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2022年3月 読書の記録

5月になってしまった。早すぎる。

目録

  • 差別はたいてい悪意のない人がする(キム・ジヘ)

  • トリエステの坂道(須賀敦子)

  • 白痴 2(ドストエフスキー)

  • コーヒーと短編(庄野雄治 編)

  • サン=テグジュペリの世界(武藤剛史)


3月はいろいろあって本が読めなかった。ちょっとした家具を買ったり積読を増やしたりして読書環境を整えつつ、須賀敦子のエッセイをのろのろ読んでいたらHPが少しずつ回復した。

彼女の文章は、読んでて嫌な気持ちになることがない。直接的に嫌な気持ちになる文章なんて普段から早々出会わないけど(とくに紙の本)、読んでてなんとなく不安になったり退屈したり、といった消極的な負の感情が起こらない本も珍しいと思う。

その感じは、須賀敦子自身の作品だけでなく訳した作品にも通底していて、アントニオ・タブッキというイタリアの作家が好きになったのも、たぶん彼女の翻訳によるところが大きい。

「トリエステの坂道」は、「ミラノ 霧の風景」にも通じる随筆で、イタリアの家族や大切な友人たちと過ごした日常を綴った本。本人の目を借りて風景を眺めているうちに、どんどんイタリアに行きたくなってくる。世界がもうちょっとましになったら、地方の街をただ歩いたり、立ち飲みの居酒屋で昼からだらだらお酒を飲んだりしにいきたい。心からそう思う。


差別はたいてい悪意のない人がする。

このタイトルにすべて集約されていると思う。だれもが無自覚に差別に加担する可能性がある。それは、さまざまな差別に対して意識的で、知識もあり、「自分は気をつけなきゃ」と思っている人でも。

作者自身、障がい者支援に長く携わりながら、ある時に「障害」という言葉を何の気なしに使って、当事者から指摘を受けて初めて、自身も無意識に一部の人を傷つけていたことを知る。

気をつけていても指摘されないと気づけないことがある、ということが怖いと思った。意識的な配慮はもちろん大事なのだけど、一人ひとりの当事者がどう思うかは状況しだいなところも多く、デフォルトモードをアップデートするだけでは不十分なんだなと。

まずデフォルトを変えるのは前提だと、最近のあれこれを見ても思う。人が失言したときに批判されるのは、その発言じたいの攻撃性だけでなく、そういう言葉で発露するに至った「普段の思考回路」にこそ根本的なエラーがあるからなのだ、と。そしてデフォルトが誤っている場合、それを知識や経験でアップデートすることも一定程度は可能だと思うが、そもそもそのことの重要性にも気づかなかったり、目の前の個別の状況を見過ごしたりということは自分でもいくらでも起こりうるので、なんだか途方にくれてしまった。

結局は毎回目の前の相手をちゃんと見る、想像する、というところからスタートするのだよなぁ。

note社の同僚のga9jiさんが以前感想を書いていて、読んだほうがよさそうだな、と思って積読に入れてた本。読んでよかった。


ドストエフスキー「白痴」の第2部は、1巻目と比べて読むのが難しかった。訳者あとがきにもあるように第2部は物語に少し停滞感があり、作者は何が表現したいんだ…?となりながら、とりあえず目は文字を追うみたいなことになっていた。

読書記録をさぼっているあいだに今は第4巻まで進んでしまったけれど、主人公の独白のような体裁をとりながらいろいろな人の事情が複雑に折り込まれているから、直線的に物語が進まないのだなと感じるようになった。もしかしてこれが、以前読んだポリフォニー的ということなんだろうか(バフチンの本も昔買っていまだに積んである。いつか読む…)

最終巻を読み終わったらまた考えよう。


「コーヒーと短編」はずっと欲しかった本。装丁がすてきなのです。

コーヒーロースターの庄野さんという人が編んだアンソロジーで、先日の箱根本箱ではシリーズの「コーヒーと小説」を読んだばかりだった。

日本の一昔前の作家の作品はほとんど読んでおらず、どこから手をつけたらいいのやらといつも二の足を踏んでいたので、気負いなくいろんな作家に触れられるアンソロジーはありがたい。この本では、とくに小川未明の「赤い蝋燭と人魚」という作品がよかった。

「コーヒーと小説」で印象的だった岡本かの子は、先日たまたま古本屋で全集をみつけて、いま横に積んである(「小説」に収録されてた「鮨」ももちろん入っている)。少しずつ読む本を広げていくのだー


サン=テグジュペリの作品は昔から好きだけど、作家本人のことは、飛行機乗りだったこと以外はあまり知らなかった。その生涯を、身近な人とのかかわりを中心に描く本が先日出ていた。しかも講談社選書メチエで。(好き)

「星の王子さま」「夜間飛行」「人間の土地」などの小説もそれぞれ唯一無二の良さがあるけれど、一作ずつを読むだけでは見えてこない、大きな思想の流れが見えたのがよかった。サン=テグジュペリが好きな人や、とくに「星の王子さま」が好きな人に薦めたい。

社会生活や金銭感覚はふつうの人とは大きくずれてはいるものの、周りの雰囲気に流されない一貫した精神をもった人。波瀾の人生の総決算が「星の王子さま」であり、そこに彼の人生のすべての教訓が含まれていることを知って震える。改めて読み直したい。

あなたがたを築き上げるのは、あなたがたが受け取るものではありません。それは、あなたがたが与えるものです。あなたがたが共同体に与えるものが共同体を築き上げるのです。そして、ひとつの共同体の存在はあなたがた自身の実質を豊かにするのです。

アメリカ亡命中、第二次世界大戦で出征する若者に呼びかけた言葉

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