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ふつうに生きてるふつうのわたしが障がいについての記事を書く理由のひとつ。

冷たく薄暗い学校の廊下を曲がると
Tくんがいた。

Tくんは、静かに窓の外を眺めていた。

みんなが大騒ぎして自分のことを探しているとも知らず、
穏やかな顔で、窓の向こうの何かを見つめていた。

「あ、いた」

と思ったが、声をどうかけていいかわからなかった。
わたしはTくんとは1年生の時から同じ登校班だったけど、
5年生から一緒のクラスになって2年目だったけど、
みんなでTくんに話しかけたり「お世話」をすることはあっても、
1対1で向き合って話すことはなかったからだ。

声をかけたら、彼は逃げるだろうか?
捕まえなくちゃいけないんだろうか。

そう思うと体が固まった。

キュッと上靴が廊下に擦れる音がした。
Tくんはその音に気づき、ゆっくりこっちを見た。
一瞬見つめあうと、心臓が激しく打った。

「あ、松野さんだー」とTくんは笑った。

Tくんがわたしに向かって笑いかけたのは、初めてだった。
そもそもTくんがわたしの名前を知っていたなんて、という驚きもあった。
それくらい距離があったから。
いや、それくらいわたしはTくんと距離を取っていたから。

「Tくん、帰ろ。みんな探してるよ」

小さな声で言うと、Tくんはニヤッと笑って駆け出した。

逃げる方向ではなく、わたしの方に向かって。

そしてわたしの横を通り過ぎて、廊下の向こう、
みんながTくんのことを探している運動場の方に向かっていった。

しばらくして、

「わー!Tおったぞー!Tどこいっとったんやー!」と

みんなの声がした。

わたしはホッとしたような情けないような気持ちで、
Tくんがみんなにわしゃわしゃ頭を触られて嫌がっているのを
ぼーっと眺めていた。

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2020年9月27日10:30-12:30
NPO法人アクセプションズ主催
【オンライン】Down's Innovations Vol.21 ダウン症のある子どもを持つ親向け文章力スキルアップ講座 で講師を務めさせていただきます。

わたし自身は、二人の子を育てていますが彼らに「障がい」はありません。
ただ、一人の親として子を育てる中で、人を産み、育てること、親子ともに健全でいるの大変さは常に実感しています。

またこれまで生きてくる間に出会った色々な人のおかげで、社会のなかで自分も生かされていることを痛感しています。

今日は、ライターとしてわたしが障がいや病気についての記事を多く書くに至った数あるうちの一つのきっかけになったとも言える、30年前に出会った友人について書いてみました。彼とクラスのみんなと過ごした日々は、今こうしてくっきりと鮮明に思い出せるのです。

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今回の講座内では、参加者のみなさんが事前に書いてくださった
エッセイを元に、講師からのフィードバックや参加者を交えての意見交換を行います。
2回講座の2回目ですが、初めての方も課題を出していない方でも、直前までお申し込みできますので、お時間があればぜひお気軽にご参加ください。
「ダウン症がある子どもを持つ親向け」とありますが、必ずしも該当しなくてもテーマに興味があればどなたでもご参加可能です。

また、課題は出していないけど、自己紹介のつもりで、日々書いているブログやSNSなど、日々気づいたことを伝えた文章があればリンクを貼ってくださっても構いません。

自分の日常や感じたこと、子どもの成長への思いや学校とのやりとりなどを文章にすることは、自分をひらき、誰かとつながることでもあります。当日は、そんな思いを共有しながら、「書く」ということが楽しみの一つになるとはず。


お申し込みはこちらからどうぞ
http://di21.peatix.com/

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