マガジン

  • 日米開戦を巡る黒い空気

  • コロナ新聞記事(2020年1月~2022年5月8日)

    2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行した。 大きな区切りができたことで、自分でもここで切りをつけたかったのでこのマガジンでまとめることにした。 3年前から毎日切り抜いた新聞記事から、内容をまとめることはせず、そのまま掲載した。 もちろん記事の見出しはそのままだが、内容はリード文を中心に要約している。 内容をまとめることは自分の能力では諦めざるをなかったこともあるが、特定の視点でまとめたくなかったからだ。 素材をそのまま提供することも意味があると思えたからである。

最近の記事

「場所の記憶」エマニュエル・トッド:江戸時代の村の記憶

エマニュエル・トッドの「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」で場所の記憶という興味深い概念を述べている。 家族システムの相違によって、各国の特徴を説明するエマニュエル・トッドであるが、実は直系家族はもはや、ドイツであれ日本であれ、現代の居住地のほとんどの部分を構成する都市空間には存在しない。 また、モスクワも、北京も、一人の父親と既婚の息子たちが同居して一世帯を営んでいる例は多くない。 ところが、トッドはあたかも直系家族の価値観や外婚制共同体家族のそれががあるかのように

    • 日本人と江戸の村掟:現代に続く深層心理

      江戸時代の村は、高度な自治と民主的傾向を持つという。 それが本当なら、江戸幕府を中心とする封建的な世界で独特な存在である。 そもそも村の起源はどこにあるのだろうか。 ここで重要なことは、年貢の徴収・納入を村で請け負う(村請)であろう。 ここから年貢の連帯責任制が出てくるが、これによって多様な側面で助け合う契機ともなり、結束が強まり、共同体としての村が生まれてくる。 さらに民主的傾向があるとはどういうことであろうか。 象徴的な選挙(入札)について見るとつぎのとおりである。

      • ブロックチェーン(1):ケニアの農業保険

        ブロックチェーン。 暗号資産(仮想通貨)の取引に使うイメージが強いが、いま経済活動の新たなインフラとして急速に進化しているという。 その先進地がアフリカだという。 つぎの日経新聞(2024年3月7日)の記事だ。 なぜアフリカの農家が損害保険に入れるのか。 ブロックチェーンが信頼をつくり出すからだ、という。 もう一度、いちから勉強だ。 それが信頼にどう結びつくのか。 分散型信頼ネットワークをつくるからである。 ビットコインなど暗号通貨でブロックチェーンが使われていることは

        • 「喧嘩両成敗」と日本の民衆

          「自壊する『日本』の構造」から「日本的ナルシシズムという構造と自壊」(堀 有伸著)は、日本社会の持つ傾向を、精神分析の概念を援用して分析したものだ。日本文化を貫くアンチ・ロゴス主義を、歴史を通じて振り返っている。 その中で筆者が興味を持ったのは「喧嘩両成敗」だ。 ケンカをした両者に対して、その正否を論じず同等の処罰を与えるという法であり、外国ではあまり例がないようだ。 問題となるのは、喧嘩両成敗の発想では事態の真相解明を突き詰めず、介入のための原理原則も明らかしない。 その

        「場所の記憶」エマニュエル・トッド:江戸時代の村の記憶

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        • 日米開戦を巡る黒い空気
          8本
        • コロナ新聞記事(2020年1月~2022年5月8日)
          11本

        記事

          『民主主義の人類史』:なぜ中国は西洋と異なる道を進んだのか

          『民主主義の人類史』デイヴィット・スタサヴェージ著。 民主主義はどこから始まり、どのように維持されて、将来どうなるか-アメリカのデモクラシーの成功などをみながら、 これからどこに向かうのか理解するためデモクラシーの世界のディープ・ヒストリーに目を向けるとして、この本は執筆されている。 この本で興味を引かれたのは、中国の歴史だ。 なぜ、西洋の民主主義と違った歴史を歩んできたのかだ。 それは官僚機構が古代から強固に成立していたからというのが、ひとつの大きな答えだという。 そし

          『民主主義の人類史』:なぜ中国は西洋と異なる道を進んだのか

          災害日本の歴史:火山と地震のやり過ごし方

          何と! 出羽国の鳥海山は従三位勲五等の山だった。 「日本三代実録」に871(貞観13)年の噴火の時の記載で記されている。 火山は当時は神で、噴火を鎮めるために為政者ができることは、 人間のように位階をあげることでしかなかった。 もう一つは安政の江戸地震(1855年11月11日)である。 死者は町人4700名、武家方2000名。倒壊・焼失家屋1万棟以上、土蔵1500か所に及ぶ大惨事であった。 さらに当時はぺーリーが軍艦4隻を率いて浦賀に来航し、前年の1854年3月には日米

          災害日本の歴史:火山と地震のやり過ごし方

          フェア・シェアが日本の民主主義

          かつて日本経済が絶好調の時、危機感を持ったアメリカの学者が日本を精緻に分析した本がある。 エズラ・F・ヴォーゲルの「ジャパン アズ ナンバーワン」だ。 今読み返してみると、当時日本の強みと言われた点は、官僚や企業でも大きく変貌しているように見える。 その中で政治のところで興味深い点があったので紹介したい。 新幹線の路線や駅設置など地方の利益誘導と呼ばれている政治的解決がある。 あまり政治的には誇れない問題だと思っていたが、見方によればアメリカより民主的であるという。 たし

