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1-5.内実VS見かけ

実験を重視した16世紀、17世紀のミュージアムにおいては、解剖学劇場での解剖の公開も含め、様々な実験が公開されている。もちろん、ミュージアムであるから、実験以外にも、珍品奇物を集めた展示自体も公開されていた。

ただし、公開された実験や展示のどれもがまともだったかというと、そうではない。
そもそも、ミュージアムが新しい知の体系をつくるための試作(プロトタイピング)の場という位置付けであったことはすでに書いたし、そうした知の体系の過渡期であったからこそ、アルドロヴァンディの蒐集品に含まれていたようなドラゴンや人面鳥なども並んでいた。
仮説を検証するための実験からして、そもそもの仮説が現代からみれば未熟で、古代の権威を引きずることもあったから、間違った仮説を検証してしまう成否のあやしい実験も行われたという。

例えば、17世紀のイエズス会士で、中国研究やヒエログリフの解読、地質学、医学、音楽理論などの幅広い分野で研究を行い、業績を残したアタナシウス・キルヒャーが行った化石実験もそのひとつの例だ。

キルヒャーは化石を過去の生物の痕跡とは考えてはいなかった。アリストテレス由来の権威に基づき、特殊な力で石の中に形成されるものだと考えていたのだった。
そのバイアスがあったから、彼はその仮説を証明する公開実験を実際に何度も行っていて、実際にその実験を通じて石がもつ形成力を証明できたと考えたのだ。もちろん、化石が自然に石からできるなどという、そもそも事実とは異なる仮説を実証できたというのだとしたら、その実験自体にそもそも欠陥があったわけである。

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