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デジタル人材って何だ?

本格的な寒さがやってきましたね。
今年の冬はコロナとインフルエンザが一度にやってくる、と脅されるので、ワクチン接種や感染対策に忙しい日々を過ごしています。
この冬を乗り越えて来年の春こそ、子どもたちがマスクなしの新生活をスタートできると良いですね。

さて前回までは、2025年から始まる大学入学共通テストの情報Iという新しい科目について、試行問題を見ながら新しい学びの様子を紹介してきました。
今回は、そうした動きの背景を見ていきます。

前回の投稿で、いま日本では「IT人材」の育成にチカラを入れているということを紹介しました。

似たような言葉に「デジタル人材(DX人材)」というものがあります。これは、"デジタル技術"を使い、仕事を通じて社会に「価値」をもたらす人たちのことを指します。
他に、AI人材という言葉もありますね。
何がなんだか・・という感じかもしれませんが、一つ一つの言葉の定義は世間で統一されているわけではないですし、実際の仕事の境界も曖昧なので、厳密に使い分けて理解しなくても大丈夫です。

参考までに、こちらの本ではIT人材とデジタル人材の違いがとても分かりやすく説明されていました。

『DXの教科書』を参考に加工

「IT人材」というのは、企業の情報システム部やIT管理部、○○システム、IT○○コンサルティング、といった会社に勤める人たちのことを指します。
具体的な仕事としては、アプリやWebサービスなどを開発したり、企業が社内で使うシステムを開発したりします。
元SEでいまはITコンサルタントとして働いている私も、IT人材の一人です。いわゆるIT系、と言われる仕事をする人たちのことですね。

一方、デジタル人材とは何でしょう?
用語の説明の前に、この図をご覧ください。
こちらの資料デジタル人材育成プラットフォームについて)によれば、なんと全国民がデジタル人材にならなければいけない、とあります。

『デジタル人材育成プラットフォームについて(2022.3)』より抜粋

この図がちょっと分かりづらいので解説すると・・
左側の△(トップ人材、システム設計できる人材、プログラマ)というのが、いわゆるIT人材のことです。
そして右側の△がそれ以外の全ての人です。
つまり、この2つの△の全てを足し合わせると「全ての国民」になります。
(ちなみに余談ですが、前回までに紹介したAI人材というのは、右と左の△それぞれに含まれることになるはずです)

IT人材が必要だ!育成しなければ!という話をしているときは左側の△の話で、デジタル人材が必要だ!というときは全ての△が対象になっている、というくらいの理解でまずは十分ではないでしょうか。

なお私が注目しているのは、青枠のところです。
ITリテラシーの基本的なことや、そのための思考に関することは、IT人材、デジタル人材問わず必要になるところです。
具体的に何か?というところはあらためて、少しずつ書いてみたいと思います。

ところでこの右側の△の人たちは、具体的にどういう人なのか気になりますね。
経産省のページを見ると、いままさに議論中だということが分かります。

「IT人材の育成」と書いてあるので混乱するかもしれませんが、中身は先ほどの左の△と全体の△の両方が含まれます。
(きっと・・以前はIT人材という言葉で語っていたものが、途中でデジタル人材という言葉に置き換わったのだろうな、と想像しています)

その中で、右側の△の人たちがもつべきスキルを定義しようとしているのがこちら。
デジタルスキル標準に関する取組状況について(2022.11)
専門用語も出てきて分かりづらいと思うので、読まなくても大丈夫です。
ざっくり説明しているこちらの図が分かりやすいです。

『デジタル人材育成プラットフォームについて(2022.3)』より抜粋

いま企業では、DX推進人材を争奪し合っている状態ですが、圧倒的多数は「ビジネスの現場でのデジタル技術の使い方の基礎」というものを身につけた「全てのビジネスパーソン」の方だと思います。

では、ここでいう「全てのビジネスパーソン」に期待されていることは何でしょうか?

