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シャイな男の子が、クラスのリーダーになるまで(探究育ちvol.3 Dくん)

探究型スクールに行った子どもたちは、その後にどんな進路を選択するのだろう? どんな大人になり、どんな人生を歩んでいるのだろう? 「探究育ち」第3回では、東京コミュニティスクール(以下、TCS)卒業生のDくん(仮名)にお話を伺いました。

現在は三田国際学園中学校に通う中学3年生のDくんは、2018年に実施された少人数枠の「21世紀型入試」で合格を果たしたといいます。その背景には、TCSでのどのような学びがあったのでしょうか。小学校の記憶もまだ新しいDくんに、6年間のリアルな思い出をたっぷり語っていただきました。

Dくんプロフィール
2012年に東京コミュニティスクールに入学。TCSで出した1200m走の記録は今も抜かれておらず、その運動能力とリーダーシップから「伝説の卒業生」と呼ばれている。2018年に三田国際学園中学校入学。

あちこち脱線して終着点にたどり着かないTCSの授業

——今日はよろしくお願いします。まずTCSとの出会いについて教えてください。

両親とも小学校・中学校から大学まで続いている私立校の出身で、社会に出てから自分たちが学んできた環境に疑問を持つようになったそうです。「これからの時代は自分の頭で考えて判断する力がないとダメだ」と両親は感じていたようで、TCSの教育方針に感銘を受け、僕の入学を決めたそうです。

——TCSではどんな授業を受けてきましたか?

たとえば国語だったら、次の学期に読む予定の課題図書が1冊配られるんですけど、夏休み中に読んでいざ新学期に授業が始まったと思ったら、何ページも読み進める予定だった授業が1〜2文読んだだけで止まっちゃうんですよ。

おっちゃん(※初代TCS校長の市川力さん)が1〜2文の中に含まれたキーワードから色んなことを話すんです。気づいたらみんな夢中になって、前のめりになって話を聞いていて、あっという間に45分経ってしまって。おっちゃんならではの自然な好奇心の引き出し方があるのかなと思います。

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——それは例えば、どんどん疑問が湧いてきたりするような感じなのでしょうか。

簡単に言うと面白くなってくるんです。おっちゃんはすごく話がうまいのでそれを聞いているだけで面白いですし、そこからおっちゃんが閃いたゲームをやったり、アンケートを取って何かを始めたり、その時々の思いつきでおっちゃんがやるんですけど。

あちこち脱線して終着点まですぐにはたどり着かないけれど、点をばらばら置いて、いずれ僕らが勝手につなぐだろうと信頼されている感じがしました。


お葬式で故人に何を伝える?「個と尊厳」のテーマ学習

——TCSでは、6つの探究領域をグループで深めていくテーマ学習もあるそうですね。

はい。例えば「個と尊厳」がテーマだったときには、25年後おっちゃんが亡くなって同窓会がお葬式になったという設定で、おっちゃんに対してそれぞれ何を伝えるかを劇にしてプレゼンしたこともありました。

人生マップを描いて自分は25年後何をやってるのかを想像して、「いま自分はこんな仕事をしているんだけど、TCSにいた頃は〜」と回想しながらおっちゃんに話しかけたりしたんです。

——すごいテーマですね!ちなみに人生マップとはどういったものだったんですか?

「楽ありゃ苦もあるさ年表」といって、自分がこれからどういう風に人生を歩んでいくかをマップで作るんですよ。紙の真ん中に線を一本引いて、「楽」と「苦」、要するにプラスとマイナスに似たようなもので二分して、それを波打つように年表を作っていくんです。

1週間〜2週間かけてそれぞれ1人ずつ作って。おっちゃんも作って、辞世の句まで詠んでました。メンバーの一人に飲食店をやりたいという子がいたので、その子の飲食店に皆で集まったという設定で劇をやりました。皆それぞれの設定があるので、アメリカに住んでいたら「ごめん、フライト遅れちゃった」というセリフを入れたりして。

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—— 一般的には、夢を書いたりプラスの部分だけに焦点を当てがちだと思うのですが、「自分はこういうところがあるからこういう失敗をしがち」と想定して、どう失敗を乗り越えていくのかまで考えるんですね。

そうですね。そこに書いた夢と今の夢は全然違うんですけど、それでも当時書いたことをもとに劇をやったっていうのが一つのいい経験だったなと思っています。それまでは、そこまで深く自分の未来を考える機会がなかったので。

—— 他にも印象に残っている風景はありますか?

