玉井玉吉

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    読んだ本を珍説・珍論の形式で解説。

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    まとわりつく雑念を閑人独語の形式で発散。

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    日本の文壇を分断する自作の小説を披露。

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【小説】お信(最終・第三部)

『お信』第三部 昭和六十二年、今年も彼岸を迎えたが暦に立つ秋は早く、夏の端はまだ残っていた。 熱海行き当日の朝。お信はフラフープで遊んでいた。腰をくねらせながら器用にフラフープを回すその姿を小猫が物珍しそうに眺めている。 「お信。そろそろ出掛けましょう。」 居間にいた継母がそう声を掛けると、お信は「うん。」と頷いてフラフープを納屋に戻し、庭からこちらへやって来た。 「で、お信。支度はできてるの?」 「まだなんにもしてない。」 「でしょうね。」そう言うと継母は、 「表で待っ

    • 【感想文】戦争と平和(第三部)/トルストイ

      ▼戦争と平和のあらすじ(第三部)【感想文(第3部第1編第1章~第23章)】オススメの党派について 第9章では、ナポレオンのロシア侵攻を阻止すべく、ロシア軍では九つの党派が形成され指導権争いが行われる。要は「この戦争誰が仕切んねん」であり、そこで今回は九つの党派の特徴を整理した上で、我がオススメの党派を紹介する。 以上、合計九つの党派が生まれ、そらまあ九派閥もあれば議論紛糾するのは当然なのであって、で、オススメの党派を挙げる前に私が言いたいのは「感情があるから戦争は起こる」

      • 【エッセイ】日々の含(第三回)

        日々の含 (第三回) 『ミニマリストに執着します』 先程からこの場所にひとり佇んで意気消沈している。 だってそうだろう、今私が立っているこの地はJR新宿駅の東口、つまりアルタ前ときたら非常に多くの人で賑わっているのだから。この賑わいは今日が金曜の夜だから来たる土曜を祝して賑わうのではなく、まず新宿駅に先立って「賑わい」が存在するのであり、これ無くして日本随一の歓楽街は成立しないといってよい。周囲を見渡せば、サラリーマン、OL、学生さん、お医者さん、象さん、キリンさん、熊さ

        • 【エッセイ】日々の含(第二回)

          日々の含 (第二回) 『まーた雨が降ってやがらァ』 ニュース番組を見ていたところ、ある社会学者の方が「現代はストレス社会である」と称してその弊害を語っていた。 ストレス社会、全くその通りである。だってそうだろう、令和のこの時代は昭和や平成といった一昔前と比べると、経済活動から情報技術に至るまで高度かつ複雑に発展しており、その結果、一見して我々は便利で豊かな暮らしを享受できている様でいて実はそんな事は無く、確かに肉体的・物質的には目に見えて便利になったものの、では一方で精神

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        【小説】お信(最終・第三部)

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          【エッセイ】日々の含

          日々の含 『新宿のええじゃないか』 朝刊の「日経平均株価が史上最高値を更新」という大見出しが目に止まった。 これぞ吉報である。だってそうだろう、株価の最高値は何も株主だけの利益に通ずるのではなく企業の時価総額、つまり企業価値の向上を意味するからであり、それに伴い企業の事業は拡大、従業員の給料も上がるわ経済も潤うわで最終的に我々は幸せな生活を送ることができるのだから。それにも関わらず私の生活に変化が無いのは一体どういうわけか。おかしい。というのも、株価は今日この時点で瞬間

          【エッセイ】日々の含

          【感想文】戦争と平和(第二部)/トルストイ

          ▼戦争と平和のあらすじ(第二部)【感想文(第2部第1編第1章~第2編第21章)】「それってあなたの感想ですよね?」とか言うな! ある議論の場において、相手の主張に対し「それってあなたの感想ですよね?」と言い返して相手を困惑させた者がおり、以降、彼が発したこのフレーズは、SNS等のインターネット界隈で幅広い層に用いられ、一時期は若者の流行語にも選ばれる程であった。こうした事柄について私が申し上げたいのは「『それってあなたの感想ですよね?』とか言うな!おいオマエさあ、あんまりナ

          【感想文】戦争と平和(第二部)/トルストイ

          【感想文】戦争と平和(第一部)/トルストイ

          ▼戦争と平和のあらすじ(第一部)▼新潮文庫版で読んでる方に朗報:私は本書を新潮文庫版で読んだ。なぜなら、実家の本棚には新潮文庫版しかなかったから。ただ、本書は新潮文庫版だけでなく岩波文庫版も存在し、そして岩波文庫版と新潮文庫版では章立てが微妙に異なっていた(といっても「部」の考え方が違うだけだが)。というわけで、岩波文庫版が新潮文庫版のどの部分に相当するのか調べたので新潮文庫版で読んでる方は参考にしてみて下さい。 ▼3回も書き直したという噂:前に別の記事でも書いたけど、トル

          【感想文】戦争と平和(第一部)/トルストイ

          【感想文】毛眼鏡の歌/川端康成

          『私が作った毛眼鏡をご紹介します』▼あらすじ: ▼読書感想文: ▼余談 ~ ぼくも毛眼鏡を作ったよ ~: といったことを考えながら、この感想文を母親に見せたところ「キモッ!!」と言われた。 以上

