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2021年に読んで印象に残った本をふりかえる

あけましておめでとうございます。

年末、お題企画「買ってよかったもの2021」のレポートが発表されました。

お題が出たときに、「今年買ってよかったもの…本棚かな?あとはあの本か…いやこの本もよかったな…」というふうに、買ってよかったものがだいたい本に集中していることに気づいた。

ここのところ毎回一年のふりかえり的なことをしそびれて新年を迎えてるし、今年はがんばってたくさん読んだし、2021年のうちにふりかえろうと思い筆を執る。

といいつつ、結局間に合いませんでした!!(年末に風邪をひいてしまい、紅白をみながら仕上げることに)

ちなみに、2021年に読んだ本は108冊でした。

想像力がきたえられる本

ニール・マクレガー『100のモノが語る世界史』(1月)

クリエイティビティではなく、イマジネーションのほう。この本はイギリスのBBCが企画したラジオ番組が元ネタで、歴史上の出来事を示すさまざまなモノが言葉で丁寧に描写される。そのあと、細部までよく見える綺麗な写真が現れるという構成になっていて、読者は言葉から想像した姿と実際のリアルな写真を頭の中で比べさせられることになる。

太古の職人芸に感動したり、人間の変わらなさに驚いたり。グローバルヒストリーはそれはそれでおもしろいけど、モノや作った人に着目したミニマルな歴史を触れていると、歴史や人類学の本もいっそうおもしろくなる気がする。

ディープな世界に飛び込みたいときの本

高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(9月)

辺境をテーマに幅広く活動する作家と日本中世史研究者の異色のコラボレーション。応仁の乱からの南北朝の成立という激動の時代を、天皇から庶民まで様々な角度から観察する。思考や文化様式の根幹がこの時代に大きく揺らぎ、今の時代に引き継がれていることがわかる。

室町時代という、日本史のなかでもとくに混沌とした時期に生きてた人たちのミクロな話だけでもおもしろいが、それが現代人、とくに辺境と呼ばれる場所で暮らす人々ともリンクするところがあるという、地球規模に広がったマクロな話が興味深い。ディープな世界の住人にとっては、その世界も日常であって、ディープネスは外の人間から見た印象でしかない。

正義がよくわからなくなったときの本

綿野恵太『「差別はいけない」とみんな言うけれど』(3月)

タイトルの「けれど」が曲者で、日々タイムラインに流れてくるさまざまな意見を見ながら考えることの多い一年だった。なにを差別と感じるかは人それぞれだが、意識してないと「差別はいけない」でストップしてしまう(「それも多様性だし…」)。一見正しく見えるその落としどころを捉え直し、乗り越えるための本だと思った。

知らない世界を知りたいときの本

マイケル・エヴェレット『ピダハン』(8月)

ブラジル・アマゾンの密林に暮らすピダハン族を、文化人類学と言語学のかさなるところから眺めた30年間。2以上の数の概念がなかったり、さまざまな民族に普遍的にみられる創世神話をもたなかったりと、ワールドワイドに「ふつう」だと思われている世界観を余裕で飛び越えてしまうところが圧倒的におもしろい。

ちがう時の流れに浸りたいときの本

真木悠介『時間の比較社会学

ピダハンにも西欧世界とは異なる時間感覚があることは書いてあったので、『ピダハン』を読んでからだとおもしろさが増す。少し前の本だけど、近所の古本屋にはぜんぜん出回っておらず、買って手元に置いてる人が多いのかなと思う。まだ読んでる途中なので、また読書記録書きます。

とくに文化の基盤(狩猟採集か農耕かなど)によって、時間感覚ががらりと変わるという話。『反穀物の人類史』にも共通していて納得感があった。

過ちを過去のことにしないための本

スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『チェルノブイリの祈り』(9月)

『戦争は女の顔をしていない』が有名だけど、これも読んでおいてよかった。事故の影響の大きさは断片的に知ってはいても、数百数千の人が見聞きしたことを知り、しかもそれらが重なり合っているものをまるごと受け取るということとはぜんぜんちがうなと思った。市井の人たちの声がこれだけ集まってるということじたい当時の政治状況を考えると奇跡のようなことなはずで、文学という枠の中でこうした作品を作ろうとしたアレクシェーヴィチはすごい。

喪失を乗り越えるのではなく、共存したいときの本

キム・エラン『外は夏』(10月)

韓国の作家の本は今年けっこう読めたけど、この短編集は「喪失」がテーマなのにもかかわらず後味がよくて、好きだった。なにかを失ったときや、失った人を前にするときの言葉にならないあれこれを、こういうふうに言葉にすることができるものなのかと、じんわりくる作品。

気を取り直して明日からがんばりたいときの本

チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(10月)

元気になる本。韓国の一都市にある病院を舞台に50+1人ぶんの日常をつみかさねていくと、それぞれの人生に別の登場人物が姿を見せたり、ある出来事にたまたま居合わせて一瞬の交流が生まれたり。けっしてたのしいことばかりではないけれど、その人ならではの知恵や周りの人の一言で救われて日常は回っていく。

冬、静かなところで読みたい本

パク・ミンギュ『亡き王女のパヴァーヌ』(4月)

