かくれんぼ
小学校にあがったばかりのころだ。
友だちといっしょに団地のまえの公園でかくれんぼをしていた。
かんぺきに隠れられたとおもった。うらをかいて、オニのスタート地点のすぐちかくに見つかりにくい場所を見つけたのだ。
考えていたとおり、オニはその場所を素通りして、とおくにさがしにいってしまった。しめしめだ。
オニは隠れていた友だちをどんどん見つけていく。みんななさけないな。
そうおもっていた。
みんなの声が聞こえた。
つぎはおまえの番だ、と。
いちばんはじめに見つけられたものを、つぎのオニになるのだ。
しかしそれは全員見つかったあとにすることのはずだ。
まだみつかってないものがここにいるのに。
ワナだろうか。あまりにうまく隠れてしまい、どうさがしても見つからないから、おびきよせるためのワナをしかけているのか。
そう考えていたら、みんながまた散っていった。そしてつぎのオニが数をかぞえはじめた。
その声には聞きおぼえがあった。
録音したり、ビデオをとったりしたときに聞こえる、自分の声とは微妙にちがう自分の声だ。
かぞえおわった。そしてそのオニがさがしはじめた。
誰をさがしているのか、なぜかわかった。
みつかったら最後だ。なぜかそうおもった。
息をすることもできなかった。耳をふさいで足音からにげようとしたが、すぐちかくを入念にさがしていることはあきらかだった。
わきの下につめたい汗がどんどん流れだし、吐き気がした。
ちかづいてくる。
目をつぶった。
心臓が破裂しそうだった。
見つけた。
そう聞こえた。
立ちあがって、どことか考えもせずに逃げだそうとした瞬間、べつの声が聞こえた。
見つかったかあ。ここいいとおもったんだけどなあ。
トイレの裏からななめに突きでているコンクリートの構造物は3個。隠れられるすき間は2個。隣に隠れていたものがべつにいたのだ。
でも、なかなかわかんなかったでしょ。ぼくが最後だよね。
そう言いながら、二人はスタート地点に歩いていく。そして、べつの友だちが数をかぞえはじめた。
みんながそれぞれの場所に走っていくのを待って、その場所から這いだし、すぐに見つかる場所に隠れるふりをした。
そして、すぐに見つけてもらった。
ほっとした。心底ほっとした。
その顔色のおかしさに全員がすぐに気づいて、かくれんぼはそこでおしまいになった。
その団地からは、そのあとしばらくして引っ越してしまった。
最近、偶然そこを通りかかった。
あのかくれんぼの場所だ、ということに気付いた途端、恐慌状態に陥ってしまった。
恐怖のあまり、目を伏せて、何も見ずに歩くことしかできなかった。
物陰、隙間、あらゆる場所が恐ろしかった。
あれは、きっとまだこの近くに隠れているのだ。
それを見つけてしまったら、何が起こるのだろうか。
全く予想もつかない。何か恐ろしいこと、ということ以外には。
もうその場所には一生近づかないと決めている。それでも時々恐ろしい。
物陰が。隙間が。忘れていた何かがふとよみがえる瞬間が。
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