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宮本輝「彗星物語」読書感想文

回覧新聞には、宮本輝の記事が載っていた。
2018年に完結した「流転の海」の書評だった。

それがまた、37年がかりの小説だというから驚きだ。
33歳から71歳まで書いて完結したという。
1982年から2018年まで。

宮本輝の作品の多くには仏教的世界観がある、ともある。

「解釈を拒絶して動じないものだけが美しい、を大切な言葉としている」という本人のコメントも載っていた。

深そうな宮本輝だ。
残念なことに、どこかなにかで名前を目にしたというだけで、まだ1冊も読んだことがない。

読書人のはしくれを目指すのだったら、避けては通れない作家なのは間違いない。

そうしたときに、差入された「彗星物語」だった。
読書などしない友人から。

なぜ、この本なのか意図はわからない。
が、とにかく最初の1冊として読んでみた。

内容としては、昭和のホームドラマ。
とくに山場もない。
平坦に感じる。
半ばすぎるまでの正直な感想だった。

期待していた “ 仏教的世界観 ” ってのは、とくに感じない。
そもそも、それがなんなのかわかってないけど。

終盤は「感動しろ!」と、念じながら読むことになる。

だって、これでは人としてヤバイのではないのか!
大作家の宮本輝の本で感動しないなんて!

だから、こんなコンクリの独居で寒い思いをするのではないのかと、軽い絶望で額を押さえてしまう。


感想

最後まで読めたのは、登場人物が関西人だからか。

文中のセリフはコテコテの関西弁が占めていて、読み進めさせる賑やかなノリはあった。

登場人物が、1冊に詰め込まれ過ぎているとは感じた。
2世帯12人の家族。

さらには飼い犬の様子までもが、けっこう描かれている。
むしろ中心人物は、この飼い犬となっている。

そこに、ハンガリーからの留学生が1人追加。
彗星のように。

そんなこんなで、入れ替わり立ち替わりの脇役までいれると、登場人物は20名、いや30名は超える。

収まりきれなくて、描ききれなくて、よくわからない登場人間が多数発生している。

一家を表面からなぞるような描写だけで「いつまで続くのだろう・・・」と飽きもきてしまった。

当然として、家族の内面までは手が回らないうちに、中途半端なハッピーエンドで1冊が終わってしまったという印象。
これが物足りない。

ホームドラマとして、テレビや映画で見たのだったらおもしろいとは思うけど、本としては物足りない。

やっぱり本というのは、見えない内面や背景を知ることができるからおもしろいのであって、それが感じられないとなると、宮本輝がどうこうではなくて、あとは時間の選択の問題となる。

これほどな平坦なホームドラマを、活字による描写で2日や3日かけて読むのだったら、テレビや映画で映像として見たほうが時間を有効に使えるのに、という気分になってしまう。

