家族

託児所で母を待っていたときだった。

母はなかなかむかえにこなかった。いつものことだから気にしなかった。

一人で積み木くずしをしていたとき、職員に呼ばれた。言ってみると知らない男の人がいた。

いつもはママがむかえに来るから、少しびっくりしてるんですよ。

その男は職員にそう言った。

その男の車がたどりついた家は、小さいけど全部の部屋を自分たちで使うことができて、一つの建物に一つの家族しか住んでいなかった。

そして子どももいた。初めて会ったはずの彼女は、自分のことをお姉ちゃんと呼びながら話しかけてきた。

女の人がおくれて帰ってきた。彼女は、ごめんね、と言いながら抱きしめてきた。

遅くまで仕事をしてきたはずなのに、それほどつかれているようには見えなかった。母のように、イライラしたり、上の空だったりしているようには見えなかった。

4人でご飯を食べた。みな、今日あったことについて楽しそうにしゃべっていた。

混乱して、何もしゃべれなかった。訊かれたことだけ、どうにか答えた。

そして、男の人と女の子と風呂に入り、知らない部屋で寝た。

次の日、いつもの託児所にまた預けられた。

今日はお仕事がんばっていつもの時間にむかえにくるから、まっててね。女の人はそう言って、笑顔で手を振りながら去っていった。

手を振りかえすしかなかった。

その日一日を、いつも通りすごした。みんなに迎えが来ても、ずっと一人で積み木を積み上げてはくずしていた。

夜も遅くなってから、母が来た。

つかれきってやつれていた母は、昨日のことについて何も聞かなかった。

こちらから聞くこともできなかった。考えてみれば、幼いころから、聞いていいことと聞いていけないことの区別に妙に臆病だったのかもしれない。

今でも思い出す。人込みの中に無意識に探してしまう。

あの家族のことを。あの父親のこと、あの母親のこと、あの姉のこと。

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