ここで質問です。
パソコンやメール、Webサービスや社内のシステムを使って仕事をしている人はデジタル人材でしょうか?

答えはNoです。
電話の代わりにメールを、紙の資料を郵送する代わりにWebサービスを使っているだけ、なのであればデジタル人材とは呼びません。

では、何ができればデジタル人材になれるのでしょう?
例えば、ネットショップの注文を管理するこんな業務があったとします。

自社のネットショップで、1件の注文があった
→不明点があるときは個別にメールをして追加の質問をする
→注文内容と回答をExcel(受注管理表)へ記載する
→商品の発送担当へ、メールにExecelを添付して注文があったことを知らせる

たとえITツールを使っていたとしても、マニュアル通りにこなすだけの人のことをデジタル人材とは呼びません。
いま期待されているのは、この例のように非効率な業務を技術を使って解決する人です。

先ほどの左側の△にいるようなITの専門家でなくても、一般的なITリテラシー程度で解決できることは意外とたくさんあるのですが、そもそも意識していないと問題に気づくことすらできません。
そして、問題に気づいたとしても、不便を感じながらも受け入れてしまう人は多いと思います。
なぜなら、まさか自分で解決できるとは夢にも思わない人から。

いま企業で求めているのは、身の回りにある問題(不便や不満など不がつくもの)を見つけて、自ら解決に向けて動く人たちです。
しかも、身の回りで手軽に使える技術を使って。
先ほどの例を見て、こうすれば良いのでは?と思いついた読者の方は既にデジタル人材なのかもしれません。

ちなみに、デジタル人材に必要なスキルをどうやって身につけるのか?身近な技術って何なのか?と興味をもった方はこちらのサイトが参考になります。
デジタル人材を全国的に育成する仕組みとして、デジタル人材育成プラットフォームというものが2022年3月に開設されました。
動画で学べるようになっています。


さて、ここまででデジタル人材が社会的に求められていること、子どもだけでなく大人も含めて全国民の課題であることがお分かり頂けたと思います。
これから少しずつ、子どもたちが実際に学校で受けている教育についても見ていこうと思いますが、今回はその1つの例をご紹介します。

いま高校や大学がデータサイエンスの教育にチカラを入れているのは、令和元年11月に文科省が公開した『AI戦略等を踏まえたAI人材の育成について』の中で2025年というマイルストーンがあるからです。

『AI戦略等を踏まえたAI人材の育成について 2019.11』より抜粋
『AI戦略等を踏まえたAI人材の育成について 2019.11』より抜粋

大学共通入学テストに情報Iが必須科目として追加されたことは既に述べていますが、小学校、中学校、高校、大学といま、新しい教育プログラムが次々と生まれているのは全てこのロードマップに従ってのことなんですね。

大学や高専でのAI教育を底上げするために、文科省は認定制度を設けています。
『高等教育段階におけるデジタル人材育成の取組について 2022.9』

『高等教育段階におけるデジタル人材育成の取組について 2022.9』より抜粋
『高等教育段階におけるデジタル人材育成の取組について 2022.9』より抜粋

令和4年の認定結果はこちら
多くの大学や高専が、既に認定を受けていることが分かります。
ちなみに我が母校は掲載されていませんでした・・がんばってほしい。
(他にも、意外な学校が載っていなかったりしますね)

さて、高校の話に戻ります。
こうした背景をうけて高校での情報教育も見直されているわけですが、それは上の図にあるように、「理数・データサイエンス・AIの基礎的リテラシーを習得」することが目的です。
(先の△の図では青枠になっている部分)

前回の投稿で、とはいえ既に数学科で学んでいること、という話を書きましたが、それでもやはり、情報科の授業は専門的な内容になりますし、大学進学後のみならず、それが社会においてどう活かされるのか?といったところを教育の現場で、学校の先生だけで教えるということには限界があるのではないかと思います。

