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イスラム教の天国と地獄はどんな世界なのか?

我々が普段「死んだら天国行きたいな」とか「地獄はやだな」とか思わないのは、きっと生活がそれなりに満ち足りたものだからだと思います。
一方、幸せを掴み取る可能性が低く、人生を完全に諦めていて、せめて死後の幸せを願うしかない人は、天国行きを強く願うのではないでしょうか。

イスラム過激派が世界中で蔓延するのは、彼らが「現世の富と名声」と「死後の天国行き」の両方を保証してくれるからだと思います。
家族と自分のために、臆することなく戦える。ある種のヒロイズムとナルシズムもある気もしますけど。ではそんなイスラム教徒が信ずる、「死後の世界」とはどんなものか。
宗派や教えによって様々ですが、コーランに書かれている内容をまとめていきます。


1. 死後の魂が向かう場所、バルザフ

仏教では、死ぬと人はすぐに閻魔大王に裁かれて天国か地獄かどちらかに連れて行かれることになっていますが、イスラム教では死んだ人の魂は、善人だろうが悪人だろうが、いったん冥界バルザフに留まることになっています。
そして来るべきアラーによる最後の審判が下るのを待つわけです。

ただ、バルザフに着くと2人の天使ムンカルとナキルがやってきて、軽い取り調べのようなことをされます。そこで早くも死んだ魂は、次に行くのが天国か地獄かの予兆を受け、天国の魂は快楽を感じ、地獄の魂は苦しみを感じるのだそうです。イスラムでは、死後のほうが生前より「よっぽど目覚めた状態」であるらしく、バルザフで審判を待って過ごす日々は、非現実的ながらやたらリアルに感じるのだそうです。

最後の審判は頻繁に行われるのではなく、1回しか行われません。
なので、史上これまで死んだ人たちは未だに冥界バルザフに留まって最後の審判を待っているわけです。

2. アラーの審判の日

さて、来るべき最後の審判の日がやってきました。

天使が世界に一度ラッパを吹き鳴らします。するとこの世に生きている人は、イスラム教徒だろうがキリスト教徒だろうが仏教徒だろうが全員気絶してしまいます。
再度、天使がラッパを吹き鳴らします。すると、気絶していた人は意識を取り戻し、同時にこれまで冥界バルザフで待機していた魂が生前の姿で蘇るのです。

そうして全員の前に唯一神アラーが降臨。
宇宙は秩序を乱し、天も地も滅び始めます。
人々は、アラーと共にやってきた天使の取り調べを受けることになります。
天使は帳簿を持っており、生前これまでその人がどのような行動をしてきたかを逐一書き写していました。アラーの前にやってきた人間は、その帳簿を元にアッラーの尋問を受けます。その際、嘘を言おうとしても、自分の手や足、舌、耳、目が勝手に動き、自分の意志とは関係なく正直に包み隠さず報告してしまいます。

でもアラーは大変慈悲深い方なので、なるべく多くの人を天国に送ってやろうとするらしいです。
もしその人が生前何か一つでもとっても良い事をしたら、そのとっても良かった一つのことを基準にその人の「善度」を最大限評価します。一方、悪いことはその回数と罪の深さを単純にカウントしていき、「悪度」を計算していきます。
なので、普通に暮らしていたらまず間違いなく天国に行けて、よっぽどの大悪人でないと地獄に落ちないとされています。

そうして天国行きか地獄行きかを正式にアラー直々に天秤にかけられた後で、アッスィラート・ル・ムスタキーム(正しい道)という橋を渡ります。
もし天国行きの場合、道を渡ると光に包まれあっという間に橋を渡り、天国に続く道を歩むことができる。一方、地獄行きの場合、道を渡るとあたりが真っ暗になり、奈落の底に落ちていってしまいます。

3. 天国・ジャンナ

さて、無事に天国行きになった人たちはジャンナという「永遠の楽園」に住むことを許されます。

天国は8つの庭園(ジャンナ)から成り立っているそうです。

  • 白真珠で出来た「荘厳の住まい」

  • 赤いルビーで出来た「平安の住まい」

  • 緑のエメラルドで出来た「避難の庭園」

  • 黄色のサンゴで出来た「永遠の庭園」

  • 白銀で出来た「喜びの庭園」

  • 黄金で出来ている「極楽の庭園」

  • 赤真珠で出来ている「エデンの庭園」

そして天国全体を見下ろすように建つのが、黄金で出来た「確定された住まい」。
金と銀のレンガが使われ、粘土には麝香が、土には琥珀が、藁にはサフランが使われています。

ジャンナにはあらゆる種類の果物がたわわに実っている。また絶対に腐ることのない水、味の変わらない乳、飲むに快い酒、蜜が流れる川の4つの川が流れています。この4つの川はカウサル(潤沢)の池に流れ込んでいます。

