方を変えた。こちらがクラスを決めるのではなく、子ども達が学びたい方法でクラスを選べるようにした。そうすることで、将来子ども達が自律して学ぶ練習に繋がっていくと考えた。一斉授業をするクラスが1つ、単元内自由進度学習に取り組みのが2つの教室とオープンスペースだ。これは子どもが自分の学びに責任を持って学ぶ取り組みだ。そしてそれを可能にしたのが、電子黒板の画面を子どもたちの端末で見れるようにしたことだ。そうすることで、どこにいても授業を受けられるのでオープンスペースでも隣のクラスでも必要な情報を受け取ることができたのだ。そして、算数は自律した学び手になることを目指して授業の組み立てそのものも変えていった。

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ハード面を変えたことで、多様な学びの在り方に耐えられる学習環境が生まれ、そこからソフト面の授業が変わっていった。誰とどこでも学べる空間の実現に向けて、試行錯誤が続いていった。ソフト面が変わるとハード面に更なる試行錯誤の余地が見えてきた。次はオープンスペースの改革だ。板橋区立板橋第十小学校は各学年のフロアにオープンスペースがある。4年生もオープンスペースがあって、何度も何度もその姿を変えてきた。



1学期は僕の私物の学級文庫700冊を配置したことで、本が手に取りやすい環境は作ることができたが、それ以上のことはできていなかった。2学期になり授業の在り方が変わっていく中で、オープンスペースもその在り方が問われていた。最初に目をつけたのは本棚だ。本棚を本棚としてだけ使おうとするとどうしても空間が狭くなって、ただ子ども達が活動できなくなるだけになってしまう。そこで本棚を繋げて大きな机の代わりとして活用した。また本棚があった壁際に長机をいくつか置くことで、ただ本棚がある広いスペースだったところに学ぶことができるエリアを増やしていった。そして、ブックカートは廊下や教室に近い位置に配置したことで、より子ども達が身近に本が取れるようにしたり、意図的に廊下に突き出すような形で置くことで、廊下を走る人を減らしたりした。結果として、ブックカートの廊下への置き方1つにも試行錯誤があって、結果として教室の前に置いておくのが1番が本を手に取ってもらってもらえて、且つ日常の学校生活に支障が出なかった。その分新しい机を廊下の一角に置くことで、教室とオープンスペースの間を繋いで、学びの空間を連続させることに役立ったと思っている。

このいくつかの変化はオープンスペースが広場から学びの空間へと以降していくステップだったんだと思う。オープンスペースや廊下という概念から学びの空間としての学校施設という新しい概念に変わっていったんだと思う。現に、廊下でも立ちながら問題を解いている子もいれば、オープンスペースで寝転がりながら真剣に話し合う子、本棚を使って丸つけをしている子、ありとあらゆる空間が学びの空間になっていく過程だった。

ただオープンスペースを変えていく中で次の課題にぶつかった。それは座れる場所の不足だ。オープンスペースを変えていこうとするとどうしても物品が必要になる。机に変わるものは用意できたのだが、それに応えるだけの椅子やジョインマットが足りなかったのだ。物品を購入することは年間の予算の関係上厳しく悩んでいた。そこで、まなびぱれっとと板橋第十小学校が連携して次の挑戦に挑んだ。それが文部科学省のCOーSHAプロジェクトへの公募だ。

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このプロジェクトを通して、3学期にはオープンスペースが充実し、子ども達の学びに応えられるだけのハード面が出来上がってきた。これまで椅子や座ることが少ないことで、どこか拡散的で子ども達も動き回りながら学ぶという拡散的な学びのスタイルの子が多かったが、腰を下ろして学びに向き合える空間が充実したことによって、目の前のことに向き合って学ぶスタイルの子が多くなっていく。これによって、どこでも目の前の学びに向き合うハード面が対応してきたことで、教室の机の形も子ども達なりに暫定解が決まっていく。

それが4つの机を繋げた班型です。学びの空間が多種多様かしていく中で机と椅子を使って学びたい子達にとって、広く机を使うことができる班型は使い勝手がよかったのだ。また、朝の雑談やレクリエーションタイムの時に話しやすく、遊びやすかったことや、給食の時に対話しやすかったことも大きな要因だった。しかし、これは黒板を見なければならない教室環境ではこの暫定解にはならなかったと思う。どこでも黒板が見れて授業が受けられて、誰とでもどんな姿勢でも学ぶことができるからこそだと考える。

これまで1年間かけて学びの場作りについて空間作りを中心に取り組んできたのだが、ハード面の挑戦はソフト面での挑戦のきっかけを作り、ソフト面での挑戦はハード面の改革にヒントをくれた。どちらかをすればいいのではなく、相互に循環する高め合いが新しい価値を生んでいったと実感している。

誰とどこでも学べるに形に向けて空間作りとコミュニティ作りはICT機器が充実してきている今だからこそ、できることがあると感じた1年間でもあった。これまでの学びのあり方を考え直すきっかけになっている今だからこそ、学びの空間のあり方について是非多様な挑戦が生まれていって欲しいものだ。

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