こんな記事がありました。

民間のチカラを借りなければ、そもそも教える側の人材が足りないことは明白です。
でも、ITやAIのプロだからといって、高校の授業で教えることができるか?というとそれはまたハードルが高いと思っています。
理由は、学校教育では体系立てた学習が求められるから。

民間企業では、問題解決に必要なスキルや知識をその都度身につけていくので、たくさんのことを知っていて、できるようになるけれど、それを体系的に説明できる人はめったにいません。
(それができる人は、自分のキャリアを書籍として出したりしますね)
なので、単に技術を知っている・使える、というだけで教壇に立つことは難しい・・どうするのか??
と思っていたら、知り合いからP-TECH(Pathways in Technology Early College High Schools)という活動を紹介されました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2620G0W2A720C2000000/?fbclid=IwAR3RX4Qd6wdbd91z0WHiHHfbI0KwvYzOdZyN7wEsqEBs4VAUtw2HFGungmE

「P-TECH」は米IBMが2011年に始めた官民連携の教育モデルである。高校と専門学校、短期大学などを接続し、5年一貫でIT(情報技術)人材を育てる。
目的は2つある。1つは同社が「ニューカラー」と呼ぶ新しい人材の供給。これはモノと情報が結びつき、製造業(ブルーカラー)と情報産業(ホワイトカラー)の境目がなくなる時代に対応する職域を指す。
もう一つは、様々な環境にある若者に革新的な教育機会を与えることだ。企業の社員がメンター(助言者)として伴走し、生徒の成長を支える。同社ホームページによると現在、P-TECHは28カ国240校以上に広がっている。
東京都教育委員会は「Tokyo P-TECH」事業として、19年度に都立町田工業高校で国内初の企業・専門学校と連携した5年一貫の教育プログラムの試行を開始。21年度から正式実施した。接続する進学先は日本工学院八王子専門学校。連携企業は日本IBM、シスコシステムズ、セールスフォース・ジャパンの3社である。

P-TECHの取組みはこちらが詳しいです。
Tokyo P-TECH (2021.10

『Tokyo P-TECH』より抜粋

IBMが28カ国で展開している教育モデルで、日本では令和3年度から、高校3年間+専門学校2年間の計5年間を1ターンとして、IT人材としての専門的なチカラを身につけられる仕組みです。

IBMはもちろん、シスコシステムズやセールスフォースといった海外の大手IT企業が参画しており、各社から社員がボランティアとして学生たちの学習を支援したり、カリキュラムづくりを支援したりします。

社員がメンタリングする様子はこちらの動画が分かりやすいです。

高校と大学、大学と企業、といった連携が活発になっていますが、こうして高校と企業という連携が増えていくと、学校現場は大きく変わるような気がします。

一方、学校現場に社員を派遣できるようになるには企業側の努力も必要です。そもそも、社員のデジタル人材化は進んでいるでしょうか?

『デジタル人材育成プラットフォームについて(2022.3)』より抜粋

図の赤枠は、いわゆる「リスキリング」のことです。
DX?デジタル化?なにそれ。若い人に任せておけば良いよね。
と他人事だと思っていると、恐らく数年のうちにこの△の外側に弾き飛ばされてしまいます。

そして、自分自身がそれを認識するのにそう時間はかからないと思います。
なぜなら、前回まで見てきたように、いま高校や大学の教育が大きく変わろうとしており、そうした教育を受けた子たちが数年のうちに社会へ出てくるからです。
彼らと一緒に仕事をするときになってようやく、我々大人(この数年で社会人になった大学生も含む)は気付くのかもしれません。
でも数年後だとちょっと・・時すでに遅し、かもしれませんね。

このnoteは、社会の動向を踏まえて企業や大学がどう変わっていくのかを見ながらも、小学生以下の子どもたちに対していま、学校や家庭でできることは何か?を考えることを目的としています。
そうした中で少しずつ、大人自身がどうあるべきかについても、書いてみたいと思います。
そんな話もまたいずれ。

次回は、都内のある女子校が始めた未来の教育について書いてみます。
ではまた。


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