わたしが泣かなかった理由

 わたしは小さい頃から親元を離れるまで泣かない子どもだった。
 同級生からいじめを受けて、いくら辛くても、わたしはさもなんでもないようなことのように、母には笑って話した。母は複雑そうな顔をしていた。
 両親から暴力を振るわれることも結構な頻度であった。
 当時、わたしは他人の心の機微に疎かったので、知らず知らずのうちに、気分を害するようなことを言っていたのだと、今になって思う。
 対策としては、他人同士の会話をリスニングして、真似るようになった。
 わたしはどんどん、無意識にオドオドとした態度を取るようになった。
 母からは「外に出たときくらい、堂々として歩きなさい」と言われた。
 だけど、意識すればするほど、わたしの挙動はどんどんおかしくなり、店員さんから万引きを疑われたこともある。

 わたしは他人の顔色を読むことを覚えていった。そう言ったらおこがましいかもしれないけれど、足並みを揃えたり、空気を読もうと努力はした。

 わたしは、生まれつき自閉症がある。でも、診断を下されたのは、社会人になってからのこと。
 そのことで両親を落胆させてはしまったけれど、自身の生きづらさの問題の根源がわかった気がして、わたしは逆に気が楽になった。

 自閉症の診断を下される前、わたしはうつ病、不安神経症、適応障がいなど、様々な病名をつけられた。
 絶対泣かない子どもだったのに、大人になってからわたしは涙もろくなった。
 いや、学校で作文の課題が出ると感受性が豊かだと、よく言われていたので、それを表に出すのが苦手だったのだと思う。自分の気持ちを表現することが。

 病気、障がいを持ったことで、ある意味わたしは本当の自分になれたのかもしれない。
 この歳になって涙もろいのは、どうにか直したいところだけれど、今まで我慢してきた分、これからは自分の気持ちに正直に生きていきたい。

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