宮本輝の、最初の1冊としては読みたくなかったかも。
もっとおもしろい著作があるだろうになと、焦りだけが残った読書だった。

文庫本|1998年発刊|427ページ|文藝春秋

初出:1992年発刊 角川書店

登場人物 - 調査報告書風

この「彗星物語」は、1985年の伊丹市の城田家が舞台となっている。

一見すると、平穏な城田家だが、大いに危険を内包している予見がする。

そこに彗星のようにあらわれた留学生が、城田家の “ かすがい ” のようになっているようである。

「かすがい物語」でも通じるかも。
無難なパッピーエンドのあとが、気になる物語でもある。

城田福造

城田晋太郎の父。
75歳。
年金生活者。
コテコテの関西弁である。

1985年当時で75歳。
とすると、生年は1910年の明治43年。
以降、経歴は一切不明となる。

発言や行動には、デリカシーさは欠けるが、この世代では通常のことである。

城田晋太郎

貿易会社の経営者としてハンガリーに出張した際、留学生を受け入れる約束をする。

その後、会社は倒産。
負債を抱えて、家の敷地の3分の2を売却。
この倒産の詳細は、経緯も含めて不明である。

現在は家具店の相談役をしているが、家計は逼迫している。

そんな中、留学の約束をしたボラージュが来日。
城田家が、すべての費用負担することになる。
これが、一家の禍根の元にもなっているようである。

城田晋太郎氏は、1985年当時の53歳。
とすると、生年は1932年の昭和7年。

この戦前生まれの彼が、事業の失敗により、家の敷地を処分したことは大きな蟠りとなっている、と思われる。

家族の反対を押し切り、留学生を受け入れたのは、城田晋太郎氏が蟠りを吐き出した結果という見方もできる。

性格は短気である。
長男や長女に殴りつけたりするが、これは昭和では通常のことであって、当人たちには深刻さは一切ない。

ポラーニ・ボヤージュ

25歳、ハンガリー人。
3年間、神戸大学の留学生として来日。

すぐに社会主義国(1985年当時)の批判をはじめて、城田家を困惑させる。

自己主張が強く、城田晋太郎氏(以下、晋太郎氏)との摩擦も生じるが、なんとかうまく過ごしていく。

ボヤージュ氏は「文化の違い」という一言で済ましているが、抱えている鬱屈は果てしないのが覗える。

3年が過ぎて帰国する。

城田敦子

晋太郎氏の妻。
50歳。
4人の子供を持つ専業主婦。

更年期障害を発症。
薬を服用している。

城田幸一

晋太郎氏夫妻の長男、24歳。
趣味は切手収集。
切手のアルバムを毎日眺めている。

大学卒業後、広告代理店に就職。
父親である晋太郎氏と大ゲンカをして1人暮らしをはじめたが、すぐに実家に戻る。

話し合いの場が持たれない家族であるといえるが、これは推測の域である。

城田真由美

同、長女。
短大を卒業し、転職を経て、スタイリスト助手となる。
“ おっぱいが大きい ” ということである。

中年男と不倫をして、晋太郎氏に殴られる。
それが原因で家を出て、友人と共同生活をはじめる。

中年男とは不倫を継続する。
「相手が離婚したら結婚する」と言い出して、また晋太郎氏と揉めて「男はもうこりごり」とつぶやく。

自分データで分析するに、城田真由美氏は、典型的な “ 優秀な長女タイプ ” である。

長女というのは下の子の面倒をみて当たり前、やるのが当たり前、できて当たり前。
そのような背景があるからか。

引き続き自分データによると、歌舞伎町のホストに大金を巻き上げられる女性は、10名中6名、いや、7名ほどは “ 優秀な長女タイプ ” である。

“ ダメな男 ” に寛容であり、また“ ダメな男 ” のほうも、ダメなほど、それを見分ける嗅覚がある。

ともあれ、不幸一直線と予見された城田真由美氏は、中年男を別れた直後からイギリス人と交際。

これは、ボヤージュ氏の仲介であった。
福造氏は「スケコマシ」と毒を吐くに至る。

アラン・マッキントッシュ

ボヤージュ氏の友人のイギリス人。
ロンドン大学卒して、神戸大学の留学生となっている。

不倫をやめた城田真由美氏と、いつの間にか交際をはじめており結婚に至る。

“ アラン・真由美 ” となった彼女とは、ロンドンで新生活を送る予定である。

“ イギリスの男はつまらない ” としばしば聞かれるが、すでにアラン氏もつまらない男のテイストがしないでもないが、詳細は未確認である。

城田紀代美

同、次女。
自らを “ ブス ” だと称する。

倹約家でもある。
1日に3回ほど預金通帳を見ている。

大学進学を希望していたが、家計の逼迫により断念。
高校卒業後は就職するが、両親がボヤージュの留学費用の負担をしていることに不満を抱いている。

就職した会社では、社内恋愛に失敗。
落ち込むが、その直後にケニア人と交際。

これもボヤージュ氏の仲介であった。
なんでもかんでも仲介しているようであるが、経緯は不明である。

結婚に至るが、城田紀代美氏は、さほど幸福感を発散させてない。

当人は、ケニアに渡って新生活をする気になっているのが、どこか悲愴でもある気がしないでもない。

以降は、一切不明である。

