はたちのニューヨークで、僕はポカホンタスと出会った。
カフェが好きだ。
ただ小説読むだけなのに、わざわざ身だしなみを整え、髪をセットし、僕はカフェに行く。
それはきっと他の人たちも同じで、
「ドヤ顔でMacBook開きたい」
「分厚い参考書開いて頭良いと思われたい」
「ビジネス書読んでデキる人に思われたい」
そんな自己顕示欲を拗らせた中身スッカスカの人間が集結する場所、それがカフェだ。
(特にスターバックスやタリーズなどの“中堅チェーン店”に多い。実際は作業時間よりもスマホでSNSを閲覧していることがほとんどなので、彼らにとってコンセントとWi-fi環境は欠かせない)
偏見が過ぎると思われるだろうが、実際に僕がそうなのだからあながち間違いではない。
しかし、僕の場合は目的が少し違う。
僕は、運命的な出会いを期待してカフェに来ているのだ。
遡ること4年、2014年年末の話をしよう。
思えば、僕がカフェを好きになったルーツはここにある。
当時20歳の僕は、記念すべき一人初海外旅行をニューヨークで過ごしていた。チャイナタウンにある1泊800円の刑務所風宿に1週間泊まり、チープな旅を楽しんでいた。
2日目の夜、翌日の観光プランを立てるべく、僕はリトルイタリーの傍にあるスタバで『地球の歩き方~ニューヨーク~』を読んでいた。
しばらくすると、一人の女性が僕との間に一つ空席を設けて座った。僕は何となく前のガラスに映ったその女性の顔を見た。
長い黒髪に、アジア人ぽい顔をしている。僕より5歳は上に見える。どこかで見たことのある顔だと思った。
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
ポカホンタスだ。
※あくまでイメージであり、実物はもっと美人。
その日は12月30日の深夜ということもあってか、店内には僕とポカホンタスの二人しかいなかった。何故だか、僕はポカホンタスが気になった。
ふいに、ポカホンタスはスマホを片手に僕に話しかけてきた。
「君の足元のアウトレット、借りてもいい?」
一瞬戸惑いつつも、僕は「(あぁ、コンセントのことか…)もちろんです」と返し、自分の席を譲った。遠くに席を移すのも変だと思ったので、僕はそのまま一つ左に詰めた。ポカホンタスとは隣り合わせになる形だ。
ポカホンタスは自前のiPhone充電器をコンセントに挿そうとしたが、なにやらやたら年期の入った充電器で、ガムテープでメチャクチャに補強がしてある。案の定、接触が悪く充電できない。ポカホンタスはさわやかな笑みを浮かべ、僕に「It dosen't work!(ボロすぎワロタ) wwwwwwwww」と呟いた。
このちょっと恥ずかしいシチュエーションでも気さくに話しかけてくるところが、ニューヨーカーのカッコいいところである。
とっさに、僕は自分の充電器を差し出した。
「僕の、使ってどうぞ」
「本当に?優しいのね、ありがとう」
これがもし汚らしいオッサンだったら、僕は充電器など持っていないフリをしただろう。しかし、相手は大人のお姉さんだ。ポカホンタスの淀みない笑顔に、僕の心はホクホクした。
充電器を貸したことをきっかけに、ポカホンタスは僕の話し相手になってくれた。
ポカホンタスの本名はJIN(ジン)と言った。
生まれは北京、育ちはNYのチャイニーズアメリカンとのことだ。見た目はゴリゴリのアジア人なのに、話す英語はネイティブだからなんかすごいカッコいい。普段はダウンタウン付近の大手化粧品会社で働いていて、商品開発を担当しているらしい。バリバリキャリアウーマンのザ・ニューヨーカーといった感じだ。
せっかくなのでJINにお勧めの観光地を教えてもらうことにした。
すると、今まさにニューヨークでトレンドだというお店を紹介してくれた。しかも、明日空いてるので一緒に連れて行ってくれるという。
これはもう事実上のデートだ。僕は出会って5秒のニューヨーカーと即デートの約束にこぎつけたのだ!
当時僕は20歳にして素人童貞というコンプレックスを抱えていたが、この際そんなことはどうだっていい。
俺はカフェでNew Yorkerを(充電器を使って)口説き落とし、デートの約束までこぎつけた男だ。そこらへんのヤリチンよりも、よっぽど価値がある。
JINとFacebook上で友達になり、Messengerで明日の待ち合わせ場所と時間を決めた。ただただ一人で有名観光地を周る予定だったシンプルな旅が、一気に楽しみになってきた。
ホテルに戻った僕は胸の高鳴りを抑えられないまま、硬いベッドの上で眠りについた。
翌朝、JINと合流し、僕はローカルなニューヨーク観光を楽しんだ。
●ベルギー発のフレンチフライ専門店「Pommes Frites」
(https://www.timeout.com/newyork/restaurants/pommes-frites)
●内装がオシャレなインスタ映え不可避カフェ「Kopikopi」
(https://www.kopinyc.com/gallery/)
昨日たまたま出会った外国人観光客をここまで“オモテナシ”してくれるなんて…
半日一緒に過ごしただけで、僕はもうJINのことを好きになりかけていた。
ありがとう、JIN。
君との出会いが、このニューヨーク旅行を最高のものにしてくれた。
いつか僕がアナザースカイに出るときが来たら、必ずニューヨークを選ぶよ。そして、再び君に会いに来る。
その時は、ニューヨーク在住の僕の親友として、君を紹介させてほしい―――。
あれから4年が経ち、今ではJINと頻繁に連絡を取ることはなくなった。
でもきっと元気にやっているだろう。
僕はカフェに来るたび、彼女との出会いを思い出す。
そしていつも、心のどこかで期待しているのかも知れない。
あの時と同じような、充電器から始まる素敵なめぐり逢いを…
終
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