          フェア・シェアが日本の民主主義

          「主君『押込』の構造」笠谷和比古:主君より「御家」

          江戸時代の大名諸家でおきた主君「押込」の問題をとりあげたい。 それは家老・重臣たちが主君を幽閉し、強制的に隠居―廃位させるものである。 それ故に「押込隠居」とも呼ばれるのである。 この問題はもっぱら時代劇にみられるようなに興味本位に、多くは悪家老による御家乗っ取りという図式で語られてきた。 この問題がアカデミックな観点から取り上げられることなく放置されてきたのは、一連の事態が秘密裏に進行し、その解明には多くの場合、根拠の不確かな資料によらなければならないという性格による。

          「主君『押込』の構造」笠谷和比古:主君より「御家」

          「宗教の起源」ロビン・ダンバー :共同体の危機から宗教へ

          「宗教の起源」の著者ロビン・ダンバー氏は、霊長類学者から進化心理学者となった経歴を持つ。 著作は進化論の視点から考古学に心理学、神経科学までを動員した宗教の歴史だ。 宗教の起源の話であるが、今から1万2000年前から始まる人類の歴史が興味深い。 村のくらしは始まった 「先史時代の祖先たちの暮らしは牧歌的で、たまの狩猟で気ばらしをしていたーそんな風に想像しがちだが、それは真実からほど遠い」という。 実際は、世界中で部族間の紛争が起き、皆殺しにされたり奴隷にされたりしていた痕跡

          「宗教の起源」ロビン・ダンバー :共同体の危機から宗教へ

          春秋左氏伝:開戦に先立つもの

          「礼とは何か」(桃崎有一郎)の作者が、礼について研究するきっかけになった本が「春秋左氏伝」であったと知り読んでみた。 礼の知識の宝庫であるという。 「春秋」とは、中国の晩周時代の魯国の年代記である。 孔子の手を経って成ったものとされている。 左氏伝はあまりにも簡潔に書かれている「春秋」の注釈書である。 ときは下剋上の世であり、魯国の年代記であるが、 10か国が登場し、そこには覇を競った様が記されている。 その一節で、気になった箇所を拾い上げると次の通り。 総理大臣の支持

          春秋左氏伝:開戦に先立つもの

          「礼とは何か」桃崎有一郎:日本の社会規範は?

          社会の規範について、最近気になっていた。 本の整理をしていたら、昔、何気なくこれも気になって買ったままになっていた「礼とは何か」という本を見つけた。 そうだ昔の社会規範はここにあったのではないか、と思って読み始めた。 そこに書かれていたのは、礼は雑多な礼儀作法ではなく、統治のための思想であるようだ。 社会が安定的に運営され、発展するためには、どう生活すればよいか、統治者の立場から見たものといえる。 <礼>思想には、先後絶対主義と根源至上主義がある。 日本人の特性で言

          「礼とは何か」桃崎有一郎:日本の社会規範は?

          「戦時期日本の精神史」鶴見俊輔:天皇中心は条件反射

          明治の設計者たちが、西洋のキリスト教を範に、天皇中心の国家宗教を採用した話は、このブログの明治憲法の話で取り上げた。 今回は鶴見俊輔氏が1979年にカナダの大学で語られたものを取り上げたい。 鶴見氏は大正11年(1922年)生まれで、まさに戦時期の日本を目のあたりにしており、それに戦後30年経過して外国で発信しているものだ。 そして具体的にはどのように徹底されたのか。 そして神政政治の部分と正面から向き合わなければならない時がくる。 1929年の世界恐慌のもと、それから

          「戦時期日本の精神史」鶴見俊輔:天皇中心は条件反射

          「次なる100年」水野和夫:「芸術」を中心に?

          次なる100年において、社会の中心概念は「資本」か「芸術」かの選択を迫られるという。 水野氏は国債利回りがマイナスまでに下がった意味をこう述べる。 さらに「救済」がされていないという。 それならば「精神のデフレ」から脱するにはどうするか。 資本の時代が行き詰まっているのは実感としてわかる。 しかし、次は芸術の時代かと言われれば、今ひとつ納得できない。 身近な例では、神宮外苑の再開発である。 森林の伐採では、音楽家や国際的な非政府組織であるICOMOS(イコモス)から

          「次なる100年」水野和夫:「芸術」を中心に?

          同調圧力(キャス・サンスティーン)  日本だけではない

          同調圧力は、日本だけではなく米国など他の国でもあるという。 著者はハーバード大ロースクール教授で連邦最高裁判所や司法省勤務もあるキャス・サンスティーン氏だ。 日本では、なぜか空気を読んで同調すると言われていた。 理由は日本人の特性か、で終わっている。 著作では同調は、心理学者の社会実験で17か国で存在が確認されているという。 これを知り筆者としては霧が晴れるような心境だ。 太平洋戦争の開戦の決断を調べているが、その決断で空気が関係しているという話があり、これは日本人の特性だ

          同調圧力(キャス・サンスティーン)  日本だけではない

          私はこう見えても英国猫です(2)

          スコティッシュフォールドのジェリー君です。 気品が高く、ジェントルマンです。

          私はこう見えても英国猫です(2)

          「新版 日本官僚制の研究」辻清明、 「官僚亡国」保阪正康

          保阪正康氏は戦時下の官僚の責任を問う。 辻清明氏は、昭和22年10月の時点で、日本官僚制と「対民衆官紀」の論文に問題の所在を次のように述べている。 何が問題だったのか。 民衆に対する特権的な意識であるという。 明治維新いらい、近代化は表面的には進んできたが、民衆の意識のなかには依然江戸時代の意識が根強く残っていることだ、という。 保阪正康氏はその著書で、軍事官僚のトップの東条英機が、国民に対してどう思っていたかを述べている。 戦前の官僚制が問題だったかもしれないが、

          「新版 日本官僚制の研究」辻清明、 「官僚亡国」保阪正康