新入社員の「惚れてまうやろ」

20歳でお掃除系の会社に就職した。社会人1年目。いろいろと期待をしてしまう。異性関係とか。

けれども入社前の研修でやらかした僕には同期とのそれは期待できない。「しゃべらない子」と認定された仕事場でのオフィスラブもそうだ。お先真っ暗。絶望と失望。

とはいえ僕を気にかけてくれるお姉さんは多い。学生時代からそうだった。困っていると助けてくれるのはいつだってお姉さん。でもちゃんと分かってる。僕に異性としての興味はないと。

彼女たちは、不細工でも童顔でおどおどしている僕を助けずにはいられないらしい。

入社してすぐに行われた健康診断のときもそうだ。訪れたのは町のクリニック。ひとり仕事を抜け出しての平日診療。

看護婦さんからは『学校はどうしたの?』と。聞けば中学生と間違えたらしい。謝られたけど、それも悲しい。『ごめんねー、せめて高校生だよね』と、フォローにもなっていない。

だから仕事場で気にかけてくれるお姉さんに対しても、何も期待はしていない。職場で一番にかわいいお姉さんに対してもだ。歳は4つ上。身長は小柄。スタイルもいい。仕事スタイルも「話が分かる」人。手を抜いたことがバレて怒られてる姿も見たことあった。

彼女は僕に対しても寛容だ。ゲームしてても、しゃべらなくても、そっけない僕に負けることなく、どこまでも気にかけてくれる。優しい人。典型的な困っていると助けてくれるお姉さんだった。

デートにも誘われてしまった。その日は土曜出勤。シフトは僕とそのお姉さんのふたりっきり。『このあと、すこし遊んでいかない?』と。近くの大学で学園祭が開かれていたので、そこへ行こうと。

ちょっとめんどくせえなと思ってしまう駄目な僕。けれども断る選択肢は与えられていない。しぶしぶお供するも、やっぱり楽しい。

もちろんお姉さんがエスコートしてくれる。事前に下調べしてくれてたみたいで、行きたいブースを効率よく回る。振り回される僕。それが心地よい。ランチも御馳走してもらった。

世の女性はこんな感じでデートを楽しんでいるのだろうか。ちょっとうらやましい。それにしても、これは惚れてまう。かわいいし、楽しんでるし、一生懸命だし。次に会ったときは変に意識してしまうし。

これはあかん。なぜなら彼女は既婚者だから。それから1年後、彼女の退職の知らせを風のうわさで聞いた。なんでもお子さんが生まれるらしい。彼女の幸せそうな笑顔が想像できた。

きっといいお母さんになるであろう。こんな僕にも気をかけ続けてくれた人だから。心の中で「おめでとうございます」と呟いた僕。そこに嘘偽りはなかった。

いちおう言っとくけどフィクションです。


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