ハイパーローカルブルワリー研修

「ハイパーローカル」なブルワリー立ち上げを学び、考える場

遠野の田村です。年明けにこんなことやってました、というご報告です。

昨年「BrewGoodという新たなチャレンジ」という記事を公開しましたが、その後の動きです。

これから地方でブルワリーを立ち上げたい事業者向けの研修プログラムを企画し、実施をしました。いや、研修プログラムというより、「みんなで学び、考える場」の企画といったほうが近いかもしれません。この企画は、私が昨年10月に立ち上げたBrewGoodという会社と遠野醸造で共同でつくった初めてのサービスです。

タイトルの「ハイパーローカル」というのはCraftDrinksさんのこちらの記事から引用させていただきました。

localに対してhyper localという概念が近年語られるようになってきました。ローカルではなくて、もっとローカル。「どローカル」とでも訳せばいいでしょうか。州なんて大きな単位ではなくて、町単位。町ひとつにも複数ブルワリーがあったりしますから、超ピンポイントマーケットであるハイパーローカルが重要な概念になってきました。ということで、とりあえずハイパーローカルとは「超地元マーケット」くらいに認識して頂ければ良いと思います。 -アメリカの現役ブルワーに聞くハイパーローカル時代の在り方①より引用

こちらを引用したのは、私たちに相談をいただくのは上記にあるような「ハイパーローカル」な地域でブルワリーを立ち上げたいというケースが多いからです。(ブルワリーの立ち上げや経営もどういうモデルを目指すのかで大きく変わる部分があり、そのモデルを分ける方法としてCraftDrinksさんの記事が非常に分かりやすかったのです)

今回、「研修を企画してほしい」と相談を受けた際には迷いもありました。まだ開業から1年も経っていない私たちがそんな研修をしていいものか。

そういった迷いがありながらも開催したのは理由があります。下記がその理由です。そして、「コンサル」や「研修」というより、「みんなで学び、考える場」としてやってみたところ、参加者の満足度が高い企画となりました。

今回については、なぜそれをやったのかが大事だと思っているので、この投稿では、その部分の説明がメインです。

理由1.ハイパーローカルな地域でブルワリーを立ち上げて事業を継続するのはそんなに簡単ではない

いきなりすみません。私の所にも、今回受け入れた事業者以外に、新規ブルワリーの立ち上げについてたくさんの相談をいただいていました。中には遠野まで視察に来ていただいた方や団体もあったのですが、1時間や2時間でお話しするのはどうしても一部分になってしまうので、いつかは全てお話しして一緒に考えるような場をつくらないといけないなと思っていました。

いわゆるクラフトビールブームで、この1年間は新規ブルワリーの開業ラッシュでした。そしてまだ続くと思っています。マーケット(飲み手)の拡大以上に、ブルワリーが増えているという印象です。少し危険な匂いもします。

新しくできたブルワリー、これから作ろうとしているブルワリーで、地方で開業するケースも増えています。私たちの遠野醸造もその中の1つです。

遠野醸造が開業した遠野市は、ホップの生産地というブランドはあるものの、人口2万7千人の小さなマーケットのまちです。視察に来る人が驚くくらい、夜のまちを見渡しても歩いている人は少ないのです。そんな状況で、ほぼ外に出荷せず、自社のブルワリーパブでビールを販売して、利益を出そうとしているモデルです。すごく儲かっているわけではありませんが、事業が成り立つようになんとか運営し、今後も継続していける見立てを必死でつくっています。

遠野のようなマーケットでも商売ができているのは、立ち上げの方法、自社のポジショニングや、マーケティング/ブランディング、地域全体での取り組みなど、みんなで考えて作り込んできたものがあるからで、簡単ではありませんでした。ビール業界に長くいたわけではない3名の創業者が、クラウドファンディングで約800万を集められたのも、こちらにまとめたように結果を出すために裏側で動いていた部分は多いのです。

視察や相談の短い時間で、そういった全てをお伝えできていない状況で、「遠野醸造(遠野市)だからできているのであって自分たちは難しい」ということや、「遠野醸造(遠野市)でもできるから自分たちでもできるだろう」という判断をされてしまうのは自分たちにとっても歯がゆい思いがありました。

理由2.でも、ハイパーローカルなブルワリーは必要である

「小さなまちで、小さなブルワリーを経営しても全然儲からないよ」というのは、私たちが開業までの準備期間に何度も言われた言葉です。これは事実で、確かに経営をはじめて実際にやってみても利益を出し続けるのは簡単ではないと実感しています。事業計画を書けばわかるのですが、それでも挑戦しているのは何故か。

それは、このまちでビールをつくりたいからビールを軸に自分たちが面白いと思うことに挑戦し、まちやコミュニティに良いことをしたいから。という純粋な理由です。確かに経営は大変ですが、楽しいです。自分の会社がつくったビールを飲んで楽しんでいる人を見ると本当に嬉しいです。自分たちがつくりだしているビールも大好きです。

ブルワリーの開業を目指している人で、私たちのような小さなブルワリーを経営しようとしている人も近い考えをもっているのではないでしょうか。たくさん儲からなくても、ビールをつくりたいと熱い気持ちを持っている人は多いのではないでしょうか。
私たちが「全然儲からないよ」と言われ続けても、それでも立ち上げたように、たとえ難しい挑戦であったとしても地方でブルワリーを開業していく流れや勢いは止められないと思っています。

