社員旅行で遅刻した

お掃除系の会社就職した。通勤はチャリと電車。雨の日はバスも利用する。片道1時間30分の孤独な旅。満員電車に揺られるも独りを感じるあたり、周りの人間を人間として認識していないのだろう。人混みの中で急に知人と出くわすと驚くのも、そのためな気がする。

いつも職場には一番乗りだ。それが一番下っ端の努め。というよりも、やはり通勤時間が長い者から出社するのが世の常。職場の5人の中で断トツに通勤時間が長いのが僕だった。

そのときは徐々に迫っていた。年に一度の社員旅行。正直、行きたくない。すこし楽しみと思うことができた新歓とはわけが違う。拘束時間が長いのだ。

ぼっちにとって耐え難いのは他人との無言時間。「おかまいなくー」のスタンスも通用しない。何か喋らなければと思う瞬間は必ず訪れる。イベントとイベントのスキマ時間が一番怖い。おそらくそのときは何度も何度も訪れるだろうだ。

そんなことを思っていたせいか、社員旅行の当日に遅刻をしてしまった。

お掃除系の仕事とは毎日のルーチンワークである。その積み重ねを滞らせることは許されない。オーナーも許さない。

それは社員旅行の当日でも例外ではない。旅行はお掃除を終えてから。「タモツ君は家が遠いから遅くていいよー」。ありがたいお言葉だが、そのまま受け取っていいのだろうか疑問が残る。

「押すなよ!押すなよ!」は押せの意。それは誰もが知ってるこの世の常識。「分かりませんでした」は通用しない。そのため、当日は始発電車での出勤を決めたのである。

社員旅行の当日、僕はセットしておいたアラームが鳴る前に目が覚めた。予定より10分前に起床。今日も完璧。始発電車の出発時間にアラームをセットしておいたが、不要なものだった。

ん? 電車の出発時間に起きたら間に合わなくね? 

やらかしてしまった。アラームのセット時間、というよりも起床時間を間違えてしまった。出かける準備を10分で済ましても、家から駅まではチャリで40分。およそ1時間の大遅刻が決定した。

慌てて仕事場へ行くと、丁度その日のルーチンワークが終わったところだった。「今終わったよー」「やっぱりタモツ君の家は遠いから間に合わなかったねー」。

上司であるノッポの姉さんは僕にそう言った。どうやら僕がミスったことはバレてないらしい。その後は社員旅行へ。やっぱりしんどかった。イベントは楽しかったけど合間合間とフリータイムはしんどかった。

反省すべきは準備不足。遅刻の原因はそこにある。思えばタイムスケジュールの設定は適当だった。始発の時間を調べてはいおわり。お金とか荷物の準備に追われて時間設定を蔑ろにしていた。

社員旅行を仕事として捉えてなかった節もある。これは遊びだと。遊びなので適当。これはあかん。遊びだからこそ真剣に向き合う必要があったのだ。まだまだ修行が足りないね。

汚名返上の機会は数か月後に訪れた。その日は大雪。このエリアにしては珍しく膝上まで積もった。

仕事時間中にしんしんと降り続く雪。帰宅ラッシュと重なって電車は大混雑。バスに至っては待てども待てども一向に来ず。家に着いたのは、いつもより6時間も後のことだった。

家に着いても安心はしてられない。雪はまだまだ降り続いていたからだ。きっと明日の朝も電車やバスは混雑するだろう。僕は始発の電車で仕事場に向かうこを決めて床についた。

いつもと違う朝。雪は降り止むも、道路は真っ白。バスもタイヤにチェーンを巻いていた。

始発の電車は空いていて、ダイヤは間引かれてるのだけれどもトラブルなく仕事場の最寄り駅に到着。かなりはやい。はてさて仕事場の扉は開いているのだろうかと不安になったが、いつも通り施錠は解除されていた。

ただ、雪は膝上まで積もっていた。誰かが歩いたであろう痕跡もない。真っ白な平面が仕事場の敷地内に広がっていた。居室のある建物までは200mほど。そこを雪中行軍すこととなった。

たのしい。靴は濡れるが関係ない。きれいな景色を汚していく背徳感もある。おそらく後から来る人は僕の足跡を頼りに歩くことになるだろう。そう考えると僕のいたずら心に火がついた。

無駄に迂回してみる。なんならUターンもしてみる。ジャンプして歩幅も広くしておいた。

小結姉さんに怒られた。「タモツ君ちゃんと歩いてよw」。律儀に僕の足跡をトレースしたらしい。歩幅の広い部分はしぶしぶ新雪に踏み込んだとか。おかげで靴はぐちょぐちょ。靴下までしっとり。

ちなみにそのあとの出社組は小結姉さんの足跡をトレースしたおかげで難を逃れていた。

楽しかった大雪の日の通勤。始発の電車にも問題なく乗れた。アラームをしっかりと設定したおかげだ。やっぱり準備は大切。ぼくは念のため替えの靴下も用意しておいたのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?