都会でもまれたナスの歌

ナスは有り体に言って良い。

流線形ともいえる丸みを帯びたフォルムに、黒に近い紫。
ひんやりとした感触に、可愛らしいヘタ。

そんな彼らも、時には苦労をしていると聞いて、話を伺った。

すると、
「田舎のナスはどうやら大きく、強いものが多く、わしら都会で育ったナスは売り場で馬鹿にされんのよ」
というのだ。

「そりゃ、あなたの勘違いでないかい?だってほら、都会のナスも田舎のナスもそんなに形に違いはないでしょうや。そもそも都会ってどこのことなのよ」

ナスはむっとしたような雰囲気を出していたが、こちらからは表情の変化が分からないので、察しようもない。

「熊本のナス、見たことあるか?わしらとの違いが最も分かりやすい。見てみい。まず、大きさが違うのよ。これだったら、おぬしにもわかろうよ」

そう言って、奥の産直コーナーの方へ気を向けられた、ような気がした。

さて、件の熊本ナスを見てみると、果たして、大きかった。
のみならず、その堂々とした佇まいは、確かにただのナスではあるまい。
隣に、かわいらしい丸ナスもあったが、その対比が、より熊本ナスの大きさを誇示していた。

よくよく眺めてから、また元のナスのところに戻ると、彼はこういった。

「おぬしの顔をみて、あいわかった。違ったじゃろ?これが、圧倒的な差というもんだよ。特設コーナーが設けられているのも、うなずけるというもの。しかし、わしらとて、ただのナスにあらず。ナスとしての訓練を受けてきておる」

はぁ、とうなるしかなかった。
ナスとしての訓練など僕は聞いたことがなかったからだ。

「ふん。おぬし、、、納得いかんと言った様子。なに、早い話、わしを料理してみんさい。それで答えがわかる」

なかなかうまいセールスだと思ったが、その挑発的な文句に負けて、今日はマーボナスにしようと腹をくくった。

するとである。
私が買ったナスが、レジのお姉さんに値段を打ち込まれた瞬間、突如としてうたいだしたのだ。

これは滅多に無い事であろうから、引用しておこう。

ナースがきーたきーた!都会のナスじゃ♪
田舎のナスには、舐ーめられるけれど♪
わしの親父もナスじゃった♪
一族皆、ナスじゃからぁ~♪
そんじょそこらの、(バン!バン!謎の手打ち音のような音)
ナスに、あーらーずぅぅ♪

それからというもの、ナスはすっかり黙ってしまったので、マーボナスにしてしまった。

しかし、マーボナスというのは、勢い味が濃い料理であり、このナスの特殊性を感じるには至らなかった、というのが本音だ。

そう、これまで食べたナスと同じようであり、普通においしかったのである。

しょうがないので、またあの売り場にいって、ナスとの対話を試みるしかなさそうである。

実験道具を買うのに使います。目指せ!高性能オシロスコープ!