また、業界全体のことを考えても、日本の各地でハイパーローカルなブルワリーが増えて、多様性が生まれてくることは良いことだと思っています。もちろん、国内各地に流通させたり、海外に輸出するような比較的規模の大きなブルワリーがどんどん誕生することも素晴らしいことです。私もいつかそういったブルワリーに挑戦したいと思っています。いまのブームがカルチャーとして根付いていくときには、その両方が共存し、それぞれが継続できる事業として成り立っていくことが好ましいと考えています

旅をしたときに、その地域でしか飲めない美味しいビールと食事を楽しめる。ブルワリーを軸に地域のコミュニティが活気付いていく。そういった未来の姿は楽しそうだし、ローカル起点のビアカルチャーづくりもあると思っています。

ビールの未来を思い描いたときに、自分たちには何ができるのか

地ビールブームとその衰退があったように、開業して継続していくのは簡単な話ではありません。でもその動きは止められないですし、未来を見据えると、そういった地方のブルワリーが美味しいビールの供給を続けて、健全に経営していける状態になることを目指せないか。その支援ができないかと思ったのです。

私は遠野醸造の経営をはじめて1年しか経っていませんが、元々はリクルートで新規事業の立ち上げや、クライアントの経営にかかわる仕事をしていました。そういった過去の経験と、遠野醸造の立ち上げから運用までみてきたものを掛け合わせて、起業や経営のサポートができないかと考えました。また遠野醸造の代表2人も、大手企業で活躍してきた経歴があり、現場で起きていることを構造化して分かりやすく整理できる力もあります。私たちだからできることの1つが今回の企画だったのです。

長くなりましたが、ここまでがハイパーローカルなブルワリーを立ち上げ、継続させていくための「みんなで学び、考える場」を企画した背景です。

どういった内容をおこなったのか

自分たちが立ち上げをしていたときにどういった内容を事前に知れていると良かったのかを考えて資料を作り込んでいくと、ページ数はスライドで約200ページものボリュームになりました。今回は、そういった内容をしっかりお伝えし、双方向でコミュケーションをとって進めていくために1泊2日の合宿形式をとりました。

※当日のスライドより

ここでお話しする内容が全てではないと参加者にはお伝えしています。あくまで私や遠野醸造メンバーがみてきたものなので、この内容を起点にそれぞれでしっかり調査し、考え、事業を立ち上げる準備をしてください、ということです。

立ち上げる際に、何から調べればいいのか分からないという声も聞きます。私たちも経験しましたし、抜け漏れによる遅延やリスクなども発生しました。立ち上げ時のそういったリスクのダメージは大きいです。進めるにあたって考えないといけないことが事前に分かっているかどうかは大事なことです。そういった点も内容に含めました。

また、この「みんなで学び、考える場」の中では私たちが失敗したことや、現時点で課題であると認識ていることも含めてお話ししています。最新のPLデータもお見せしてリアルな情報をお伝えしました。その上で、各地域でどういうコンセプト、ビジネスモデルで、どういうポジションニングで事業を進めていくといいのかを考え、参加者でディスカッションしました。

経営のテクニックだけの話ではなく、どういう気持ち・スタンスでこの業界に挑戦すべきなのかといった話も、私たちが先輩方に教えていただいたことを伝えています。初日のテーマは、「あなたはなぜブルワリーを立ち上げたいのか。ビールやブルワリーを通じて何をしたいのか」でした。

経営的に自立しても「美味しいビール」を供給していかないと未来はないと思っています。2日間でそれを学ぶのは難しい部分もありますが、ビールのテイスティングや、オフフレーバーキットを使っての講習も組み込みました。

非常にざっくりした説明になってしまいましたが、こういった内容を整理して(詰め込みすぎたかもしれませんが...)、分かりやすく伝わるように運営をしました。

今後の展開について

この企画はまず試験的に実施をしたもので、まだ本格的にサービスとしてリリースしているものではありません。伝える側、場を運営している責任として、適切な内容なのかをまだまだ磨かないといけないと思っています。

twitterでこういった企画をやってみましたとつぶやいたところ、資料を見せて欲しい・送ってほしいと何名からか個別に連絡もいただきましたが、そちらも現状はお断りをさせていただいております。申し訳ありません。それは、資料だけが先行して、伝えたい内容が伝わらないと、この企画を運営している趣旨からズレてしまうからです。そして、まだまだ内容を磨いていきたいと思っています。

とはいえ、ニーズはすごくありそうなので、参加を希望されている方には今年中に何らかの形でリリースをしようと思っています。ただし、すでにお問い合わせをいただいているものもありまして、リリースした際には、これから具体的に始めようとしている方を優先させていただくことにはなりそうです。(漠然と立ち上げを計画している方向けのライトverも別で企画していますのでご安心ください)

ここまで長々と書いておいて研修の中身の情報がなくて申し訳ありませんが、まずはこういった動きを遠野で始めようとしているというご報告と、その背景についてお伝えできればと思ったので書かせていただきました。

もしご興味がある方がいらっしゃいましたら、正式にリリースする際にご連絡しますので、お問い合わせいただけますと嬉しいです。

今回の件だけでなく、引き続き、遠野から新しい動きを発信していければと思っております。BrewGood・遠野醸造で、ビール業界に愛をもって、自分たちには何ができるのかを考えていきます。

今日はここまで。

◎この記事を書いた人◎
田村淳一
株式会社BrewGood 代表取締役/ 株式会社遠野醸造 取締役 
BrewGoodではまちのブランディング(http://brewingtono.jp/)、制作、ホップやビールにまつわる新規事業の立ち上げと支援、新規ブルワリー開業の支援などをおこなっています。
twitter : https://twitter.com/tam_jun     Mail:info@brewingtono.jp

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