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ランニングの前後方向を考察する(ランニング理論で遊ぼう)

さて、ランニングを座標軸に分けて考えるシリーズのPart 3.  次はX軸方向・前後方向を考えてみましょう。
(上下方向はまだ途中ではありますが、とりあえず先進めます。)
前後方向は、ランナーが進んでいく方向で、最も重要な方向と言えるでしょう。
この軸では、どんなことが考察できるでしょうか?

前後方向の理想的な動きは

ランニング、特に長距離のランニングは、いかに遠くの距離へ効率良く移動するかが重要です。なので、一定のスピードで走り続けるのが理想的です。速くなったり遅くなったり、といった速度変動は、その分エネルギーを無駄に使ってしまいます。
それで、物理学的にはそういった運動の事を「等速直線運動」と言います。それは、物体に何の力も働かない状態の時に起こります。前向きの力も、後ろ向きの力も全くかかっていない状態こそが、理想的な状態になります。
実際にそのような事は絶対にないのですが、理想状態はこうなのだ、という事は頭においておきましょう。

前後方向にかかる力

といっても、前後方向に全く力がかからない状態というのはありえません。では、実際にはどのような力がランナーにかかっているのでしょうか。

空気抵抗

地上では空気があるので、前に進む時に空気の抵抗があります。これは摩擦力と同じで、進む速さに比例して大きくなる性質を持った力です。
なので、ゆっくり走る分には影響は大きくありません。といっても、マラソン世界記録のキプチョゲが空気抵抗を最小化して2分弱速くなるくらいなので、速い人でも影響はその程度だと思います。

接地時に後ろ向きにかかる力

接地する時に、接地位置が重心より前にある時には、地面と身体の力の押し合いがあり、地面から後ろ向きに力を受けます。

接地時に前向きにかかる力

逆に、接地位置が重心より後ろにある時は、地面を後ろに押して、その反力で前向きに力をもらいます。

それで、空気抵抗は、ランニングフォームでは変えようがない部分なので、
(人の後ろを走るとかで変えられるのですが、それは別として)
フォームで大きく変わるのは、接地時に地面から受ける力です。
それで、「理想的な動き」に近づけるには、その力が小さければ小さいほど良いのです。
多分、多くの人がイメージしているのは、「地面を蹴ってより多く加速するのが重要」という事かもしれないのですが、それよりも、接地時のブレーキをいかに小さくするかの方が、長距離を走る上ではずっと重要なのです。

接地する時の前後方向の力を小さくするには

では、接地する時の前後方向の力の合計を小さくするにはどうすれば良いでしょうか。
結論を先に書くと、「接地時間を短くする」です。
接地位置している間は、重心に対して接地位置が前から後ろに移動していきます。接地位置が重心の真下にあるのは一瞬で、それ以外は前にあるか、後ろにあるかどちらかです。
ちなみに、パワーポジションの説明原稿で、重心が接地位置の真上にあるのが重要だ、と書きました。

その理由をこのページでの視点で説明すると次の通りになります。
パワーポジションは地面と一番強い力で押し合っている瞬間で、その瞬間に接地位置が前にあると「力が一番強い時に地面から後ろ向きに力を受けている」事になります。そして、その位置が前になればなるほど、角度的に後ろ向きの成分が大きくなってしまい、その分後ろ向きの力を大きく受ける事になってしまうのです。
なので、なるべく接地位置が重心の真下近くにあるのが望ましいのです。

で、パワーポジションではない場面でも、力は小さくなりますが、接地位置が重心より前にあれば後ろ向きの力を受ける事になります。
なので、接地位置が重心より前にある時間が少しでも短い方が、地面から後ろ向きに受ける力の合計は小さくなります。

もちろん、接地位置が重心より後ろにある場面では、地面から前向きに力を受けて、その時間が長くなればその総計が大きくなります。その力が大きいほど、前向きに加速する力は大きい事になります。
でも、「一定速度で走る」ためには、前向きの力の早計は、後ろ向きの力の総計と釣り合っていれば十分なのです。なので、後ろ向きを小さくする事が重要で、そのためには接地時間を短くすれば良い、という事です。

接地時の後ろ向きの力を小さくするもう一つの方法

といっても、重心より前に接地している時に、後ろ向きに受ける力をそのまま受け取る必要はないんですね。
接地している時に、重心と接地位置の位置関係が「縮んで」いれば、後ろ向きの力は吸収される事になります。
つまり「足を戻しながら接地する」事ができれば、地面からの後ろ向きの力を吸収して受け流す事ができ、結果としてブレーキをあまりかけずに走る事ができます。
接地時間が長くても効率的に走れる人は、この技術が非常に上手い人だと言えると思います。
(この技術を身に付けるためのドリルというのもありますが、コツを掴むのが非常に難しいです。私もドリル自体は知っていましたが、コツが分かったのは数年前です。なので、「普通の人」は、なるべく接地時間を短くするトレーニングをした方が良いと思います。もちろんパワーポジションでの接地位置の改善は大前提ですが。)

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