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【探究×起業】高校生5人が商品開発から販売までを自分たちで行い、ビジネス経験を積む

高校生が自分たちで商品を開発し、マーケティングや経理、販売までを行う高校生模擬起業グランプリ「リアビズ」。

大阪府立富田林高等学校の2年生5人で結成した「ぷるーとん」は、2023年度のリアビズに応募。6月に行われた一次審査では、全国からエントリーした31チームのうち上位6チームに選ばれ、活動資金として30万円の融資を受けられることが決定しました。

5人が開発しているのは、富田林市の農産物である海老芋を使った炊き込みご飯の素。現在(2023年8月末)は商品開発の最終段階に入り、10月からの販売に向けてマーケティングや広報活動に力を入れています。

特徴的なのは、教員のサポートは必要最低限であり、生徒たちが主体となってプロジェクトを進めているところ。生徒たちのモチベーションの源泉は、どこにあるのでしょうか。リアビズへの出場を決めた理由や活動のやりがい、商品に込めた思いを聞きました。

参加を決意した理由は、「先輩への憧れ」「起業への関心」

—— なぜリアビズに参加したいと思ったのでしょうか?

井上:同じ部活の先輩がリアビズに参加していて、「大変だけど、やりがいがある」と聞いていました。実際にすごく楽しそうだったので、気になっていたんです。校内では昨年度の3月にそれぞれの探究活動について発表する行事があって、先輩のチームも発表していました。それを見て、「私も挑戦してみたい!」と思いました。

笠松:私も、リアビズに参加しようと思ったのは先輩方の影響が大きいです。とにかくプレゼンが上手くて、それで心を掴まれました(笑)面白いだけじゃなくて、開発している商品は社会貢献になっているし、リアビズでは金賞も受賞していました。「かっこいい」という憧れの気持ちが強かったです。

瀧本:私は小学生の頃から、「将来は起業したい」と思っていました。なので、富田林高校がグローバルリーダーの育成に力を入れていると知って入学を決めたんです。リアビズを知ったときは、迷わず参加を決めました。

左から、尾崎梨乃さん (人事法務部)、笠松祐花さん (広報マーケティング部)、井上蘭さん (社長)、瀧本明日珂さん (経理部)、和田静句さん (仕入部)

食品ロスを減らしつつ、富田林市を活性化したい

—— どのような経緯で、「海老芋の炊き込みご飯の素」を開発することになったのでしょうか。

井上:活動資金となる30万円を融資してもらうには、エントリーしている31のチームの中から上位6チームに選出されなければいけません。なので、まずはどんな商品が過去に審査を通過してきているのかを調べました。

わかったのは、SDGsに関連した商品が多いということ。それを知って、地球環境に貢献できる商品を作ることを意識しつつアイデアを出し合いました。そのときに、メンバーの尾崎が、廃棄されがちな食材を使った商品開発をしている会社が富田林市にあることを見つけてくれたんです。

尾崎:私は商品開発を通して地元である富田林市を活性化することにこだわりがありました。なので、開発する過程でも富田林市の企業や団体の方と連携したいと思っていたんです。そう思って、富田林市のことを調べる中で知ったのが「開屋本舗株式会社」さんでした。

井上:それをきっかけに“食品”を軸に商品開発をしていくことになり、注目したのが富田林市の農産物である海老芋でした。海老芋の子芋と孫芋は出荷され、高級食材として料亭などでも出される食材ではありますが、親芋は食べにくさがありほとんど破棄されてしまうそうです。

さらに、海老芋が富田林市の農産物であることは、全国にはほとんど知られていません。なので、海老芋の親芋を使った美味しい商品を作ることができたら、食品ロスも減らせるし、富田林市の活性化にも繋がるのではないかと考えました。

ただ、私たちもまだ海老芋のことをよく知らなくて。まずは知る必要があると思い、先生に相談しました。すると、本校の卒業生の方が海老芋の生産をしている「乾農園」を経営していることがわかったんです。実際に「乾農園」さんを訪問させてもらい、私たちの思いをお伝えすると、協力していただけることが決まりました。

—— 海老芋はこれまでに食べたことがありましたか?

和田:いいえ、実は私たちも海老芋を食べたことはなくて。商品開発をお願いする「開屋本舗株式会社」さんに海老芋を使った商品を食べさせてもらいました。いただいたのは缶詰の海老芋スープです。つるっと食べられるような感じで、とても美味しかったです。

瀧本:てっきり里芋と同じような感じかなと思っていたのですが、少し違いました。柔らかくて、とろけるような食感なんです。海老芋がこんなに美味しいってことをみんなに知ってもらいたいと思いました。

こだわったのは“完全無添加”。簡単だけど、体にいい商品を

—— 現在は、海老芋を使った炊き込みご飯の素を開発していますね。どんなところが商品の魅力なのでしょうか。

井上:こだわっているのは無添加であることです。保存料や着色料は使っていないですし、あっさりとしていて不純物が少ないココナッツオイルを使っています。体に良いので、小さいお子さんから高齢者の方まで、いろんな方に食べていただけるような商品にすることを心がけて作っています。

—— なぜ無添加にこだわっているのでしょう。

尾崎:どんな方に食べてもらいたいかを考えたときに、最初に出てきたのが、高齢者だったんです。高齢化が進んでいる社会で、高齢者の方が健康でいられるような商品を作りたいと思って無添加にこだわるようになりました。

いつも通りお米を研いだ後に炊飯器に入れるだけで炊き込みご飯が作れるので、調理の簡単さも魅力の1つだと思います。高齢者の方だけではなく、忙しくてなかなか料理の時間が取れない方やお子さんにも作ってもらうことができます。

ビジネスの世界を体験して、“できること”が増えた

—— 具体的に、プロジェクトはどのように進めていますか?