「朝の会」で朝の8時から夕方の4時まで輪になって話し続けて、授業もなく1日が終わったこともあります。確か、遊んでいるときに車に轢かれそうになった子がいたんですよね。おっちゃんは「危なかったけどどうなったと思う?」とか「どうすればそれを防げたと思う?」といろんな生徒に話を振って、ほぼ全員が自分の意見を発言して。先生が一方的に話すってことは絶対にない環境でしたね。

たくさんの学校行事で、リーダーシップが鍛えられる6年生

—— TCSはたくさんの行事があり、特に6年生になると大変だそうですね。

6年生は、下の学年の子たちを見ながら学園祭や音楽会などいろんな場面で全体をコーディネートする役目を担います。受験準備がただでさえ忙しいのに、TCSは受験勉強を上回る忙しさでした。

まず5月の運動会では、6年生がリーダーとして下の子たちを引っ張りながら練習して、それとは別に5、6年生のチームでダンスづくり。加えて会全体をどういう運びでやるかまで全部決めなきゃいけません。

やっと運動会が終わったら、次の瞬間からテーマ学習の一環で映画作りが始まります。僕はリーダーで監督をしていたのですが、なかなかうまくできず苦労しました。10月の終わりには学園祭があり7月から準備を始めるのですが、僕はそっちでも副実行委員長だったので、同時進行で仕事が重なってそれはもう忙しくて…。

秋になると、子ども達で全部を計画する1週間の「探究旅行」があって、交通費と宿泊費などの予算内訳を計画書にして理事長に提出します。旅行のあとは、音楽会に向けたバンド練習。

テーマ学習の最後の発表の場である、卒業式のエキシビションの準備も始まります。通常のテーマ学習は先生が大きなテーマを決めますが、最後のエキシビションは自分の興味のあるテーマを深めます。

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—— 隙間なく1年間忙しいですね……!お父さんから「小さな時は引っ込み思案だった」と聞きましたが、いつのまにかリーダーの役割を担うようになっていったのですね。

ただ自分では、TCSにいた頃は周囲もそうだったので、それがすごいとか特殊とか全く感じていなくて。両親やいろんな人から「特殊な体験だね」と言われて、中学校に入ってはじめて「そうだったのかな」と思いました。でも、どういう風に特殊だったのかはやっぱり全くわからないですね。

—— ぜんぶ大変だったと思いますが、特に記憶に残っているエピソードはありますか?

運動会や学園祭など、下級生も含めてのイベントは大変ですね。

運動会だと「この子はあまり運動が得意じゃないからどういう風に練習させよう?」とか、「この子は特別にこの時間にフォローして練習させるから自分も行かなきゃ」とかがあるんです。

あとはキャンプも、屋外で活動するときは上級生が下級生を見なきゃいけない。安全面で危険な場合は先生が見てくれますけど、それ以外は任されているので、チーム内での問題は自分たちで解決しなきゃいけなくて大変でした。


先生というより友達?「先生という概念がなかった」TCS時代


—— 先生についてはどんな思い出がありますか?

先生は「先生」というよりも、いろいろ教えてくれる「友達」という感じが近かったです。とにかく身近にいるので、普通に友達としてしゃべりかけるというか。当時まず「先生」という概念がなかったので、あんまり深く考えたことがないんですけど。

—— 「先生という概念がない」ってすごいですね……今日1番の驚きかもしれません。卒業後も先生と会ったりはしていますか?

中1の2月に先輩と4人で、おっちゃんが住んでいる逗子に遊びに行きました。丸一日かけて逗子から鎌倉まで一緒に歩いて、山を登ったり川を渡ったりして。おっちゃんは神社が好きなので、立ち寄った神社についてあれこれ説明してくれたり、洞窟の中に入ってみたりしながら進みました。

TCSの頃にやっていたことをさらに少人数ですごく専門的に教えてもらった感じで、すごく楽しくてワクワクして帰ってきた思い出があります。

—— 卒業後も関係性が続いているのはステキですね。6年間で自分が変わったなという自覚はありますか?

下級生に対してどう接したらこう動いてくれるとか、この子には特にこう接するとか、人への対応の仕方は無意識に叩き込まれているんじゃないかと思います。

中学生になってから2年連続で音楽会の指揮者をやりました。はじめは指揮することに興味がなかったのですが、先生から「お前はリーダーシップがあるから向いている」とすすめられ、オーディションを受け、選ばれて。

音楽会の練習ではクラス全体を見て「この合唱パートの特徴はこうだから、こう声かけをしていけばいい」とか、「パートの上手なところをもっと高めるためにどう言えばいいか」など、各パートの強みを活かして伸ばすことを心がけています。

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中学受験は、得意のディスカッションと作文で合格

—— 中学校を受験することはいつ決めたのですか?

受験というものを全く知らなかったのですが、父と母に中学校受験について説明をされて「する?しない?」と質問をされて。どうするか自分で考えて、受験を決めたのが5年のGW頃です。

—— 塾に通ったりもしたんですか?

