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学校の部活動に必ずいるウゼェ母親どもの話


ランニングの途中、母校の中学校のグラウンドを通りかかった。

およそ10年前、僕が野球部の仲間たちとともに汗を流した場所である。チームメイトは良いやつばかりだったが、野球そのものに良い思い出はない。



日曜日の午後。

ちょうど他校との練習試合を終えたところだろうか。

ふとグラウンドの中を覗いてみると、僕より一回り年下の少年たちがグラウンドの隅で体育座りをしていた。彼らの視線の先には、監督・コーチと思われる2人の大人が。そして背後には、観客席で我が息子を応援していたのであろうお母さんたちの姿があった。


微かに聞き取れた監督の言葉から察するに、どうやら後輩たちは試合に負けたらしい。部員は皆うつむき加減で、中には涙で顔をクシャクシャにしている者もいた。静まり返ったグラウンドに、敗者の嗚咽が悲しく響く。


その嗚咽に交じって、時折「スピッ…スピッ…」と鼻をすする音が聞こえてくる。



“お母さん”だ。



「あぁ、こういう親って、やっぱりいつの時代も変わらずいるんだな…」


当時の情景がフラッシュバックするのと同時に、僕がなぜ野球を嫌いになったのか、その理由を再認識した。


今は僕だって大人だし、お母さんたちの気持ちが全く分からないか?と言われたら、そうでもない。


自分の息子が真剣に取り組んでいる姿を誰よりも近くで応援したい…

彼らが熱意を注ぐ物事に、一喜一憂したい…


そういう思いはあって当然だし、もしかしたら、子どもたちもそんなお母さんのことが大好きなのかもしれない。それはそれで、ふつうに素敵な親子関係じゃないか。



ただ、この類の母親は、大抵「あるクセ」を持っている。

それが僕を“野球嫌い”、強いて言えば“チームスポーツ”を嫌いにさせた元凶と言ってもいい。




そのクセとは、「ヨソの子どものミス」にうるさいこと。


野球もサッカーもバスケもその他多くの団体競技も、敗北の要因には必ず「個人のミスシーン」が挙げられる。


あの場面のあいつのパスミスで、試合の流れが変わった…

あいつのエラーがなければ、失点せずに済んだのに…


口先では「ドンマイドンマイ!切り替えていこ!」と言いつつも、その言葉の裏には「次やったら殺すからな?」という意味が隠されている。


べつに、これがプレイヤー同士のみで行われるコミュニケーションならまだ良い。事実、自分のミスによってチームメイトに辛い思いをさせてしまったのだから、当然怒りのベクトルも自分自身に向く。「100%俺が悪い、責められて当たり前だ」と。


ただ、観客席に座るチームメイトのお母さんから時折こんな声が聞こえてきた。



「なにやってんのよー!」

「しっかり守らないとー!ピッチャーかわいそうだよー!」




は?

うるせえよ。子どもたちの世界に何でお前らが入ってくるんだよ。黙って茶の間の世間話でもしてやがれ。



試合でグラウンドに立ったとき、僕はとにかくお母さんたちのヤジにビクビクしていた。チームメイトに嫌われるよりも監督に怒られるよりも、アイツらが一番タチの悪い人間だった。


自分の息子を応援しに来ているんだったら、自分の息子が好プレーをしたときだけ目一杯声を上げて喜べばいい。小中学校の部活動なんてどこまでいっても遊びの延長線上でしかないのだから、他人が自分の思い通りにならないことに腹を立てないでほしい。ましてや、“当事者でない”ヤツらが。

ヤツらは試合中ひたすらキャーキャー喚くし、一緒にプレーしたわけでもないのに、終わりのミーティングでは選手たちの後ろで何故か一緒に泣いている。本当に意味が分からない。

そんなヤツらの姿を見て、当時中学生ながらに「こういう親にはなりたくないな」と心底感じたことを未だに覚えている。そして、その気持ちは今も変わることはない。



僕は、当時自分の母が、野球の試合を見に来ないでくれたことに本当に感謝している。野球が下手な自分が、ミスをしてチームメイトに迷惑をかけているところ、そのチームメイトの親からナブられているところを見られていたら、たまったもんじゃない。

実際、試合のたびに僕が「絶対に見に来るな」と口酸っぱく言っていたのもあるが、黙って「はいはい。行きませんよ」の二言で済ませてくれた母は、何となく僕の心情を察してくれていたのかな…とも思う。今思い返せば、息子の言うことを無視して強引に応援に来るようなマネをされるよりも、僕にとってはよっぽど愛に溢れた行動だ。心から「ありがとう」と言いたい。



~~~

今日グラウンドで見た、10年前の自分と等身大の彼らの中に、同じ思いをしている子はいただろうか。

きっと、いたに違いない。



「大丈夫。10年前キミと同じ場所で、僕も同じ思いを抱いていたよ」


同志がいることを勝手に想像しながら、僕は心の中でそう呟いた。



~終~

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