見出し画像

「映画かよ。」の解説かよ。 Ep46 キングダム|映画館への回帰

2023.6.24 update
(写真は全て駒谷揚さんから提供)

 3シーズン目に入っている、駒谷揚制作・監督によるYouTube短編映画シリーズ、「映画かよ。」。Ep46「キングダム」が配信されている。

Ep46「キングダム」

 ラース・フォン・トリアーの監督作「キングダム」(デンマークで放送されたテレビドラマで、日本ではシーズン1、2をそれぞれダイジェスト版として映画にして公開)の20年以上ぶりの続編「キングダム エクソダス〈脱出〉」の劇場公開が決定。その情報をいち早く仕入れたミノル(伊藤武雄)は、映画オタク仲間のアミ(森衣里)が持っている激レアアイテムの「キングダム」のDVDを、公開記念復刻版が出る前に高値で売ろうと持ちかける。アミは後輩の潤(うるみ、木下朝実)に貸していることを思い出し、取り戻しに行くが、潤は彼女のストーカーである安岡(豊島歩)に貸していて、安岡はさらに潤の友達のエマ(黒永明日香)にと、また貸しの連鎖でなかなかDVDを取り戻せない。ショックを受けるたびに気絶するアミは、謎の男性が何かを暗示する言葉を投げ掛けてくる夢を見る。果たして、大事なDVDを取り戻すことはできるのか?

 これまでのエピソードにはない、ロードムービー的な一本。巡り巡って振り出しに戻るというストーリー展開も目新しい。前回、白目をむいて強烈な死に様を演じて、一皮むけた感のあるアミこと森衣里のさらに磨きがかかったコミカルかつ迫真の演技も見どころ。

映画館への回帰【ここからネタバレ(「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「奇跡の海」のネタバレも含む)】

 初っ端からネタバレになってしまうが、DVDのありかを巡って、クセの強いキャラを数々登場させ、アミには数回にわたり失神させて、デビッド・リンチの映画ばりに妙な幻想まで見せて、渋谷中を渡り歩いた挙句、結局のところ、DVDで観るよりも、「映画館で映画を観ることって幸せだよね」という、映画オタク的なハッピーエンドという結末。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「奇跡の海」は、主人公がこれでもかというほど散々な目に遭わされ、一見悲惨に見えるが、実は主人公が一番望んでいたものを手にするハッピーエンドを用意しているのがラースの手口だ。今回のエピソード、決着のつけ方がラースっぽいと思い、ラースファンを公言する駒谷監督に、そのあたりを意識したのかと問いかけると、「😯」という絵文字が返ってきた。

前回の登場でもクセ強めだった潤がクセ全開でアミを翻弄

 映画好きになればなるほど、過去の名作や気になる監督の過去作を観たくなる。そして、できれば好きな作品は映画館で観たい、いい映画と映画館で出会いたい、というのが、映画オタクの至上命題だ。「映画館で最初に『キングダム』なんて…、うらやましいな」「めっちゃうらやましいよね」という、ミノルとアミのセリフが、映画オタクの気持ちを代弁している。

謎の男の言葉、「アミちゃんの受け取り方次第だよ…」は、何を意味するのか?(何も意味はないのか…)

 映画が誕生して約130年。映画は映画館で限られた期間しか観られない時代が長く続き、子供も大人も映画館に足を運んだ。その後はテレビでの放映、1970年代後半にはレンタルビデオが誕生。さらにDVD、ストリーミングと、映画の視聴方法は急速に進化を遂げ多様化してきた。特にストリーミングはコロナ禍の巣ごもり需要で急速に興隆を極め、いまやメジャーからインディ系まで、ありとあらゆる映画が無料、有料、広告付きで観られるようになった。大切な映画との出会いは、どこで観ようが変わらないのならば、高いお金を払ってまで映画館に出向いて映画を観る意味があるのか、という疑問もわいてくる。

 だが、やはり映画館での視聴体験は特別なものがあると言いたい。大画面の迫力、映画への没頭感など、その魅力はいろいろある。個人的には、黒沢清監督が以前言っていたことなのだが、自分と社会の関係性を理解する場であるという意見に同意する。他の観客が笑っている場面で自分も笑っているのか、いないのか、泣いている場面で自分も泣いているのか、いないのか。それを確認することで、自分が社会の中でどんな人間なのかを理解できる。それは一人で観るだけでは得られない経験だ。

ともにラースファンでも、この二人は好きなポイントは違いそうだと勝手に想像した

 さらに言えば、難解と言われる作品ほど、映画館で観てほしい。DVDやストリーミングで見ると、つい集中を欠きがちになるのもあるが、その作品や監督のファンが集まる中ですら解釈は十人十色で、あなたがどう感じるか、いかに人と違うかを知るには、やはり映画館が一番いい環境だと思う。

 ラースの作品など、映画館で観るには絶好の映画だ。人間の暗部を深くえぐるような物語の数々、難解な描写が多い一方で、その突拍子のなさがコメディに見えることもある。登場人物たちを絶望的な状況に置くように見せて、実はハッピーエンドというトリックスター的な要素もある。今回のエピソードに出てくる人たちは、皆、「キングダム」を面白いと言っているが、ラースファンがそんなに素直なわけがない。アメリカですら、好きな映画監督の一人としてラースの名前を挙げると、「変わり者の監督」「暗い映画」といったものから、評価はかなり分かれる。これまで「『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は実はハッピーエンドだよね」という意見に共感してくれたのは、駒谷監督しかいない。

 「キングダム エクソダス〈脱出〉」が28日から劇場公開、ラースのレトロスペクティブとして、「キングダム」I、IIも映画館で公開するようなのでぜひ足を運んでほしい。おそらく客席はラースファンで溢れるのだろう。その中でも、自分なりの解釈をしていいんだ、という体感を映画館でしてほしい。

「映画かよ。」のリファレンス

【「映画かよ。」公式YouTubeサイト

「映画かよ。」ウィキペディア

駒谷監督はこんな人↓

駒谷揚監督インタビュー(Danro)

「映画かよ。」に関するレビュー↓

トリッチさんによる
カナリアクロニクル」でのレビュー

Hasecchoさんによる
「映画かよ。批評家Hasecchoが斬る。」
YouTube「映画かよ。」のコミュニティーページで展開

おりょうSNKさんによる
ポッドキャスト「旦那さんとお前さん」


よろしければ、サポートをお願いいたします。こちらは活動費に当てさせていただきます。