個人的には今年読んだ小説でベストだったかもしれない。村上春樹っぽい短編も書く作家だけど、これは長編の恋愛小説。タイトルになっているクラシック曲がときどき出てきて、3人の人生を彩っていくさまが素敵だった。

ふとんにくるまって読みたい本

アンナ・カヴァン『』(6月)

『辺境図書館』で初めて名前を知った作家。箱根本箱に泊まったとき、他にもいろいろ読みたい本はあったけど、このうすい文庫本だけでほとんど夜を徹してしまった。

とても救いのない、ずっと寒くて暗い話なのに読むのをやめられなくて、それぞれのシーンが妙に印象に残っている。他の作品(今年読んだのは『アサイラム・ピース』)も、不遇な作家の目から歪な現実を見るような、不条理!って感じの本。

散歩に連れ出してくれる本

永井宏『サンライト』(12月)

今年いちばんいやされたエッセイ。本屋によく置いてあるので前から知ってはいたのだが、男性の書くエッセイでここまであったかい気持ちになれることってあるんだなと思った。読むと、晴れた日にふらっと散歩にでて、葉っぱをぼーっと眺めたりしたくなる。メンタルに効く。

一人旅に携えたい本

アントニオ・タブッキ『インド夜想曲』(10月)

今年、アントニオ・タブッキと須賀敦子に出会えたのがよかった。須賀敦子はタブッキの作品を翻訳したり、自身でもエッセイを書いたりしている。タブッキの異国の風を感じさせる文体が好きだなあと思う。

これはインドを旅しながら友人を探す男の物語。読み終わったときになんだか一人でふらっと旅にでてきたような感覚になる。来年はもっと旅にもでれるといいなあ。

長めの旅に携えたい本

諸隈元『人生ミスっても自殺しないで、旅』(8月)

とにかく旅に出たくなる本。世の中にはいろんなタイプのおもしろい書き手がいるなと思う。

旅先でのわくわくと戸惑い(後者多め)の入り混じった状態を読みながら味わえる。あとサイズとか質感も長旅にちょうどよく、しっくりと手に収まるところがいい。

お酒を飲みながら読みたい本

皆川博子『辺境図書館』(5月)

皆川博子さんも今年初めて読んだ。彼女が影響を受けたさまざまな本をふりかえって、読んだときの気持ちを綴った本。古今東西、ありとあらゆる物語を読んだ人の言葉という感じで、小説の奥深さを知る。

小説は中学生くらいの頃までは好きだったのに、高校大学あたりから物語の楽しみ方がわからなくなり、どれも同じような読後感を感じるときがあった。最近(というかパンデミック)になってから、ふたたび小説を味わえるようになった気がする。辺境図書館で知って本棚に追加された本もいくつかあるので、目立たないけど自分にとってはエピックな本だった。

頭の片隅にずっと残り続ける本

ハン・ガン『菜食主義者』(8月)

わだかまっている、ということではなくて、他の物事を考えているときに「菜食主義者のあの部分はこういうことを言っていたのか」とふと浮かんでくる。ハッピーエンドなのかどうかは人によって意見のわかれるところみたいだけど、そういうふうに残りつづける本も大切だと感じた本。

Netflixから一回離れたいときの本

劉慈欣『三体』シリーズ(12月)

Netflixで韓国ドラマを一気見するのが好きなんだけど、キラキラギラギラした世界にずっと浸っているのも飽きる。慣性の法則というか、没頭する感覚をそのまま、本の世界で楽しみたい…と思ったときに読み始めたのが中国SFの『三体』シリーズだった。

12月頭に古本屋で一巻めを買ってから読み続けて、今は最終巻に入ったところ。エヴァとナウシカと火の鳥を混ぜ合わせたような印象(簡単に言いすぎてそれぞれのファンに怒られそう)。SFなのにぎらついたところばかりじゃなく繊細なところもあり、緩急のつけかたが上手で読んでてぜんぜん疲れない。

一瞬の楽しさに気づく本

松田青子『女が死ぬ』(12月)

とてもおもしろい。もっと早く読みたかった。強い意志をもちながら、他人に必要以上に圧をかけない文章だと思った。主題作もいいが、個人的には『男性ならではの感性』がツボだった。この人の目で見ると身近なものごと(カーテンやテクノロジー、嘔吐まで)すらおもしろく、天才だと思った。一つの短編を読み終わるごとに、なんかちょっとずつ元気になる本。


編集後記

読書記録noteのヘッダーを、4月以降読んだ本の背表紙を並べるスタイルにしてみた。あれはけっこういいなと思っている。たぶん、背表紙をざっと見て興味ない本ばかりだな、と思った人は記事まで読まないのだろうし、逆に、読書カテゴリとかであの写真が表示されて興味をもってくれた人ももしかしたらいるかもしれない(いてくれたらいいな…)。画質の問題で背表紙の文字まで見てないよ!という人が大多数かもしれないが。あと今回みたいなときにふりかえりやすいのもいい。

今年はけっこう本が読めてうれしかった。買ったまま積んだだけにしている本もまだまだたくさんあるので、来年も引き続き読めるといいな。

今後も読書記録はこちらのマガジンで更新していきます。

来年もどうぞよろしくお願いします。

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