5年生から2つの塾に通いました。TCSは授業が終わる時間が遅めなので、集団塾の開講時間には間に合わなくて通えないんです。なので、渋谷にあった個人塾と、TCS生が何人も通っているおっちゃんの友だちの西荻窪の塾に通っていました。

西荻窪の塾は国語と理科はある程度普通の勉強をするんですけど、それ以外はそこ独自の教え方をしていました。受験のときは算数以外全部そこで教わっていて、今でも週1で英語に通っています。

—— 行きたい学校は自分でいろいろ探されたんですか?

母がすごく探してくれて、全部で19校も見に行ってくれました。僕も何校か同行はしました。条件はTCSみたいな学校、あと高校時代に1年間海外留学をしたいと思っていて、そのような留学制度を持っているところを探しました。

最初はTCSの先輩も通っているA校を第1志望にしていたんですけど、そのあと三田国際学園の説明会に行ってみて、学園長のお話がTCSと同じことを言っていて、やっぱりここがいいと思って第1志望に変えました。それが小5の秋です。

—— 受験はやってみてどうでしたか?

志望校は決まったものの、母は模試の結果を見て「絶対に入れない…」と思ったらしくて、三田国際学園よりも下の偏差値で僕が本当に行きたいと思える学校を探さなければって焦っていました(笑)。

そこからTCSっぽい学校をいくつか見つけてきてくれたのですが、どこに対しても気持ちが動かなくて。なにがなんでも三田国際学園がよかったんです。TCSに一番似ていると感じたから。とはいえ偏差値の低いところで1つ候補を見つけて、そこを滑り止めにして受験しました。

三田国際学園は毎日のように試験があって続けて受けられるのですが、僕は1日目から受けて毎日落ち続けていました。最後まで諦めずにやって、何とか最後の「21世紀型入試」の日に合格できました。

—— TCSと同じようなところで学びたい思いが強かったのですね。「21世紀型入試」はどういった内容の試験だったのですか?

次の年から一般試験と融合される形で廃止になってしまって、その年だけの試験だったので、他の人の参考になるかはわからないですが。

論文が二つ。それぞれ1時間で1,000字程度で述べる形式。。一つ目は自己表現で、もう一つは国語または理科の課題論述です。僕は国語を選択し、「クロという猫がいます」という1文をもとに小説を書きました。あと最後にグループディスカッションのテストがあって、5人グループで自己紹介したあとに「学校に必要なピクトグラムを作る」という課題でした。

TCSではよく作文を書いていましたし、そうしたディスカッションをいつもやっていて、ファシリテーションにも発言にも発表にも慣れていました。TCSのテーマ学習でピクトグラムを作ったこともあったんです。完全に自分の得意分野で、自分がディスカッションをまとめて試験は終わりました。

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科目の勉強だけでなく、「経験すること」が学び

—— TCSから中学校へ進学して、生徒の人数とかもぐんと増えたと思いますが、ギャップはありますか?

入る前は「大丈夫かな?」と思っていたんですけど、入ってみたら全然大丈夫でした。溶け込める力はTCSで養っていたみたいで、頑張らずとも普通に溶け込めました。

—— 今の中学でも、TCSで感じていたワクワクと似たようなワクワクを感じる瞬間はありますか?

指揮者をやらせてもらっているので、それはワクワクしますね。普通の授業でもグループで一つの作品、映画や映像や物語を作ったりする時間があったりしてワクワクします。また、例えば数学では遠近法を使って面白くてインスタ映えするような写真をチームで撮りなさいという課題が出て、そういう風に生徒だけで協力して何かをやるという意味ではTCSとつながっているように思います。

—— ちょっと抽象的な質問になりますが、Dくんは、「学ぶ」とはどういうことだと思いますか。

多分普通の「学ぶ」って国語数学理科社会とかだと思うんですけど、僕は「経験すること」なのかなと思っています。TCSでは本当にいろんな経験をさせてもらって、さらにそこから好きなように学んでいけて、それが自分にとっては大きな体験だったと思っています。いろんなことを経験することが好きですし、自然と学ぶことも好きかなって思います。

—— これまでの学びについて、ちゃんとご自身なりに考えていらっしゃるのだなと感じます。これからのことについては、思い描いていることはありますか。

目の前のことでいえば、高1の夏から1年間外国に留学に行くので、その土台を作るために、いまは英語を1番頑張りたいですね。

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まずは留学でしっかり英語を身につけたいと思っています。その次の段階で、自分がやりたいことを具体的に見つけられたらいいなって。将来についても具体的には決めていないですが、学歴ではなく個性的な人を採用している会社に入りたいな、いろんなことを経験したあとに独立して挑戦してみたいな、と考えています。

—— これからどんなチャレンジをしていくのか楽しみです。ありがとうございました!

(文:桐田理恵、イラスト:mao 、編集:田村真菜)

●Dくんのご両親へのインタビュー記事もぜひあわせてお読みください。




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