天国では鳥肉が食い放題
ラクダほどの大きさの鳥がやってきて
「私の肉はおいしい。わたしはサルサビール川とカーフール川の水を飲み、天国の草を食べて育ったから」
と言う。
「ではお前を食したい」
と住人が言えば、たちまち鳥は焼き鳥に早変わりします。

天国での生活は、朝から晩まで終わることのない宴に参加しているような豪勢さ。70のテーブルのそれぞれに金の皿で盛られた70通りの料理が用意されます。メニューは、「果物、肉、その他彼らの望むもの」。
錦の織物を敷いた寝床にゆったりと腰をおろせば、永遠に若く美しい従者がお酌にやってきます。その酒は心地よい甘さで、いくら飲んでも頭が痛くならない
天国の住人はいくら飲んでも食べても排泄をしません。食べたものはゲップや汗となって消化され、それらは麝香の香りがします。
また天国に入る時は、誰もが33歳の若さに戻ることができます。そして、フーリーと呼ばれる黒い大きな目の美しい処女を与えられ、真珠でできた天幕の中でお楽しみができます。

さらに、週に一度アラーが皆の前にお姿を現しになり、そのありがたい姿を拝むことができるという最高の特権があります。

4. 地獄・ジャハンナム 

一方で地獄はジャハンナムと呼ばれ、地獄の業火が燃えさかる奈落の底にあります。奈落はとてつもなく深く、底に到達するまで70年落下し続けます。

落下した地獄はかなり広大で、中には山や谷があるが、漆黒の闇に包まれています。地獄には毒虫がウジャウジャいて、ラクダの首ほどある大きさのヘビや、ラバの大きさのサソリが罪人を容赦なく襲います。噛まれたら40年間は毒が取れません。

イスラムの地獄では、罪人は鬼から火攻めにあいます。
顔を火であぶられたり、体を焼かれたり、グラグラ煮えたぎった湯をぶっかけられたり。地獄の炎の威力は地上の70倍もあり、比べ物にならないくらいの苦痛を受けます。そのようなので、罪人たちの体は絶え間ない火攻めで炭のように黒くなり、耳も見えずに口も利けない状態になります。その上、地獄の鬼たちに背骨をバキバキ折られたり、耳と目を剥ぎ取られたり、髪を引きちぎられたりします。しかしやられた瞬間に元に戻るため、また鬼たちに残虐行為をされ、永遠に苦痛を味わうことになります。

また、ジャハンナムの底には悪魔の頭のような実を付けたザックームの木が生えており、罪人たちはこの実を腹がはち切れるほど食わされます。口がいっぱいになると、腹の中にあるザックームの実は溶けた銅のように沸騰するのだそうです。ザックームの実の味は、「樹液の一滴でもこの世界の海に混入したならば、世界の全住民を滅ぼしてしまうほど」苦い。

Work by Shahhh

地獄ではこのザックームの実か、罪人の傷口から流れでた膿汁「ガッサーク」しか食べることができません。
このガッサークは「もしバケツ一杯分の膿をこの世界に注いだとしたら、その汚臭のためこの世界のすべての人が死んでしまう」ほど臭い。

地獄は宗教別に、何層かに別れた構造になっているとされています。

・第7階層…「ジャハンナム」
 イスラム教徒のための地獄。意味は「火地獄」

・第6階層…「ラザー」
 キリスト教徒のための地獄。意味は「燃える火」

・第5階層…「フタマ」
 ユダヤ教徒のための地獄。意味は「砕く火」

・第4階層…「サイール」
 サービア教徒(アラビアの原始宗教)のための地獄。意味は「燃え上がる火」

・第3階層…「サカル」
 ゾロアスター教徒のための地獄。意味は「業火」

・第2階層…「ジャヒーム」
 多神教徒のための地獄。意味は「竈」

・第1階層…「ハーウィア」
 偽信者のための地獄。意味は「奈落」

下の階層に行くに従って炎の威力は増し、鬼たちの残虐行為や苦痛の度合いも上がっていくとされています。

まとめ

キリスト教やユダヤ教徒と似ている文脈でありつつ、天国や地獄の描写は独自のものがあってなかなか興味深いです。
天国と地獄それぞれの描写が、まあ当然といえば当然ですが、露骨過ぎてちょっと笑えてくる。良いことをしていたらこんな酒池肉林の天国に行けると言われたら、ちょっと頑張って良いことしよう、と思っちゃいます。
ある意味、こんな素晴らしいところに行ける、と信じて死ぬことができるのは、それはそれで幸せなことで、実際に魂の救済に成功していると言えるのかもしれません。

参考文献 

「図解・天国と地獄」 草野巧 新紀元社 

「イスラムにおける天国の表象」JCCME NEWS 2007年1月発行 第31巻 第5号 竹下政孝

「文化紹介イスラームにおける地獄の表象」JCCME NEWS 2007年7月発行 第32巻 第2号 竹下政孝

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