風にゆるむ。
きんこーん。トントントン
「お手紙、届けに来ましたよ」
はーい。
洗い物の手を止めて、玄関に向かう。ドアスコープでそっとのぞくと、そこにはヤギさんがいた。手には手紙を持っていた。
昨日、ヤギさんに宛てて手紙を書いた。そのお返事。
「すみませんねえ。手紙を書いたのはボクじゃないんですよ」
ヤギさんは言う。
「山のふもとの、あの小屋に居るニンゲンから預かってきました。あ、ちゃんと空を飛んで来たんで大丈夫ですよ。ヤギは電車に乗れませんので」
まあまあ、ごくろうさまです。と、受取証にスタンプを押してヤギさんに渡す。手紙を受け取り、ヤギさんに頭を下げる。
しまった、わたし。ヤギさん宛てに手紙を書いた。手紙を書くのはヤギさんではなく、手紙を配達するのがヤギさんだったのね。
また、次に手紙を出すときは、ニンゲンさんあてに文章書かなきゃ。と思っていたら、
もしゃもしゃ、しゃくしゃくもしゃもしゃもしゃ……
目を細くしながら、おいしそうに受取証を食べるヤギさんの顔。
ヤギって、ほんとうに、紙を食べるのね。おやつ用を準備した方がいいのかな。
---ここで、ぱこっと目が開いた。
起きたら、わたしは机の前に座っていて。さっきまで読んでいたはずの紙の束が崩れて、風でかさかさと動いていた。
絶好のお昼寝日和。五月は気持ちのいい風が吹く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?