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似合うと好き、の攻防戦

「赤い口紅があればいい」という本をご存知だろうか。元ピチカートファイヴ、野宮真貴さんの著作で「美人に見える」方法が満載な一冊。

……らしい。

というのも、出版に携わる者として最低だと思うんだけど、書店で目にしてそのタイトルに惹かれ、「なるほど赤い口紅を買えばいいのね」とそのままデパートに走ったのだ。

紅ひとさしで「それらしく」なるならやってみようと思って。美人に見えるかなって。なんとあんぽんたんな読者だろうか。

さて、愚かな読者は店頭で発色の強い、素敵な赤色の口紅(リップ)を見つけた。これで雰囲気おしゃれになれるかもしれない——胸躍らせながら鏡をのぞき、すーっと紅をさす。

……おどろいた。ものすんごく似合わなかった。鏡の中にあらわれたのは、唇だけが歩いてきそうなバブル感あふれる女性。ついでにビビッドな青みピンクも似合わず、忌憚なく意見をくれるおしゃれな友人によると「上沼恵美子風だね」。

この「赤い口紅事件」のショックもあり、わたしはパーソナルカラー診断を受けることを決めた。

パーソナルカラーは、アメリカから日本へ伝わった考え方で、似合う色の範囲を「4シーズン:春・夏・秋・冬」のグループに分け、その中から似合う色のグループをアドバイスするというものです。
(NPO日本パーソナルカラー診断協会HPより)

実際にプロに見てもらうと、結果は春タイプ。芸能人で言えば上戸彩さん、井川遥さん、Youさんなど。「キュートでかわいらしい」らしく、かなり意外な結果だった。

パーソナルカラー診断の細かい話は置いておいて、絶望的だったのがクローゼットに、春タイプが似合う色の服が1枚もなかったこと! 手持ちの服は、ほとんど「冬タイプ」。さらに例の赤い口紅を見てもらったら、「これも冬の色だからなじまないですよ」。

ああ、冬タイプの色が好きなのね、わたしは。こんなパッキリとした色を着こなしたかった。諦めきれないまま、春タイプのメイクをしてもらう。

……悔しいけれど、自分比140パーセントだ。キュートでかわいらしい!(あくまで自分比です)

好きと似合うってこんなに違うんだと、白旗を揚げるしかなかった。

それから春タイプのコスメや服を買い足してみた。はじめは嫌々だったけど、やっぱりしっくりくる。なんというか、顔が光るのだ。ほんとうに。


でも。いまも春タイプの色が好きかというと、じつはそういうわけじゃない。もちろん自分を引き立たせてくれる武器ではあるんだけど、春タイプとは関係ないカラフルなニットばかり集めてしまうし、キュートとはいえない個性的な服も好きだ。

ただ、「似合う」を知っているからこそ「好き」を活かせているな、とも思う。好きなかたちだけど顔がくすむ色の服には、顔の近くに似合う色の小物を持ってくる、とか。好きだけど似合わない色の口紅は、血色かなと思うくらい薄くつける、とか。そういう工夫が(素人なりに)できるから。

もし「似合う」を知らなかったら、ただ「好きなのになんだかしっくりこない」と悲しい思いをしていただろう。それにも気づかず、自分比70パーセントで存在し続けていたかもしれない。


似合うと好き。

対立するものとして語られがちだし、自分の「好き」を信じられず、パーソナルカラーに振り回されるのはダサいという声もある。

けれど、好きを好きでいるためにも「似合う」を知れてよかったと、わたしは思う。

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