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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『戦争と平和 第四部第二編』トルストイ著~

戦争が深まりをみせる中、ボルコンスキイ家・ロストフ家・ベズウーホフ家にフォーカスが向けられてきた感がある。前章同様に「愛の物語」といえるだろう。ただアンドレイ公爵の容態は悪化。看病を続けるナターシャ。そこへアンドレイ公爵の妹マリアがかけつける。
ここのシーンはいろいろな趣がある。
 
まずはナターシャとマリアの関係性。アンドレイ公爵との婚約後、初めてナターシャがボルコンスキイ家を訪れた際には、お互いに気持ちが合わず、ぎくしゃくした感じがあった。もっともその時は他人の関係。ただ婚約話が先に進めば、嫁と小姑問題が勃発しそうな様子ではあったが。
しかし、アンドレイ公爵の死を間近に、もはや二人の間には以前のようなわだかまりはない。関係は大きく変化した。
「そのナターシャの顔をまだよく見定めぬうちに、公爵令嬢は、これは悲しみを分つ自分の心からの友で、だから自分の親友なのだ、とさとった」(新潮文庫P102)
しかもマリアとニコライのこれからの展開を考えると、「親友」というよりむしろ「姉妹」に近いものがある。それも親近感という、より深い関係性のもとに。
(引用はじめ)
「マリイはリャザンを経由していらしたのよ」とナターシャは言った。(中略)ところがナターシャは、彼の前で彼女をこのように呼んで、自分でもはじめてそれに気づいたのだった。(P109)
(引用終わり)
 
またトルストイ独特の表現なのか、ナターシャがマリアにアンドレイ公爵の容態を伝える際、「(二日前におこった)それ」という言葉を使っている。前の章でもこうした代名詞はあった。ここでいう『それ』を文脈からみると、「身体を衰弱させる熱病が悪い方向に向かいはじめた」(P121)ということであり、いいかえれば「死の予感・覚悟」を意味しているということなのだろう。口に出しにくいことをあえてストレートにあらわさない。そこにナターシャとしての心の揺れ・葛藤が、より強く、深く感じられる。
 
もうすぐこの作品も終わる。初めは難しかったが、読み進めるにしたがって「トルストイ・ワールド」にはまっていく自分に気がつく。
次章も、愛をキーワードに登場人物の関係性が深まっていくのだろう。楽しみである。

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