井上:探究の授業は週1回なので、休み時間や放課後に集まって話し合いをしています。あとは、アドバイスをして下さる大学生の方3人と社会人の方1人が、私たちのチームのメンターとして関わってくれていて。1〜2週間に1回、オンラインでミーティングをして進捗を共有したり、進め方の相談をしたりしています。学校の先生が一緒に商品開発をすることは認められていないので、先生にはサポートをしてもらいつつ、私たちがメインで商品開発を進めています。

瀧本:大学生メンターさんとのミーティングは、最初の頃はすごく緊張しました。質問があるか聞かれても上手く伝えられず、「特にないです…」としか言えなかったり。でも何度もミーティングを重ねていく中で、進捗状況の共有や質問への受け答えがスムーズにできるようになりました。

和田:商品の試食も繰り返しやってきました。最初は味が濃かったり、具材が少なかったり、見た目が悪かったり。いろいろな改善点があったのですが、毎回先生方に試食をしてもらって、意見をもらいながら改良を重ねていきました。そうすると、どんどん美味しくなっていくし、見栄えもよくなっていくんです。

—— どのようなところにやりがいを感じますか?

瀧本:「どうしたら自分たちの商品を買ってもらえるか?」を考えて、戦略を立てたり実行したりすることは楽しいです。以前、老人ホームや保育園の昼食で商品を出してもらえないかと考えていたときに、食品会社で働いている父に相談すると、商品企画書の作成やPL保険(生産物賠償責任保険)への加入を考える必要があると知りました。普段の高校生活ではなかなかそこまで知る機会はありません。

井上:一つ一つのことが初めてのことばかりだなと思います。私は普段、誰かと連絡を取るときはLINEやInstagramを使うことが多かったので、電話やメールで大人の方と連絡をとることはほとんど初めてでした。通話をするときもSNSの機能を使うので、電話番号を打ったこともなくて(笑)

電話で大人の方と話すときは緊張しましたし、メールの送り方も最初はよくわかりませんでした。でも、今はメールにどのような件名を入れるかや、CCやBCCの使い方もわかるようになりました。新しいことを知ることができて、成長している感じがします。

笠松:本当に貴重な体験をさせてもらっています。一緒に商品を作り、売っていくには、人との信頼関係を築いていく必要があることも実感しました。そのためには言葉遣いも大切で、大人の方と関わる際には特に意識するようになりました。私は敬語を使うのが苦手だったのですが、いろんな立場の方と話す中で少しずつ敬語の使い方がわかってきました。

あとは、ぷるーとんのメンバー5人で協力しながら活動できることもやりがいに繋がっています。でも最初から仲が良かったわけではなくて、お互い顔見知りくらいだった子もいます。それが、「リアビズに出たい」という共通の思いを持って集まって、一緒にプロジェクトを進める中で仲が深まっていきました。学校の中でも関わる人が増えていくのは楽しさの一つだと思います。

変化したのは、「自分」や「社会」を見る目

—— この活動を通して、変化したことはありますか?

瀧本:私は経理を担当しているので、お店に行ったときに商品の値段や成分表を見るようになりました。炊き込みご飯の素が売っていたら、「なぜこの値段なんだろう?」「なぜ3合用ではなく2合用にしたんだろう?」「どんな成分が入っているんだろう?」という感じです。お店で商品を見るときに注目するポイントが1番変わったなと思います。

尾崎:買い物をしているときに注目するところは変わりましたね。私の場合は、商品の売り方に目が行くようになりました。「こういう風に置いたら目立つんだな」とじっくり見るようになったと思います。

和田:私は、買い物に行ったときに参考にしたいパッケージがあったら写真を撮っておいたり、もらったヒントから自分でもアイデアを考えたりするようになりました。今まで商品のパッケージは何気なく見ているだけだったのですが、いざ自分で作るとなると本当に難しくて。でも、それが面白さでもあります。

笠松:私は生活習慣や時間の使い方が変わりました。1年前の私は、夏休みは昼まで寝てゆっくり昼食を食べて…という生活だったんですが(笑)、今は去年とは比べものにならないくらい忙しいので、時間を効率的に使う習慣がついたと思います。「今に集中して、自分ができることをやろう」という気持ちで過ごすようになりました。

井上:私は自分がどんなことに嬉しさや楽しさを感じるのかを知ることができたなと思います。この商品を買ってくれた方が喜んでくれたり、海老芋が有名になることで農家さんが助かったりすることを考えると、私自身がすごく幸せなんです。誰かに喜んでもらうことが、私にとっての喜びにもなる。それを実感することができて、「将来は地域の方に密着できるような警察官になりたい」という思いがより強くなりました。

—— 最後に、商品販売に向けた意気込みをお願いします。

井上:商品の販売は10月から1ヶ月間と決まっているので、まずはそこで多くの方に手に取ってもらいたいです。私たちの活動が、海老芋を知ってもらったり、地元の農産物に興味を持ってもらったりするきっかけになるといいなと。その後は、この商品を富田林市の特産品として残していけるといいなと思っています。

—— ぷるーとんの皆さん、ありがとうございました!海老芋を使った商品が多くの方に届くよう、応援しています。

取材・文:建石尚子、写真:大森秀明

商品は下記オンラインショップから購入することができます。※本記事の写真内のパッケージから、一部変更の可能性があります。

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