ウモニ・ンタニ

ボヤージュの友人で、神戸大学の留学生
ケニア人の大男。

知らぬ間に、城田紀代美と交際。
結婚することになる。

挨拶に伺い、晋太郎氏を驚かせる。
福造氏は苗字に「ン」がつくヤツはダメだと大反対する。

ウモニ氏の心情については、一切は不明である。

城田恭太

同、次男、11歳。
ド近眼。
将来は医者になりたいと、苦手な勉強に励む。

きれい好き。
掃除や片付けばかりしている。

母親の城田敦子氏は、成長が遅いと心配しているが、実はチン毛も生えてきているという状況である。

雄吉

城田敦子氏の弟。
岐阜県恵那市で中学教師をしている。

庭に私設の天文台を建設。
新しい彗星を発見することを生きがいとしている。

が、突然に家出。
城田家に姿を見せる。

原因は、妻がカメラにフィルムを装着してなかったので、発見した彗星を写真に撮れなかった、と夫婦喧嘩に到ったのである。

おそらく「だったらフィルムは自分で入れておけ!」と言う反論が妻側からあったと思われるが、これも推測である。

“ フィルム事件 ” 以前に、この夫婦には不和があったと思われる。

おそらく、私設の天文台の建設が遠因であるが、そんなことは城田家には関係ない話で、妻は放置される。

以降は、一切不明である。

城田めぐみ

晋太郎氏の妹。
36歳、バツイチ。

いわゆる出戻り。
城田家の2階の2部屋に、子供4人と暮す。

鉄工所の事務員として働く。
情緒不安定にもなったりする。

離婚の原因は、夫が愛人をつくったから。
養育費を月に8万払うということで、いとも簡単に離婚となったというが、詳細は不明である。

薄幸さだけは強調されている状況である。

城田春雄

城田めぐみの息子。
中学2年生。

近所の不良少年と交遊して、晋太郎氏に怒られたりもする。
高校卒業後には、寿司屋で働くことが決まっている。

城田家12名の中では、いちばんに屈折している人物と思われるが、心中は全く窺い知ることはできない。

城田夏雄

城田めぐみの息子。
小学5年生。

離婚をした父親とこっそりと会い、小遣い2000円をもらい、それが兄の春雄にバレて殴られて泣いたりする。

無残である。
この “ 2000円事件 ” は彼の人格形成に大きな影響を与えると想像に難くないが、心中は全く不明である。

以降は、一切不明である。

城田秋雄

城田めぐみの息子。
小学校2年生。

城田秋雄については、飼い犬よりも出番がない。
いるのかいないのか、わからない状況に陥っている。

だいたいにして、春雄、夏雄、秋雄という兄弟の名前の付けかたからして安易感が拭えない。

特になし、としかいようがない城田秋雄である。

城田美紀

城田めぐみの娘。
3才。

城田敦子がときどき面倒をみる、くらいしか登場してない。
やはり出番は、飼い犬以下である。

特になし、としかいようがない城田美紀である。

フック

8歳になる飼い犬。
アメリカンビーグル。

部屋の中でションベンをしたり、すぐ庭に物品を埋めたりなど、本編中は大活躍する。

放し飼いのため、近所のメス犬複数と交尾を繰り返し、近所からはクレームも出るが、城田家はおかまいなしである。

むしろ、城田家はの面々は、快挙として楽しんでいる様子である。

去勢されることもなく交尾は続き、生涯で90匹近い子犬をダダ漏れのように産ませる。

この小説は、とかく時代の古さを感じさせるが、いちばんに感じさせたのは、この犬の飼育方法である。

ボラージュ氏が、帰国直後に死亡。
原因は不明である。

ネタバレあらすじ

1985年、兵庫県伊丹市。
城田家には、7人が住んでいた。

そこへ離婚をして、実家に戻ってきた親子5人が加わる。
全員で12人となっていた。

さらに1人が増える。
ハンガリーからの留学生がやってくるのだった。

事業の失敗で、家計は苦しい城田家だった。
が、一家は温かく迎え入れる。

留学生は猛勉強の末、日本語を身につける。

微妙な意味の捉え方の違いから、城田家の人たちと摩擦が生じたりもする。
家を出て、1人暮らししたいとも言い出しもする。

父親と、社会人となった長男の衝突もある。
娘の不倫問題もあったりと騒がしい。

年金暮らしの祖父は冗談を放ったり、ボヤいたりする。
中学生の末の息子の成長も見られる。

2年半が過ぎた。
ハンガリーの留学生は帰国する日も近づいてきた。

娘の2人は、それぞれがイギリス人とケニア人と結婚することにもなる。

ある晩、城田敦子は寝つけれなくなる。
すると、脳裏に、光が一直線に飛んでいくのが見えた。

ススキの穂のような光の形だった。
それが彗星にそっくりだと気がつく。

布団の上に正座した彼女は「この家にもたくさんの彗星がいる・・・」と物想いに耽ったのだった。

3年が過ぎた。
留学生は帰国の途についた。

彼からの手紙が届いたのは、飼い犬のフックが死んだ翌日だった。

家族は、それぞれ返事の手紙を書いている。
書き出しは、全員がほとんど同じだった。

きのうの夜、フックが死にました、というものだった。

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