          【感想文】毛眼鏡の歌/川端康成

          【感想文】文鳥/夏目漱石

          『あるときないとき』大阪出身の人にとって、551の「あるとき」と「ないとき」では気分が全然ちがうらしい。これは何だってそう。本書『文鳥』にしてもそう。 そこで今回は、作中後半の「三重吉スルーのくだり」が「あるとき」と「ないとき」における作品全体の印象をそれぞれ説明する。 ▼「三重吉スルーのくだり」とは: ▼スルーがあるとき: ▼スルーがないとき: このように、「あるとき」と「ないとき」を比較したとき、両方に共通するのは手紙を通じた主人公の自己弁護であるものの、「ない

          【感想文】文鳥/夏目漱石

          【感想文】怒りの葡萄(下巻)/スタインベック

          『超好待遇読書感想文 ~ 宗教に関する解説編 ~』私は『怒りの葡萄(上巻)』の読書感想文において、無粋を承知で本書のレビューを行ったところ結果はなんと50点満点中49点という超高得点であった。さらに特別点プラス10点という快挙まで達成した。その根拠となる宗教的要素に関する解説は以下の通り。 【概要】 『怒りの葡萄』という表題について、この「ぶどう」を巡る宗教的示唆こそが本書最大の特徴である。まずは聖書を典拠としたぶどうの解釈を行い、本書ラストにおけるローズの行為から作品の

          【感想文】怒りの葡萄(下巻)/スタインベック

          【感想文】橡の花/梶井基次郎

          『梶井基次郎の肩幅に学ぶ純文学創作論』 を書こうと思ったけど無理だった。 ▼読書感想文: 今回の課題図書『橡の花』と過去に読書会で扱われた『Kの昇天』はいずれも書簡体の形式を取る。まず、『Kの昇天』は、得体の知れない奴が得体の知れないKをターゲットに不可解な心境と事象を書簡体で第三者に語っており、私には理解不能な小説であった。が、一方で『橡の花』に関しては非常にシンプルな内容であり、手紙を書いた目的も、 <<妄想で自らを卑屈にすることなく、戦うべき相手とこそ戦いたい、そ

          【感想文】橡の花/梶井基次郎

          【感想文】風の便り/太宰治

          寄せては返す「アラ、いいですねぇ」の波本書『風の便り』は、後輩作家・木戸と先輩作家・井原による往復書簡が延々と繰り広げられており、そしてその内容はあまりにくだらなく、というか死ぬほどどうでもいい事柄が続出していてこれはもう著者・太宰治の筆が最高潮にノッている秀逸な作品である。はっきり言って、後輩の木戸は先輩の井原をナメている、ナメくさっている。その「ナメ加減」が絶妙だと私は言いたい。というのも、井原は再三に渡り木戸の態度を改めさせようと反省を促すが、木戸は謝罪や反省の雰囲気を

          【感想文】風の便り/太宰治

          【感想文】杯/森鴎外

          『耳よりな話を聞いたよ。』アホの坂田に「アホ」と言ったら怒られるらしい。 そんな話を大阪出身の友人から聞いた。 ではどうして、アホの坂田にアホと言うと彼は怒るのか。まあそれは当事者不在により真相不明だが、考えられる理由を以下に列挙する。 ▼坂田が怒る理由: ①赤の他人にアホと言われる筋合いは無いから怒った。 ②坂田はアホではなく賢いため訂正の意を込めて怒った。 ③坂田はアホの自覚があり、自身の性質が見透かされた屈辱感から怒った。 ④アホの坂田といえど、それは「設定上のア

          【感想文】杯/森鴎外

          【感想文】怒りの葡萄(上巻)/スタインベック

          『超好待遇読書感想文 ~ 全般的な感想編 ~』この本はバチクソにおもしろい。 この本がダメだってんならじゃあ何ならアリなのか、と言いたいぐらいの傑作なり。ああ、傑作なので超好待遇してあげたい。というわけで、本書の読書感想文は以下の通り、評価・感想・解説の豪華三本立てである。 ・レビュー形式で評価 ・作品全般に関する感想 ※宗教的要素は除く※ ・宗教的要素に関する解説 ▼レビュー形式で評価: ▼作品全般に関する感想: 【宗教的要素に関する解説】※真剣に解説※ 『怒り

          【感想文】怒りの葡萄(上巻)/スタインベック

          【小説】お信(第二部)

          『お信』第二部 翌朝。お信が目を覚ますと六時であった。 お信の普段が今日も始まる。 お信は布団からのそのそと這い出て眠い目を擦りつつ雨戸を開けると、部屋中に朝日が差し込んだ。それに気づいた小猫も起き上がり庭へ駆けて行けば、その後ろを親猫もそろそろと追いかけていく。 簡単に顔を洗い終えたお信は庭から表玄関へまわって、格子戸に挟まれていた朝刊を抜き取り、そこで大きな伸びをした。 玄関の軒に掛けた簾にはつるが絡み、そこから朝顔が花を咲かせている。その見事な大輪に思わずお信は、

          【小説】お信(第二部)

          【感想文】濠端の住まい/志賀直哉

          『俺・エクス・マキナ』本書『濠端の住まい』の終盤において、語り手「私」は、捕えられた猫を憐れみつつも結局、助けなかった。その理由は以下の通りである。 ▼志賀・エクス・マキナについて: 前述の引用は、ごく簡単に言うと「猫が殺されるのは猫の運命だからしゃーないやんけ」であり、神の無慈悲に倣って自分も傍観を貫き通し、その結果、遂に猫は夫婦に殺されてしまう。語り手の言う「神」がどういった神なのかは本文からは読み取れないが(旧約の神ヤハウェ?)、語り手が猫を救出するなんてことはせず

          【感想文】濠端の住まい/志賀直哉