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言葉の強さ、言葉の不便さ

「サザエさん」に登場する波野イクラという幼児は「チャーン」「ハーイ」「バブー」という3つの言葉ですべての感情を表現する。その感情の強弱は何度その言葉を連呼するかによって表すことが可能だ。

笑顔で「ハーイ!ハーイ!」と言えば、喜びの強度が強い状態を示せる。

怒り顔で強めに「バブー!」と言えば、怒りの感情を伝えることができる。

我々人類は、イクラから学ばなければいけないのではないか。

この究極的にミニマムなコミュニケーションコストは無形世界遺産、いや、宇宙の歴史に刻まれるべきものではないだろうか。

世間は今や、空前の「時短」ブームである。
家事も時短、睡眠も時短、料理も時短、一方で仕事は長くなるばかり。「働き方改革」は何処へやら、家に仕事を持ち帰り、滅する心ばかりなり。

そして、便利なツールが次々に開発され、私たちの生活を浸蝕していきます。我々は「圧力鍋」という発明で、牛筋の煮込みを1時間以内で作れるようになった。これは革命以外の言葉がない。さらに、お掃除ロボット・ルンバは、私たちが堕落した生活をしている間にも、せっせと部屋をお掃除してくれる優れものです。途中で隙間に入れず悔しがる姿も愛おしい。

ということはですよ、コミュニケーションももっと短くしていいのではないでしょうか。「ツー」といえば「カー」とよくいったもので、かつての日本の夫婦像は夫が「おい」と言えば、妻が「はい」と夫の欲しいものを差し出し、妻が「ねえ」と言えば、夫は「はい」と言ってそこをそそくさとどいていくという「ツーカー」コミュニケーションであった。

ところが、なんですか。

学校の校長の朝礼の挨拶の長さ。「みなさん、健やかに育ちなさい」だけでいいのではないか。幼心に、その話の節々から「私の話はとても価値があるものである」という自信を感じ、「毎週ネタを探すの面倒くさくないのかな」と思っていたものである。

職場の毎朝の朝礼の長さ。今日のちょっといい話など差し込まれると、だいぶ悲惨である。仕事なのだから、言うべきことは「絶対目標達成」、これしかないではないか。会議の長さ。9割が雑談じゃないか。メールもたまにやたら長いものを送り付けてくる人がいる。1日メールを書いて終わる日もある。

こんな妄想をしてみましょう。

株式会社コミュニケーション・ショート(略してコミュショー)では、できる限りコミュニケーションコストを抑える工夫をして、リーンスタートアップを実現、ロケットダッシュを決めることに成功した。
会議も5分で終わるというコミュショー。とある社員が自分の作った企画を社長に持ち込む際の会議の様子を見てみよう。

社員「(この企画)ヤバくね?」
社長「(でも予算組みしてないの)ヤバくね?」
社員「(予算組みお見せしますよ、これ)ヤバくね?」
社長「(お前金かかりすぎで)ヤバくね?」
社員「(これくらい金かけられないの)ヤバくね?」
社長「(ていうかこれ法律的にグレーすぎるの)ヤバくね?」
社員「(でも、めっちゃ儲かるかもしれないし)ヤバくね?」
社長「(お前の頭が)ヤバくね?」

このように「ヤバくね」のみですべてが決められるのである。

ダメですな、これは。大事な場面はちゃんと言葉を羅列して説明しなければ。

そして、「コミュ短」を標榜しつつ、このように冗長な文章を書いている谷間は、「全国コミュ短評議会」からの除名を言い渡され、野に放たれたのであった。

(谷間)

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